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【小話】運命の悪戯

私は伝説の剣。

今日も選ばれし運命の相手勇者が現れるのを待っています。

私には世界を救う聖なる力が宿っています。
運命の相手勇者のみが、私をこの魔力の宿る地場所から解き放つことが出来ます。

これまで何度も挑戦者が現れましたが、私を解き放つことが出来ない未熟者ばかり。
私は柄に手をかけられるたびに期待し、そして落胆してきました。

まだそのときではない。
そう思い、私はずっと待ち続けているのです。

しかし、今、このとき。

私はこの人のために生まれてきたのだとはっきり分かりました。

とうとう本物の運命の相手勇者が現れたのです。

勇者が私の柄に手をかけました。

とうとう私のこの神聖なる力ちからが世界の役に立つときがきたのです。

私の剣身は喜びに震え、自然と光が零れます。
勇者が私を抜くために、手に力を込めたのがわかります。

さあ、運命の瞬間。

……あら?

きっと手違い。
勇者も緊張して、手が滑ったに違いありません。

さあ、もう一度。

……どうして?
どうして抜けないの?

私の運命の相手勇者は彼なのに。
間違いないと確信しているのに。

ああ、待って行かないで。

魔力を蓄えすぎて剣身が少し太くなったのは、私のせいじゃない。
私を待たせた勇者あなたのせいなのよ。

待ってもう少し頑張ってみて!

ああ……。
行かないで勇者あなた……。
こんなに魔力を蓄えて体積を増やして待っていたのに……。

せめてあともう少し、早く来てくれれば。

──私はそれ以来、魔力を蓄えること世界を救う準備をやめ、徐々に放たれた魔力栄養失調のせいで剣身はやせ細り、徐々に滅びようとしていく世界を見守っています。

きっと今の私は、相手が誰でも勇者以外にも抜ける体を許してしまうでしょう。
しかしこの剣身には、世界を救えるだけの蓄えはもうありません。

あのとき、もう少しだけ魔力の摂取食欲を我慢していたら。
私の剣身台座から抜ける程度美しい姿であったなら。

きっともう世界は救われていたことでしょう。

悔やんでも、悔やみきれません。

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