【小話】バッドエンドを望んでた
「待ってよ!」
「離して!」
突然大きな声が聞こえた白昼の人通りの多い繁華街。
若い男女が言い争いをしているようだ。
「なんで怒ってるの!」
「言ったってどうせ分からないからいい!」
どうやら彼女が怒ってどこかに行こうとして、それを彼氏が引き留めようと腕を掴んでいるようだ。
ここからでも見える。
私と友人は足を止めた。
「良くないから怒ってるんでしょ!」
「だから、いいってば!」
ヒートアップするカップル。
立ち止まる周囲の人達。
カップルは周りの熱い視線を受けて尚、盛り上がっている。
「いつもそうやって怒る! それじゃなにも解決しないよ!」
「だからもういい! 別れる!」
振られるのか? 彼氏。
私と友人は固唾を飲んで成り行きを見守る。
彼氏は深いため息を吐き、ゆっくりと口を開く。
「……別れるなんて、そんな悲しい事言うなよ」
先ほどより声は小さいが、周りの人達も静かに見ているので声は聞き取れる。
彼氏は悲しげに言った。
「確かに分からないよ。だけど、分かろうとする努力はやめたくないんだよ」
彼女の体がびくっとなったのを見た。
おお、ちょっと響いてるみたい。
「だから、一生かけて君のこと、理解していきたいんだ。……受け取って、くれない?」
彼氏はポケットからなにやら小箱を取り出して開けた。
流石に細かくは見えないが、サイズ的に指輪だろうと見当は付く。
彼女は泣きながら
「ごめん! ごめんねえ!」
と彼氏の胸の中に収まった。
彼女が指輪に釣られた瞬間、一斉にみんな舌打ちをしたのを、私は聞いた。
私も一緒に舌打ちをした。
周囲の人達が一斉に動き出す。
そういうのを望んでたんじゃない。
そうじゃないんだよなあと思い、私達も歩き出す。
あーあ、なんか面白い事、ないかなあ。
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