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ちょっと昔に西京極へ京都サンガを観に行ったときの話。はーとぽっぽ。



西京極運動公園を歩いていた。


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少し鄙びた、懐かしい雰囲気の公園だ。

時折、とんでもない速度で走ってくる人とすれ違う。

健康のためのジョギングではなく、競技として走っている選手なのであろう。時速は20 km/h以上出ているだろうか。とにかく速い。怖いくらいに速い。

高速ランナーとすれ違いながら散歩を続けると、紫色のユニフォームを着た親子がサッカーをしていた。紫はもちろん、京都サンガのチームカラーである。横目に見ていると子供がキックミスをしたようだ。ボールが転がってきた。

勢いのあるボールであったが、うまく足でいなして止めることが出来た。風間八宏氏の「止める、蹴る」がテーマのDVDを、穴が開くほど見返して練習した成果がこんなところで活かせるとは。

その瞬間、後ろから「ナイストラップ!」という低いしわがれた声が飛んできた。振り向くと、青と銀のギラギラしたスカジャンを着込んだおじさんが立っていた。どうやらアウェーまで応援に来たモンティディオ山形のサポーターのようだ。

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2014年4月、桜の咲く頃に京都サンガのホームスタジアムを訪れていた。

通称は「西京極スタジアム」であるが、正式名称は「京都市西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場」と非常に長い。ひらがなにすると……
「きょうとしにしきょうごくそうごううんどうこうえんりくじょうきょうぎじょうけんきゅうぎじょう」と45文字もある。いかにも昭和の役人が付けた名前である。

京都サンガを訪れたのは、前年の2013年12月8日に、J1昇格プレーオフ決勝を見たからであった。その時ぼくは渋谷からタクシーで国立競技場へと向かっていた。Jリーグ苗場支部というフジロックフェスの会場でユニフォームを着て集まり、浦和サポだけがブーイングされるイベントがあるのだが(という噂を聞いた)、その打ち上げに招待されていたのだ。

2013年は、Jリーグ初観戦から一躍時の人のようになっていたので、色んなところに呼ばれたものだ。今はあまり呼ばれなくなってしまったのだが、飲み会やイベントには気軽に顔を出すので是非お声がけ頂きたい。閑話休題。

さて、渋谷で時間を使いすぎたこともあり、2013年は今に比べるとはるかに財政事情が良かったこともあり、タクシーを使った。今なら必死に走る。

運転手に「今日は国立で何かあるんですか?」と聞かれたので、京都と徳島の試合があることを伝えた。

「京都ですか? 京都のサッカーチームと言えばカズがいるところでしょうか。」

こんな言葉が返ってきた。そういえばそうだった。京都にはカズこと三浦知良選手が在籍していたのだ。当時はサッカーにはあまり関心がなかったのだが、ニュースで見た記憶がある。といってもそれは15年前くらいのことだ(ということはこれを書いている今から20年くらい前か)。

それだけ昔のことでも覚えている人がいることにも驚くが、逆に言うと、そのくらい遡らないとJリーグは「みんなのもの」ではないのである。Jリーグクラブの動向は、サッカーファン以外の話題になることは滅多にない。

例えばぼくは大学院のサッカー部に4年間も在籍していたのに、Jリーグの話題になった記憶がない。サッカーの話題といえば、日本代表とか、せいぜいレアルやバルサくらいのものだった(これは5年前の感想だけど、今でもそれほど状況は変わっていないように思う)。

さて、今は失われた旧国立競技場での決戦において、京都サンガは破れ、徳島ヴォルティスが歓喜に踊った。天国と地獄というニュースの見出しがとても印象的であった。それから約4ヶ月後、長居で大阪ダービーを観戦した翌日に、京都を訪れることになったのだ。


長居で試合を観戦した後、梅田のネットカフェで一晩を過ごした。

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起きてから西京極駅への移動経路を調べてみると、案外簡単であった。宿泊している梅田駅から、「阪急京都線」の直通電車があったからだ。借宿を飛び出し、地下迷宮を抜けて電車に乗り込むと、1時間ほどで西京極駅へと到着することが出来た。

降りてみると驚くほど小さな駅であった。名前のイメージから、もっと大きな駅かと思っていたのだ。駅前には小さなロータリーとコンビニがあるくらいで他にめぼしいものはない。


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少し歩いて公園に到着し、入り口の案内図を見る。サッカーの試合を行う陸上競技場だけではなく、「わかさスタジアム京都」という野球場があるようだ。


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敷地内にはアリーナもあって、こちらはバスケットボールチーム京都ハンナリーズの本拠地となっている。少し離れて京都アクアリーナという水泳やアイススケートの競技場もあるらしい。よく見ると陸上競技場のサブトラック(補助競技場)もあるので、新国立競技場よりも格が高い大会が開けるのかもしれない(新国立はサブトラックが仮設、五輪後に撤去)。どうやら西京極は、スポーツ施設が集中しているエリアのようだ。

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公園の中を少し行くと、テントがいくつか出ていて町会のお祭りのようであった。まず目に入ったのが、「ネコのしっぽ」という焼きたてパンの販売テントであった。味のバリエーションがいくつかあるようで「定番にゃんこ1番売れてます チーコちゃん シュガー味」などと書かれている。季節限定日替わりにゃんこの「桜餡入りのサクラちゃん」というネーミングには非常に惹かれたのが、甘い物が欲しいタイミングではなかったので別の露店を探すことにした。

こちらのお店は京都・亀岡で移動販売をしているとのことなので、新スタジアムでもめぐり会えるかもしれない。「ねこのしっぽ

いくつか露店を回って、結局購入したのは牛すじ煮込みであった。「京都寿の牛すじ煮込み 秘伝のみそ味」という売り文句に負けた。

「牛すじ煮込み一つ下さい。」

「はいよ~。今日は天気がいまいちだねぇ。」

「そうですね。降らないといいんですけど。」

「たっぷりよそっておくからね!」

露店の兄さんは嘘偽りなく「たっぷり」と入れてくれた。そして、煮込みの上に九条葱もこれまた「たっぷり」と乗せて渡してくれた。

「あ、生ビールも一杯お願いします。」

「はいよ!」

煮込みがあまりにうまそうだったので勢いでビールを注文してしまった。しかし、荷物が多くて両手が塞がっていて、ビールと煮込みをうまく受け取れなかった。スタジアムの周りをうっかり歩いていると謎の手提げ袋をたくさん渡されてしまうのだ。一旦荷物を置いて整理しないとビールが受け取れない。

「ちょっと持ってようか?」

露店の兄さんはブースからわざわざ出てきて、荷物を持ってくれた。余計なものを鞄の中に投げ入れ、ビールを受け取る。礼を言うと、爽やかな笑顔が返ってきた。はーとぽっぽ。

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少し離れたところにある石の階段に座って牛すじ煮込みをつつく。結論から言うと、大当たりであった。

重厚な出汁の味わいと共に、くっきりとした砂糖の甘みがついていた。甘いといっても甘すぎることはなく、濃厚な旨味を感じる。その上にシャキシャキの九条ネギと七味唐辛子が彩りを加えている。絶妙なバランス感覚に思わず唸った。流石京都である。

一般に露店で売っている煮込みは、もっと大雑把な味がするものだ。九条葱がとても美味しい。新鮮な野菜が持つ鮮烈な甘みが感じられ、噛みしめるとシャキシャキという音が聞こえた。

食べ終わってゴミ捨て場を探して歩き始めると、「こっちで捨てておきますよ」とさっきの露店の兄さんが声をかけてくれた。はーとぽっぽ。

入り口のゲートへ向かう。チケットのもぎりをしてくれたのは、高校生くらいの女の子であった。ニコニコしながら「こんにちは」と挨拶をしてくれたので、少し良い気分になった。はーとぽっぽ。

少し後で、一度外に出てから、再入場するときにその女の子の前を通過したのだが、その時にこう言われたのである。

「お帰りなさい!」

はーとぽぽぽぽぽぽ!!

天気は悪いし、西京極公園は古めかしいのだが、人の温かさがとても気持ちがいい。まさしく「ホーム」である。

マスコットが歩いているのを見つけた。

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パーサくんとコトノちゃんという鳥のマスコットである。モチーフになった鳥は何だろうかと考えたものの、日本に生息するものにはいないような気がする。京都サンガホームページを調べてみると「聖人が世に出る時に現れる鳥“鳳凰”と永遠不滅の象徴である“不死鳥”がモチーフとなっている」と書いてあった。京都らしい荘厳なマスコットである。

パーサくんは男の子で、コトノちゃんは女の子。

コトノちゃんは先行するパーサくんの少し後ろを歩いていた。そして、コトノちゃんがぼくの隣をすれ違った時である。

彼女はぼくのほうを向き、じっと目を見た。そして、少し首をかしげて、小さく手を振った。

ぼくは一瞬ドキっとした後、思わず満面の笑みになって手を振り返した。何だろう。このときめきは何だろう。今まで味わったことがない感覚だ。何だか優しい気持ちになった。心がポカポカする。これがはーとぽっぽなんだ。優しさは京都にあったのだ。

ぼくは、少し遠巻きに二人のマスコット後ろを歩いてついていった。町会のお祭りのような露店が出ているエリアに入ると、鮮烈な赤色をしたパーサくんとコトノちゃんはとても目立つ。試合を見に来たお客さんに手を振ったり、写真を撮ったりしながら、二人は練り歩いていく。通った後には、幸せそうな笑顔が残っていた。


お読み頂きありがとうございます。以降は有料コンテンツとなっております。この後は、京都慕情からの西京極競技場レポートです。著者の感じた素顔の京都をお届けします。

OWL magazineは旅とサッカーをテーマにしたウェッブ雑誌で、月あたり15本以上の記事を掲載しています。月額料金は700円ですが、一記事あたり50円以下です。

来年は京都府亀岡に新スタジアムも出来るので、京都への旅記事も掲載したいと思っています!!どこへ行こうかな。楽しみです!



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