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映画「オッペンハイマー」観てきました!

池袋のふつうの劇場で見ましたが、 ほぼずっと会話劇で、オッペンハイマーがずっと誰かにツメられているシーンが続きます。奥さん、愛人、聴聞会、教授、同僚、軍人・・・ノーランの映画だと、豪華出演者が廉価で出てくれるらしく、キャストが豪華です。長いのと、解釈しにくくできているので、何か他のことを懸命に考えたい人は見るとよいです。解説動画を片っ端から見る楽しさもあります。私は今、こういうことでも考えていないと、他人をゴリゴリに攻撃してしまいそうな状況にあり、見に行きましたw ありがとうノーラン!ありがとうビターズエンド! 仕事相手が新人同然の中国人だらけでメールが何言ってんのかぜんぜんわからないよーキィィ

聴聞会でオッペンハイマーをツメまくる検察官の役のジェイソン・クラーク氏、「ゼロダークサーティ」ではCIA職員の役で捕虜をバチクソに拷問してたのを思い出しました。3秒でどういう人かわかる熱演ぶりで出番がすごく長く感じました。

オッペンハイマーはナチスドイツより先に核兵器を作るという目標はあったものの、毒林檎といい女性関係といい共産党活動といい流されやすいというか場当たり的なところがあって、後になって回収するのが大変になる人として最後まで描かれています。ピカソみたいに完成を予想して上手に構成することができません。

そしてオッペンハイマーは原爆はナチスを打倒するためとか言って必死で人を説得して作り、ドイツが敗戦してからも絶対つくるマンです。ソビエトにも技術を渡さず、日本に原爆を使うこともはぐらかして賛成も反対もしませんでしたが水爆は自分の発案じゃないせいか開発に賛成しませんw 「自分はいいけど、他人がやるのはだめ」な人。まあ、昔はあれくらいの学者ならふつうに権威主義的だろうし、白人男性だし、モラルを問う前に笑うとこかもしれません。テラーを追い出さなかったのは、キャラが怖いけど自分より頭の切れる人物を自分の監視下におきたかったからに見えました。大気が引火して爆発するかもという仕組みはちょっと興味があって調べてしまいました・・・あとロシアのスパイほんとどこにでもいますねw

そしてそのテラーのいう「空気が全部引火しちゃうかも」というのはみんなが面白がって蒸し返すのですが、まあないだろうということになって実験が行われます。この適当さはけっこうミソで、実は予想のつかないものは予想もつかないのです。相談されたアインシュタインはヤバいことが起きる結果がわかっているのなら、この技術はナチスと共有しろなどと言いましたが、どういう感情なのかわかりませんでした。そんなに優しい人があなたらを迫害してたのか。しかしこれは、現在の状況を顧みる上でずいぶんな皮肉として効いていました。そしてこの実験で本当に空気にうっかり引火するなどしてとりいそぎアメリカから全滅してたらどうなってたんでしょう。ヤバすぎるんで核兵器は永遠にお蔵入りになり、なんとなく終戦ということにして平和が訪れたのでしょうか。いやいやないない。しかしそれもこれも予想のまま、「さすがになかったわ」ということになり、陽キャのファインマンさんはタイコをたたき、新兵器の登場をアメリカのみんなで喜びました。

描かれていませんが、ドイツに残っていた学者たちは原爆をわざと作らなかったと言われています。ドイツが負けるのがわかっていても、踏みとどまった人がいたわけです。ナチスというわかりやすい巨悪が近くにいるほうがそうなるのかもしれません(キリスト教圏だしな)。核開発の良し悪しを問う映画だったらこっちをテーマにしたほうが良さそうな感じもあります。

(そして、ナチスに使うということになっていますが、政治家のみなさんは日本にしか使う気がなかったこともこの映画では触れられていませんでした。オッペンハイマーだけを描いたから、描かなくていいということなんでしょうか。ちょっと屁理屈やないかいと思いました。)


鬼畜メガネ、トルーマンはうまいことやったなあと思いました。作るだけ作らせといて、レッドパージで脅してギリ許す。えらいものを作ってしまった、世界を変えてしまったと思っているオッペンハイマーに「使うのは私だ」と一蹴、思い上がりだとボコして後悔さえも奪ってしまいます。たぶん私でもトルーマンみたいに言ったと思いますw 誰が金だして開発許可だしてると思ってるの? 政治家だもの。

レッドパージに関しては、共産主義が簡単にファシズムに変貌するのをたくさん見てきたのでもっとやれと思ってしまいましたw 。共産主義は大恐慌後の時代ではもっともイケてる革新的な思想とされ、とくにファシズムに苛まれたユダヤ系の人の間ではインテリの嗜みとしてかじってる人がいっぱいいたのがよくわかりました。今だったらLGBTとかSDGsとかでしょうね。


連鎖反応なのか、ただの因果応報か

オッペンハイマーはストローズのことを卑しい職業と面と向かってディスっています。他の場面でも彼のことはあからさまにディスっています。物理に挫折したストローズに対するこういう姿勢がのちのちまで響いてくるわけですが、これを予想できず、思い出すこともできず、その後も結局ストローズに非礼を詫びたりもしませんでした。資産家をバカにするといえば共産主義なので(えっ)、当然の報いとも言えるかもしれません。

ヨメさんや周囲はそういうなんかくっだらねえことでストローズにはめられていることには薄々気がついていました。病んでる人はそういうことに敏感なのです。「戦いなさい!」 ヨメの演技は終始すばらしかったです。泣き喚く実子を友人にあずけるわ、元カノとつながってるわ、ヨメはオッペンハイマーのそんなクズなところを許しますが、ストローズはそうではありません。誰の地雷をどんな形で踏むかはわからんもんなのです。やりすぎたストローズもオッペンハイマーの後を追うように失墜していきます。


こちらが出来上がりとなります

核兵器が組み上がっていく様子はほぼ出てきません。要所要所で必要な人が集められていくのはわかるのですが、実験NGのオッペンハイマーは製造工程についてミリしらだったのか、描写がありません。ガジェットとアメリカの風景、ネタはよいはずなのにスゲー映像がない。ビー玉でモチーフ的に表現され、ある日料理番組よろしくほぼ出来上がった黒い大きいやつがドーンとでてきますw そうはならんやろ、理論物理ってそんななんでしょうか。オッペンハイマーの考えてたとおりのものだったのかどうかもよくわかんないまま、突然出てくるのでなかなかシュールです。「テネット」の謎ガジェットがそうだったように、これでイケることが見た目から全く表現されないのが核兵器の「予想できなさ」をとても地味に演出していました。地味すぎた・・・

そして実験後、彼が泣き叫ぶ自分の子供を自分から遠ざけたように、実験後に出来上がった原爆は軍がドナドナしてしまいます。ひょっとして、作戦に一言くらいは物申せると思ってたんでしょうか。ヤったあとで思ってたのと違うことになっていく彼の行動パターンが繰り返し出てきます。そんなに核兵器が嫌ならストローズにはめられておいて「核開発の罪を背負い」、核開発の現場を離れられることでホッとしてればいいのですが、ロスアラモスに呼ばなかったアインシュタインに賞をあげたりして、許されようとします。でも、現場に残れてたら、なんやかんやで彼が水爆を作ったんだろうなあと思います。テラーでなく彼に次があったら「ソビエトが水爆を開発してるかもしれないから」って言ったんじゃないかな・・・共産党シンパの嫌疑を晴らすのにもちょうどいいし。


謝ったら負け

昔は冷戦があって核戦争が身近な恐怖だったので、核実験で爆心近くに留め置かれた家畜が激しい爆風でちぎれるように焼けて死んでいくのを夏になると毎年のようにTVで見ていました。私は被爆二世で、多めに見てきたので、イメージ被爆シーンはナメてんなあとやっぱり思いました。知ってるから描けるはずなのに、娘さんを使ってかなりきれいめ処理されております。オッペンハイマーはよく知らないはずだから描かないんだってさ、、、爆風と放射線で髪が爆発して目ん玉とびでて、血便たらしながら腕の皮膚が焼けて手からぶらさがってるとか、うんうん怖いよね、そうだよね、、監督はそれでも親だもの、させられないよ。。。そこを描きたいのではないんだもん、、(強者であるために)残酷描写映画じゃないんだもん、、、エンタメなんだもん。、、、予算が、、、、だもん。でも核兵器はスゴイんだぞーー世界滅ぼしちゃうぞーー えっ?アメリカはミサイル防衛してるから大丈夫だもん----あらあらこんなに怯えて・・・どうしちゃったの。ほんとはもうちょっとやばいんだよ教えてあげようか(アメリカのこういう戦争に勝った国ならではの文化は結構好きです) 

オッペンハイマーは、ホワイトアウトしてくとこまでは何度も妄想するのですが、自分が黒焦げになってもしばらくは生きていかなきゃならないとこまでは考えつかないのがまあそういうとこだゾって感じでした。広島は被爆当日でも残ってるとこは電車動いてましたけど、監督はそういう即死できなかった人の謎の正常バイアスというかたくましさを想像できないタイプなのかもしれません。原爆が落ちても、一発くらいならがんばっちゃうし(二発でも日本において戦争継続の声は案外あった)、人々がすべての手をとめてこれまでの行いを悔い改め神に祈り始めたりもしません。第二次世界大戦、冷戦後の今を作っているのはそういう人と、考えだと思います。

追記;でもオッペンさんの全然懲りないだろうかんじ、FBIの監視をタテに日本に謝ったりもしなかったし、何度も黒焦げで死にかかってるのに、周囲やヨメはなぜか理解してくれて、助けられちゃう。それを期待してる。理論を持ってる人を手放せないからアメリカは自分を捨てない、そう思ってられること、これが彼の正常バイアスってやつなのかもしれないですね。


やっぱり絵がしょぼい

ロスアラモスでの実験に使われたのは長崎型でしょうか。実験装置は全体にかなり質素というか簡単な感じのもので、その威力が音で表現されていましたが、爆心から10キロくらい離れて見ていたらあんなもんでしょうか。ですが、ガソリンやガス的なものを燃やして撮ったのがちょっとわかりすぎたし、ダイナマイトを山盛りしたのと違いがわからないのがもったいなかったです。でけえトラックを前転させたり旅客機を倉庫につっこんでた監督なのになー。どうしてー。アイマックスで見たらもうちょっと良かったんでしょうか。たいがいの核実験映像は見ている冷戦世代なので、「テネット」のような斬新な視覚演出をちょっと期待していたのでした。爆薬によってプルトニウムが圧縮され、中性子が吐き出され、光の速さで連鎖反応が起きて大爆発が起きる、化学じゃないその革新的な爆発の仕組みをもうちょっとエエカンジに演出できていれば、その取り返しのつかなさが表現できたのになーとか思いました。威力をダイナマイト換算して予想してる弊害?しょぼいくらいが「しかしこれが予想外に」という演出?


音楽はとてもよかったです。ちょっと音多すぎ感ありましたが、マックス・リヒター系列のポストクラシカル?ホラー味もあって良かったです。


小ネタ
アインシュタインは雨粒がいくつも落ちてに水面にできる波どうしの干渉波を見ていたように思えました。二重スリット実験で有名なあの模様です。アインシュタインは確率三昧だった当時の量子力学をあんまり好きじゃなかったそうなので帽子が脱げたのかもしれません。シャッポを脱ぐとか言いますしね。


小ネタもうちょい
バガヴァッド・ギーターの引用はヴィシュヌですが、どたどたと足を踏み鳴らす音はシヴァ神の奥さん、カーリー神をなぞらえていたのでしょうか。シヴァは破壊と創造を司るインド三神(トリムルティ)の一人ですが、この怖い奥さんは怒ると足を踏み鳴らしてダンスを踊り、それで地球が壊れるのでダンナが下敷きになって破壊をふせぐとされています。オッペンハイマーの愛人だったジーンと彼の濡れ場が2度ありましたが、どっちも女性が上でしたね(笑)。ジーンはおそらく都合よく消されてしまったのでしょうが、黒焦げ死体を踏むのはオッペンなの。ちょい笑シーンでした。

「春の祭典」はストラヴィンスキーとロシアのバレエで有名なやつです。初演はあの映画の舞台から3-40年くらいは前になるのでしょうか。いろんなところで再演されていますが、あのころにアヴァンギャルドと呼ばれた、オリジナルに近いと言われているものが私は好きでYoutubeで何度も見ています。ロシアの寒村、土着の因習wをモチーフにしており、パっと見意味のわからん変な動きで重苦しい村の生活、苦痛、閉じ込められて狂っていく様が表現され、定期的に見てるくらいには面白いです。あれで生贄になるのは、周りについていけないトロい女の子です。舞台表現が好きな人はYoutubeでお探しください。笑えるけど、笑えない・・・


玉虫色の映画を作るのどうして

素朴に思うんですけどなんでこんなわかりにくくするんでしょう。意味あるんでしょうか。ノーランの芸風ではありますが、いろんなことが怖くてストレートに描けないだけなんじゃないかとふつうに思ってしまいます。ストローズに勝手に恨まれてたことをわざわざ多視点的、時間をずらして描いてスゴイ効果があったかというとそれも1回見ただけではようわからんですね・・・。ストローズがどういう人かもうちょっと描いてほしかったかなあ。

現代の核兵器

現代では核兵器を開発するのは難しくなくなってしまいました。西側とされている国からのスパイと密輸だけでイランや北朝鮮がたくさん保有できるくらいのものです。KPOPの人らがデビュー時にアメリカの気をひくために使ってもフーンくらいの感じでしたし、核保有の条約なんて守ってない国だらけ、北朝鮮ですらアメリカ本土は無理としても、小型核でハワイや日本の米軍基地は狙える時代になりました。ロシアが死体の山を築いてなんとかしたナチスじゃなくて、政治経済的に弱い国もいっぱい持っています。デカいとバレやすいので小型化し、そしてそれに対応する衛星監視とミサイル防衛、経済的監視が発展しました。今はたぶん、デカいのを一発使うのではなく、小型のをいっぱいミサイルに搭載して防衛ミサイルが当たらなかったやつが爆発すればいい、という方がトレンドのようです。実験場なんてすぐばれます。どんなちっちゃなやつでも使ったら、爆発しなかったとしてもめっさ制裁したろ、そんな感じでしょうか。ドヤるための大きい核兵器は意味がない時代なのです。AIが考えたとかいう核兵器で日本すぐ滅ぶシミュレーションなどもあります。つまり映画の時代とだいぶずれてきているように感じるので、「核が作られ、連鎖反応的に使われてしまう」怖さはぜんぜんピンとこないのです。冷戦のころは地球が滅ぶ危険が確かにありましたが「今更それこんな映画作ってまでいう?」が率直なところです。

しかし、いまだにロシアにびびってるの核があるからでしょう。核を捨てれば、そんな良心のようなものを信じて核を破棄したウクライナやリビアみたいになりたい国なんて北朝鮮を含めありません。しかし今って核もってるからって強いんか?そこも微妙なところです。報復で経済制裁と通常攻撃うけまくったら国ごと死にます。核のデカさを競ったり、オラつくのがカッコ悪くなっても、そういった形で核の傘の時代は続いていますが、なんで今その最初のできごとをさもセンセーショナルに描いちゃうのか未だによくわかんないです。


しょうじき私も「開発者のこととかもうどうでもいい」のでみんなもってるから(ここ日本的)日本もバチクソにミサイル防衛して核兵器を共有してほしいのですが、監督はたぶんそれも嫌なんでしょう。歴史で唯一核兵器を使った国は永遠にアメリカと邪悪なナチスから逃れた人たちだけになるといいとか思ってませんかねえ。そのワンアンドオンリー感に痺れてるのかな。テネットで描かれたガジェットは核分裂の仕組みだけを取り出したやつみたいな感じでしたが(爆発しても何も起きない)、これも使われないよう、アメリカとイギリスのみんなで隠しますし。この先もし何かが起きたときに備えて、難解な先端物理を駆使して開発して最初に使った私たちが苦悩したポーズだけはアインシュタインを巻き込んででも描いておこう。起きなかったらそれはそれで映画の効果。使うかどうかはアメリカがそうだったようにご自由にどうぞ。イギリス人の監督がこんな感じの玉虫色の映画にすることで、なんかそんな「最悪これくらいはやっとこう、あっちもこっちも言い訳フォロー」的下心wが透けるようで、おまえらまじ浅ましいのうと思ったりもしました。


変な話、原爆は戦争終結のために必ずしも必要ではなかった、東京も丸焼けにしたし、大量虐殺だったとして認めているような雰囲気の映画でもあったので、これがアメリカでたいして問題になっていないのなら日本はもっと被害者ムーブしてアメリカから国益のようなものを引っ張り出してもいいんじゃないかと思いました。こんなに怖がってるんだもの。上映料か円盤料か配信料のどれかを半額にしろとか私がユニバーサルの人間だったら言ってたかもしれません。いいじゃないか、それくらいさ。。。ふだんいっぱい映画も見てるんだからさ。。。友好友好!w


ちょうどこの前、岸田首相が訪米しました。そこで「アメリカはずっと孤独だったね★ずっとひとりで世界を支えてきたの知ってる☆自由は日本の国益でもあって、キミたちはひとりじゃない★☆★☆★」などといった演説をぶっており、笑ってしまいました。岸田さん広島県人だからある意味なんでも言えますもんね。こういう気持ちでいきたいと思いましたw


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