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【短編小説 ルチアーノ -白い尾のオナガ- 5】Fellow 仲間

5 Fellow 仲間

すっかり日は落ち、雨足が強くなり始めた。
ルチアーノは大きなくすの木に降り、一夜を過ごすことにした。尾羽に残っていた泥を振り落すと、空しさだけが残った。疲れと肌寒さで重くなった瞼を閉じ、幹に頭をもたせかけた。葉に打ちつける雨音に混じって、鳥の羽音が聞こえてきた。羽音はどんどん増えながら楠の木に近づいてくる。眠気はすっかりどこかにいって、ルチアーノは幹に張りついて息を潜めた。いよいよ迫る羽音に身を縮め、これまでかと目を閉じた。
 
ポポポ。クルッポ。
 
鳩の群れだった。
「ここ、いいかしら?」
身構えるルチアーノの横にとまった鳩が、呑気な声で聞いた。明日の朝までここにいるだけだと伝えると、それなら一緒ねと体をゆすり、鳩は濡れた羽を膨らませた。
「みんな違う模様だけど、仲間なの?」
ルチアーノは、鳩達を見回した。
「そうよ。鳩は鳩だもの」
「僕、尾羽が白いせいで、群れから追い出されたんだ」
「なんてことかしら! ほら、隣の枝を見てごらんなさいな」
見ると、つがいいのムクドリがせっせと毛繕いをしている。
「あの夫婦も、いつの頃からか私達と一緒よ」
「気にしないの?」
「鳥は鳥よ。あなたも一緒に来たらどう?」
鳩の誘いに、ぽんと気持ちが跳ね上がったが、住んでいた森を思い出すとそれもすぐに沈んだ。
「父さんと母さんが帰ってくる前に、森に戻っていたいんだ」
「あなたがそう思うなら、そうするのがいいわね」
鳩はそれ以上何も言わなかった。
その晩、ルチアーノは鳩の群れの中で眠った。グルグルルと、時々聞こえる低くこもった鳩の声が子守歌のようで、ルチアーノは深い眠りに落ちていった。
 
山の向こうから顔を出した日の光で目を覚ました。
ずいぶん前に起きていたと言う鳩達は、今日の朝食はどこへ行こうかと相談を始めていた。一緒に来ないかと念を押されたが、ルチアーノは首を横に振った。
「いつでもいらっしゃいな」
鳩はそう告げ、餌場を目指して慌ただしく楠の木を後にした。

潜っても 潜っても 青い海(種田山頭火風)