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【小話】時はもう戻らない

すれ違った瞬間、振り向いた。

彼だ。

私が大好きだった人。
大好きだったから、「私といると、あなたは駄目になる」と別れを選択したのだ。

仕事もしなくなって、私が養っていた彼。
別れ際、「君がいなくなったら、生きていけない」と泣いた彼。

彼も私に気がついたようで、振り返って目があった。

一瞬、時が止まった。

そして時が動き出した時、私の隣にいた新しい彼と、彼の隣にいた新しい彼女が「知り合い?」と聞いた。

私はもう振り返らず「んーん。知らない人」と答えた。

新しい彼女よりも私の方が可愛いのに、勿体ないことしたね。
彼よりも今の彼の方が格好良い。
そうやって、自分に言い聞かせるくらいには、彼のことが好きだったみたい。

だけど。

後ろを歩く元彼が「ああ、元カノ」と返事をして、彼女が「えー私の方が可愛いじゃん!」と言うのが聞こえた。

鏡見せてやろうか、と殺意が湧いた。
今彼の手を強く握りしめた。

くそー。あんな女を選んだこと、後悔しろ。
今までの彼の美しい思い出は消え去り、地味な不幸を願った。
そして内心で舌打ちをした。

綺麗な話で、終わらせろよ。

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