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パンデミックの渦中で人脈とは、を考えた

アメリカの主要メディアの1つウォール・ストリート・ジャーナルに興味深い記事があった。医師から転身した33歳の投資家、Dr. トム・ケイヒルがリーダーとなってアメリカの最たる科学者たちの知力と億万長者たちの資金を集めて新型コロナウィルスの感染を止める解決策をホワイトハウスに提案していた、という話。記事の見出しは "The Secret Group of Scientists and Billionaires Pushing a Manhattan Project for Covid-19 (新型コロナの解決策を推し進める秘密グループは科学者と億万長者)"。 

記事は新型コロナの解決策という直近の話題だけでなく、秘密グループ(もう秘密ではなくなったけど)の存在というちょっとミステリアスな側面、そして二間の賃貸アパート住まいのミレニアル(Dr. ケイヒル)がどのようにしてアメリカのトップ科学者たちの科学的知見を集めホワイトハウスに届けることができたのかというサクセスストーリー的な側面もある。英文ですが、興味があればぜひ記事を読んでみてください。17ページにわたる彼らが提出したリポートも読めます。

https://www.wsj.com/articles/the-secret-group-of-scientists-and-billionaires-pushing-trump-on-a-covid-19-plan-11587998993 via @WSJ

個人的にぐっと引かれたのはDr. ケイヒルの人脈の広がりかた。彼を始めリポートに参加したほかの科学者たちに経済的な利益はなく、彼らのモチベーションは自分たちの見識と人脈が州や連邦レベルの新型コロナウィルス対策に貢献できる機会を得ることだったと記事にある。その目的を果たすための資金調達と繋いでいく人脈のスケールが大きい!意外なのは、Dr. ケイヒルは医学生時代、衣服は大型量販店の安価なものでオッケーな研究の虫で卒業後も研究室で過ごすんだろうなあと自分で感じていた人。ところが友人との再会をきっかけに投資会社に就職、そこからライフサイエンス(生命科学分野)に目覚めて自ら会社を立ち上げたことによりアメリカの資産家たちの人脈が広がって成功、今回の新型コロナウィルス対策ではホワイトハウスに直接提案を持ち込むために本業を休んで、えーっ?!と思うような人脈を広げてきたのだ。もちろん彼の知性と才能がなければこうはならないと思うけれど、自分が持つ情熱の方向に向かって正しく進む重要さを改めて感じた。 今の時点では彼らのリポートが新型コロナウィルスにどれほど効果があるのかはわからないけれどFDA (食品医薬品局)はリポートにある忠告の中からすでに実行しているものがあるという。

私が大好きな90年代の映画に「Six Degrees of Separation」という作品 (邦題を調べてみたら『私に近い6人の他人』)がある。Six Degrees of Separationのコンセプトは地球上の人間同士の隔たりは6段階というもの。例えば私がアメリカ大統領と繋がりたいならまず知り合いにコンタクトをしてその知り合いからさらに誰かを紹介してもらって、という具合に人脈を繋ぐ人が5人いれば私でも大統領にコンタクトができるというわけ。映画の中でSix Degrees of Separationのコンセプトを知ったときは6段階で誰とでも繋がれるのか、と感動したけど今のテクノロジーの時代ではそれが半分、人によっては隔たりなんてまったくないのだと感じる。知能(それはアカデミックなものだけに限らない)と方法が正しければ自分が目指すものに思いが届く時代なのだ。

と、ここまで書いてなんなんだけれども、アナログなアプローチでも声が届くフトコロの深さがニューヨークにはあるということを先日改めて思った。カンザス州に住む70代の元農夫が現役時代に購入したN95(医師や看護師など専門職がつけるマスク)を自宅で5個見つけ、彼の家族の分を除いた残りの1つをニューヨークのクオモ州知事に送った。たった1つだけれど新型コロナウィルスの影響でマスク不足が深刻なニューヨークの医師か看護師に渡してくださいと託したのだ。手紙には知事は忙しくてこの手紙を読むことはないかも知れません、とあったがクオモ知事はその手紙を、途中涙目になりながら、定例の記者会見で読み上げた。元農夫の思いは手書きの手紙で知事に届いたのだ。そしてまったく元農夫が(私たちも)予想していなかったことも起きた。70年代、当時大学生だった元農夫は亡くなった父に代わって一家の生活を支えるために農家を継いだ。そのために単位が2つ足りず、彼が卒業できなかったことを知った知事が彼に名誉学位を授与するようはからったのだ。

人脈づくりのノウハウを知ることは大切だと思うけれど、それをいかせるかどうかは、少し野暮ったい表現だけれども、自分の気持ちが正しい方向にあるかどうかで変わってくるように感じる。パンデミックの中、特にそう感じる。人脈っていうか、人とどうつながっていくかということ。

ちなみに先に触れた映画「Six Degrees of Separation」では知的な魅力に溢れるアフリカンアメリカンの若い男性がニューヨークのハイソサエティに暮らす白人家庭に突然現れて人々を翻弄させます。彼の正体を突き止めようとお金持ちたちが人脈を頼って彼を探し出そうとしますがSix Degrees of Separationのはずなのにマイノリティの彼を見つけられないという皮肉なストーリーです。


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