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【小話】タイムマシン

タイムカプセルを埋めようと思い、庭を掘ったら、タイムマシンを発掘した。

「子孫へ託す」と書かれた手紙に、操作説明書が添えられていたので、僕は早速未来の自分に会いに行った。

将来の夢は叶えられているだろうか。
気になるあの子と結婚できているだろうか。

ワクワクしながら時間の壁を越えた。

二十年後の自宅の庭は、さほど変わっていなかった。
あんまりうろうろして関係者に姿を見られると厄介なので、色んなものを見たい気持ちを押さえて、しげみに隠れた。
年相応に老けた父さんも母さんも出入りする中で、僕だけがいなかった。

夜になり、痺れを切らした僕はこっそり家の中に侵入した。
鍵は相変わらず植木鉢の下に隠されていたものを使った。
防犯意識はさほど向上していないらしい。

足音を忍ばせて、階段を一段ずつ上る。
ドキドキした。
未来の自分はもう実家を出ているだろうか。
それとも何か格好良い仕事をしているだろうか。

階段を上り切り、自室の扉をそっと開いた。

「遅かったね」

僕は自室の中で待っていた。
お世辞にも格好良く成長してはいなかった。
ただ二十年分老けただけ。
近況を聞いても、はぐらかす。
僕は僕の将来が余り明るいものではないことを悟った。

「それより、君の話を聞かせてくれ」

未来の僕は、僕に話をせがんだ。
僕は言われるがままに、今の学校生活の話をした。
部活も勉強も成績はいまいちだけど、それなりに苦悩して頑張っている。
大して面白くもないであろう僕のぱっとしない青春の話を、未来の僕は目を細めて聞いた。
時々、「懐かしい」とか「あったあった!」とか相槌を打ちながら。

ひとしきり話し終えた僕に、未来の僕は「喉乾いただろう」とペットボトルん飲料を差し出した。
それはこれまで飲んだことがない味で、とても美味しかった。
一気に飲み干した僕を見て、未来の僕は「若いなあ」と笑った。
その目のふちには、いつの間にか涙が滲んでいた。

「もう帰る」と言う僕に、未来の僕は「ありがとう」と言った。

「僕ももう一回頑張ってみるよ」という未来の僕の目を見て、僕は黙って頷いた。

僕はタイムマシンに乗って現在に帰り、改めてタイムマシンを埋めた。
「子孫へ託す」と書いた手紙も一緒に埋めた。

結局タイムカプセルはその横に埋めた。
『未来の僕へ 頑張れよ』という手紙を添えて。

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