『ヒツジヒツジ』感想
吉田羊さんのフォトエッセイ『ヒツジヒツジ』(宝島社)を発売日に購入した。
商品説明はこちら
https://tkj.jp/book/?cd=TD028723
着物が好きで販売にも携わったことがあり、約5年のあいだ日常に着物という存在があった自分にとって、公開された書影の雷門の前に立つ羊さんのコーディネートに、
「きっと同じ楽しみ方をしているに違いない」とシンパシーを感じた。
そして、この予感は非常に的中していた。
翌日は浴衣ででかける予定があったので持参して
一緒に遊んだ友達に鼻息荒く普及した。
吉田羊さんの着物の楽しみ方は、
着物や帯に込められた遊び心を、軽やかに受け止めて自分らしく表現している。
この一言に尽きる。
行き先に合わせて、草履をあわせた「きっちり」とした着こなしをしたり、180°方向性の違う、ブーツやインナーをブラウスにした洋装ミックスのコーディネートをしたり、とにかく着こなしを楽しんでいる。そして、すべてが洗練されていてお洒落。
花柄、幾何学模様、和柄...歴史を重ねて多様に表現されてきた着物たちを、現代のエッセンスを加えて楽しむことで、表現が正しいかわからないが「洋服のように」それぞれの景色に馴染むコーディネートに仕上げている。
レトロなのにモダンという、相反した言葉がよく似合うと思う。令和における着物の楽しみ方の醍醐味の一つを、羊さんのセンスもりもりでこれでもかと披露してくれていた。
また、羊さんは"アンティーク着物"を愛されているので、選ぶ色合いの華やかさをうまく小物で調整していたり、着丈の短い部分を「対丈(男きもののように、おはしょりを作らずに気付ける方法)」で着ていたり、色味をあわせたタイツを見せながらパンプスを合わせたりと、"軽やかに"着こなしていた。
ヒツジがぴょんと柵を越えるように、当たり前のように、軽々と着物と帯と小物とを組み合わせている。それが羊さんの自然なことなのだということがありありと伝わるのだ。
全てご自身でコーディネートされたというのも素晴らしい点の一つで、シチュエーションごとにコーディネートががらりと変わるのに、どこか統一感があって「羊さんの趣味」が垣間見えるのがとても面白い。
この令和に、着物に興味をもつすべての人、
なかでも着物をこれからはじめてみたいと思うすべての人の背中を押す、とてもとても素晴らしい一冊だった。
『ヒツジヒツジ』を読んだ者はみな、着物が着たくなり、「"私"の着物史」を語りたくなるのではないだろうか。
少なくとも、私はそうである。
せっかくなので、私の着物との出会いについて書こうと思う。
2009年、何の変哲もない公立高校の普通科で過ごしていた2年生の夏、
唯一自由に出入りできる、クーラーの効いた学校の図書館で『KIMONO姫』という雑誌を見つけた。
(ファッション系の学校ならまだしも、図書館にKIMONO姫がある普通の公立高校って稀有だと思う)
創刊号からvol.8まで、当時刊行されていたものがすべてそろっていた。
たしか初めて手に取ったのは、蒼井優さんが表紙だった浴衣特集だ。
着物といえば、七五三や浴衣で見かけるくらいか、『はいからさんが通る』の紅緒が着ていたなぁという程度の知識だった当時の私は、
着物ってこんなに可愛いの?!と度肝を抜かれた。
想像を超えるカラフルでユーモアあふれる図案の数々に、胸が躍った。
KIMONO姫には、『ヒツジヒツジ』で吉田羊さんが楽しんでいるような、
とにかくお洒落でかわいい着こなしのオンパレードで、しかもありがたいことにどこにいけばそういった着物が売っているかを事細かく(価格帯まで)載せてくれていた。
すっかり魅了された私は、いつかアンティークの着物を着てみたいと憧れを募らせた。
すぐに着物を手に取る機会は訪れず、高校の卒業式に、はじめて自分で選んだ着物を着た。
はじめての着物を購入したのは、原宿にあった「Tokyo135°」と「大江戸和子」
(どちらも今は閉店してしまった)
「KIMONO姫」に感化された私は、明治大正の書生のような袴コーデに憧れて
お召の着物に男袴、中には詰襟風のブラウス(これも原宿のKINJIで買ったもの)と「HANJIRO」で買った編み上げのブーツという当時のあこがれと勢いだけでやりきった、ルールもめちゃくちゃの、片腹痛い格好だ。
それでも、こうして今に続く着物との縁のはじまりとして大切な思い出になっている。
「誂えが必要な高級なもの」「ルールが細かくてややこしそう」みたいな従来の固定概念すら確立する前に「KIMONO姫」と出会った私は、
それ以降も、とにかく雑誌みたいに素敵な着こなしをしたみたくて着方を見よう見まねで真似したり、
予定も、着物友だちもいないのに「いつか」を想像してアンティーク着物屋を見かけては飛び込んだりしていた。
その数年後、着物販売会社に就職して、
日常着として着物とかかわることになるのは、また少し先の話である。
離職、出産を経た今は、
着物のほとんどを実家の箪笥に置いてきて、たまの休みに着て楽しんでいる。
機会は減っても、むしろその一日に向けて、行きたい場所やテーマを決め、コーディネートを考えるのがとてもとても楽しい。
子どももいつか一緒に着られたらいいなと思うが、押し付けたくはないので、一人でも勝手に着続けようと思う。おばあちゃんになっても、必ず。
レンタルでもいいけれど、頭の先からつま先まで、自分の好きなものを身にまとう喜びは着物以外では感じられない特別な感情だ。
あの時、一冊の本との出会いが私の着物人生の指針となってくれたように
『ヒツジヒツジ』でたくさんの人が、着物とより身近になれるきっかけを掴むのだろうと思う。
私が願わなくても、絶対そうなると思う。
なので、まだ読んでないあなたに向けて、『ヒツジヒツジ』を全力でおすすめします。
そして、いつかどこかですれ違いましょうね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?