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【短編小説 ルチアーノ -白い尾のオナガ- 8】Wimpy Monster 弱虫モンスター

8 Wimpy Monster 弱虫モンスター

仲間のいる森が見えてきた。
嗅ぎ慣れた空気を目一杯吸い込んで、ルチアーノは翼に力を入れ直した。するとまたカワセミにもらった羽が落ちて、ふわふわと宙を舞い、風に巻かれて遠退とおのいていった。

ルチアーノは仲間の前に降り立つと、得意げに尾羽を見せた。
「随分と珍妙な尾羽だな。その青は濃すぎるし、長さも足りない。黄色は余計だ」
ティランノの乾いた品評が、辺りをしんとさせた。
青い羽はそのうち自分のものになるんだというルチアーノに、お前はいつもおかしな事を言う、気味の悪い奴だと、取り巻き達もいぶかしんだ。後ろからそっと近づいた取り巻きが、ルチアーノの青い尾羽を摘まんだ。するりと抜けた尾羽に、ティランノの目が鈍く光った。
「また偽物じゃないか! 何度も騙すなんて酷い奴だ。そんなものはさっさと外せ。外さないなら、むしり取ってやる」
ティランノの声を合図に、取り巻き達が一斉にルチアーノに飛びかかった。青と橙の小さな羽を次々に引き抜き、どさくさに紛れて白い尾羽までブチブチとむしり取った。
「やめて! 痛い」
ルチアーノはキューイキューイと悲鳴をあげた。
「なんだその声は? オナガのくせに俺たちのように鳴けないのか?」
ティランノはルチアーノの首根っこめがけて爪を立てた。
「鳴けないようにしてやればいいさ。お前が悪いんだ。俺達を騙そうとしたんだからな」
取り巻き達がルチアーノの喉をくちばしでつねり出した。
ルチアーノは蹴って、はたいて、何とか取り巻き達を払いのけ、よろめきながら飛び立った。
「見ろよ。尾羽がスカスカで、あいつ真っ直ぐに飛べやしない。あれじゃあ、だめだ」
ティランノはヒンとくちばしを歪め、取り巻き達はげらげらと笑い転げた。
「それにしても、この羽を見て見ろ。前よりずっと白くなっているじゃないか。羽の先なんか、透き通っていやがる。なんであいつばっかり」
ティランノはむしり取った尾羽をつつき続け、とどめとばかりに折り曲げた。
「それに、あのよく通る鳴き声は何だ? 気に入らん。何から何まで気に入らん」
折れ曲がった尾羽を尚も踏みつけるティランノに、取り巻き達は首の羽をぞわりと逆立てて後退あとずさったが、睨みつけるティランノにびくりとして、あたりに散らばったルチアーノの尾羽をつつき始めた。
「だが、あれだけやられたんだ。もう戻ってこないさ」
自慢の尾羽を奪ってやって、喉も潰した。俺達はもう恐れることなど何もないと、高笑いを響かせるティランノの赤く濁った片目の奥で、かすかに何かが震えていた。

潜っても 潜っても 青い海(種田山頭火風)