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【完全保存版】 情報と知識の体系化のためのリサーチデザイン|すべてのリサーチに通じる探究の手法

情報が溢れる社会では「情報と知識の体系化」が求められます。

特に僕がいるAR/VR業界は日進月歩で技術が多方面に進化しています。

そのような大量の情報や知識を把握するためには、適切に処理するためのリサーチのデザインが求められます。ということで、このnoteではリサーチデザインの101としてリサーチの手法をご紹介したいと思います。

実は以前にもこのようなリサーチデザインのnoteを書いていました。
(よければこちらも覗いてみてください!)

以前のnoteは「リサーチデザインをどのようにプロジェクトに活用するか」という観点から書いていました。

今回はよりリサーチデザインのプロセスにフォーカスを当てて、リサーチデザインの進め方とその実践を紹介していきます!

0 - PROCESS|今回取り組むリサーチデザイン

このnoteで説明するリサーチデザインの手法は、リサーチデザインのすべてを網羅するものではないですが、すべてのリサーチデザインで共通して活用できるものです。

リサーチのスコープの設計からリサーチのモデルの構築、そして仮説検証を行うためのリサーチ。すべてのリサーチデザインで共通するこの流れのご紹介をできればと思います。

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1 - SCOPE|リサーチの「スコープ」を設定する

リサーチに取り掛かる前の最初の準備は「リサーチのスコープの設計」です。対象となるテーマに対して特定の観点・見方を設定し、リサーチを行う際のテーマの捉え方の認識を定義します。これはリサーチデザインを研究している田村正紀さんの「構成概念」から発想を得ています。

構成概念はその強調点に基づいて、分析対象のどのような側面が重要か、各側面のどのような関連様式に焦点をあわせるべきかを支持する。構成概念は研究対象の現象の本質、あるいはその現象を動かす基本的なエンジンに深く関わっている。(リサーチ・デザイン:田村正紀【著】)

僕はこの構成概念を個人的に使いやすいようにカスタマイズを加え、「リサーチスコープ(Research Scope)」という名前で呼んでいます。

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1.1 - リサーチのスコープとは?

Research Scopeとは、対象となるお題に関して「リサーチの範囲」を設定し限定することです。フワついたテーマをグッと引き締めるイメージです。

これはこれから行う仮説設計のベースとなり、調査を行う範囲を広げすぎないために重要なフェーズです。また同時に、リサーチのテーマを適切に捉え、リサーチ全体の方向性を規定する準備フェーズでもあります。

僕はこのResearch Scopeを以下のように考えています。

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リサーチの範囲を絞るためには、そのリサーチの対象となる「Topic」とそれを目的に合わせて適切に認識するための捉える切り口「Approach」が必要になります。この2つを明確にすることで、リサーチの焦点(Scope)を定めていきます。

例えば、「物体認識技術」と言われても、範囲が広すぎてリサーチのしようがありません。(もしくは莫大な量のリサーチになってしまいます。)

その理由は、この依頼では「Topic」しか共有されていないからです。
そこで考えるべきなのが、理由にあたる「なんのために?」や条件にあたる「どのような環境で?」といった質問です。これらの質問が「Topic」に方向性、つまり「Approach」を定義してくれます。

「空間にあるアイテムを認識することができるスマホで実装可能な物体認識技術とその手法」

これだとリサーチのための条件などリサーチを行う際の方向性が見えてきます。TopicとApproachを決めることで、リサーチの方向性が明確化されると思います。

1.2 - Research Scopeの範囲設計

そしてResearch Scopeを設計する際には、リサーチ対象となるトピックを必要十分なワーディングで定義することを意識してください。そのときに以下の質問に答えられるようにしてみてください。

・このリサーチのトピック / テーマはなにか?
・このリサーチのアウトプットはどのような用途で使われるのか?
・このリサーチの前提にある条件はなにか?
・どの領域、どのような切り口でリサーチが必要なのか?

これらの質問の回答をスッと見つけることができるResearch Scopeを定義できると、リサーチの焦点が明確になりこの後のロードマップが見えてきます。

Research Scopeが定義できたら、次にリサーチのモデルを考えていきます!

〜 Research Scopeの適切な範囲とは? 〜
Research Scopeでは必要十分な範囲を見つけることが重要ですが、ではその範囲とはどのように見つけるのか、その考え方を簡単に紹介できればと思います。

アカデミックな論文をイメージしてみてください。2ページの論文と50ページの論文では、求められるリサーチの「広さ」と「深さ」と「かけられる時間」が変わってきます。これと同様に、リサーチアウトプットの活用方法によって「広さ」と「深さ」と「かけられる時間」が変わります。

例えば、企画の提案書で事例を紹介するとき、「事例のリサーチ」と「事例のカテゴライズ」に焦点を絞ったResearch Scopeを設定します。一方で、論文執筆を前提とした検証プロジェクトのリサーチでは、領域を広く取り網羅的かつ抽象度の高いレイヤーまで調べる必要があるので、Research Scopeは広めに設定します。

目的に応じた「広さ」と「深さ」と「かけられる時間」。
これらを意識して適切な範囲を探ってみてはどうでしょうか?

2 - MODEL|「リサーチモデル」と「仮説」を設計する

Research Scopeを定義できたら、次はそれをもとにブレインストーミングのようにアウトプットの要素となる「変数と側面」を洗い出してそれらの関連性を探っていきます。このときに作るものが、リサーチを進める上でのベースとなる「Research Model」です!

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2.1 - Research Modelを構成する3つの変数

「変数と側面」を考える際には、「独立変数」「媒介変数」「従属変数」に分類して、Research Modelを考えていきます。統計学や実験心理学ではよく見るこの3つの変数、少しだけ詳しく見てみましょう。

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- 独立変数(Independent Variable)- 

独立変数は、他のインプットをとらず他の変数と従属関係にない変数です。

別名「説明変数」とも呼ばれる独立変数ですが、リサーチでは因果関係を考える際の「原因」にあたるものと考えてください。独立変数は、媒介変数へのインプットとなり、従属変数へ影響を与えます。また、独立変数が変わることで、リサーチの仮説の要素が変わり、リサーチのアプローチも変わってきます。

- 従属変数(Dependent Variable)-

従属変数は「被説明変数」とも呼ばれており、その値・内容が他の変数の値によって変わる変数になります。

因果関係で考えたときに「結果」にあたるものです。売上や数量、影響などがこれに当たります。仮説を設定する際には、まずこの独立変数(結果)となるものを見つけてから、どのような変数が他にあるのかを考えていくとスムーズに進めることができます。また、プロジェクトに置いては、証明したい命題のゴールでもあることもあるので、Research Scopeから想定される最初の変数でもあると思います。

- 媒介変数(Intervening Variable)- 

最後に媒介変数です。
これは独立変数と従属変数の間にある関数です。

独立変数を設定した際に関係メカニズムや関連性を導くための変数で、独立変数から従属変数への架け橋の役割を担います。媒介変数が適切に設定されていると、独立変数の方向性を従属変数に向けることができ、思考整理の助けになります。

2.2 - Research Modelの作り方

そしてこの3つの変数の考え方をベースに、変数は以下のステップで考えていきます。

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【1. 変数・側面の洗い出し

このステップでは、Research Scopeから考えられる変数と側面を考えられる限り洗い出していきます。

リサーチデザインの最初に変数と側面を洗い出す際には、基本的に仮説ベースでの洗い出しになります。リサーチを実施する前なので、その仮説が正しいかどうかはあまり気にしないで大丈夫です。むしろ頭を柔らかく、これまでの経験や知識もフル活用して考えてみてください。

【2. 変数・側面の整理

次に、洗い出した変数と側面を「独立変数」「媒介変数」「従属変数」に整理していきます。

独立変数にはベースとなる細かい要素を、媒介変数には独立変数に方向性を与える要素を、従属変数には媒介変数を介した独立変数の結果となる要素を当てはめていきます。

【3. Research Modelの構築

最後に、整理した変数・側面を関連性でつないだResearch Modelを構築していきます。

このフェーズは書き出したりマッピングをしたりなどを通して丁寧に可視化することをオススメします。「独立変数」「媒介変数」「従属変数」を矢印でつないでいき、どのような関係性・関連パターンがあるのかを見える化していきます。

僕はFigmaなどのツールを使って、書き出したものを矢印でつないでResearch Modelをビジュアル化しています。

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このプロセスを実践してみた例が以下になります。

Research Scopeは「体験コンセプトを創るためのCollaborative MRで生み出せる体験価値の考え方」と設定したリサーチを例にしています。

そのScopeをサポートするための大きな要素(従属変数)として「Social Presenceの充実」があり、その独立変数として「Awareness Cue」などが考えられます。そしてそれをつなぐ要因(媒介変数)として「Experience Sharing」などが想定できます。これらを整理してマッピングした後に、矢印を使い、Research Modelを可視化しています。

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2.3 - Research Modelから仮説の設計

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Research Modelがある程度形になったら、次はそれをベースに仮説を立てていきます。

仮説の設計に入る前に、そもそもなぜ仮説を設計する必要があるのでしょうか?

仮説を設計する主な理由は以下の3つです。

《リサーチに仮説が必要な3つの理由》
・リサーチの方向性を定める
・リサーチで確認すべきデータ/事柄/要因を整理する
・リサーチでどのようにアプローチするのか明確化する

リサーチは闇雲に行っても時間を消費して、本当に必要な情報にたどり着けないことがあります。そのために、事前に仮説を設計してリサーチの方向性を定め、リサーチで確認する要素をしっかりと認識することが重要となります。

・どのような情報が必要なのか?
・どうすれば必要な情報に対してアプローチすることができるのか?

これらの質問に十分に答えることができるような問いが絞り込まれた仮説が適しているかと思います。

実際に仮説の設計を行う際は、以下のようなフォーマットで考えてみるといいかもしれません。

《〇〇に》《〇〇が》《どのように》関連/影響している

《〇〇に》 → 
Research Scope
《〇〇が》 → 
変数・側面
《どのように》 → 
Research Model

Research Modelでマッピングした変数を効果的に使って、「独立変数 → 媒介変数 → 従属変数」をつなげて仮説を作り上げていきます。独立変数から従属変数まで矢印で繋がれたものが一つの仮説になるイメージです。この仮説を複数設計して、実際のリサーチを行っていきます。

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具体例として、先程の「体験コンセプトを創るためのCollaborative MRで生み出せる体験価値の考え方」のリサーチを例に仮説を立ててみます。

その中の一つの仮説は以下のように設計することができます。

《〇〇に》 → Collaborative MRの体験価値
《〇〇が》 → Social Presenceの充実
《どのように》 → Awareness Cue / Collaborative System
  ↓
Collaborative MRの体験価値には、Awareness CueやCollaborative Systemで生み出すことができるSocial Presenceの充実が関連しているのではないか?

このような仮説が設計できれば、このあとのリサーチでどのような情報に当たればいいか明確になるのかと思います。この場合だと例えば、「論文などで言及されているSocial Presenseの生み出し方」や「MR領域におけるAwareness Cueの効果・使い方」などがリサーチをする際のアプローチとなります。

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3 - RESEARCH|情報を収集し、仮説を検証する

実際に行うリサーチの目的は、データを集めてResearch Scopeと関連メカニズムから導いた仮説を検証し妥当性を評価することです。その結果妥当性が低かった場合は、集めたデータから新しい変数・側面、関連メカニズム、そして仮説を設計して、さらにリサーチを行っていきます。

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3.1 - 仮説検証のための情報収集

実際にリサーチを行う際は、Research Scope・Research Modelから設計を行った仮説をもとに、その仮説を証明するようにリサーチを実行していきます。

ここからはゴリゴリと仮説証明のためのリサーチを行っていくだけなのですが、その際に注意すべきことがあります。それが「事例選択」です。

データとなる事例の選択をする際には満たす必要なる条件が3つ存在しています。

・その事例が一般的な理論カテゴリーの実例であること
・その事例がどのような母集団から引き出されたのか、つまりその母集団は何かが明らかであること
・事例観察のはじめと終わりを明確にしていること
(リサーチ・デザイン:田村正紀【著】)

リサーチのアウトプットとして使用する情報は、そのカテゴリ内で一般的な事例でなければなりません。また、使用する事例は、その出処やカテゴリを示す「母集団」であったり、事例としての対象範囲を把握する必要があります。当たり前のことではあるのですが、リサーチを実行しているときは、常にその事例がそのカテゴリのなかでどのような事例なのかを考えることが重要です。

これらの事例は大きく以下の4タイプに分けることができます。

《事例の4タイプ》
1)先端事例:まだ一般化されていない新しい事例
2)代表事例:該当カテゴリの代表的な事例
3)逸脱事例:該当カテゴリのパターンから外れた事例
4)原型事例:該当カテゴリの最初の事例( ≒ カテゴリの起源)

そしてリサーチを通して集めた事例は、仮説と照らし合わせつつ以下の2つのタイプに分類していきます。

《事例処理の2タイプ》
1)適合事例:仮説に適合し証明する事例
2)不適合事例:仮説に適合せず、反証する事例

集めたデータ/事例/情報は、このように分類をして扱っていきます!

3.2 - 仮説検証のプロセス

そしてそのリサーチは以下の図のようなプロセスで進めていきます。

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【1. 仮説検証素材のリサーチ】

ここからゴリゴリ手を動かして、仮説ベースでリサーチを始めます。
これまでに立てた仮説を信頼度の高い順に検証していきます。

このとき、Research Modelで整理をした変数・側面を検索クエリとして使用したり、設計を行った仮説をベースにヒアリングを行ったりして、仮説検証を行うための情報を集めていきます。

【2. 仮説検証 / 仮説分析】

リサーチで発見した情報を、仮説と照らし合わせて妥当がどうかを判断します。このフェーズでは、主に先程紹介をした「適合事例:仮説に適合し証明する事例」「不適合事例:仮説に適合せず反証する事例」の2つに分類を行っていきます。

このとき以下の問いを考えてみてください。

《情報と仮説を照らし合わせる際の問い》
・仮説を立証する際に矛盾はないか?
・仮説を立証するために情報は十分か?

【3. Research Model
のアップデート】

適合事例・不適合事例に分類し、仮説の妥当性を検証したら、次は検証結果をもとにResearch Modelをブラッシュアップしていきます。

リサーチをする前のResearch Modelはあくまでも既存知識から作り上げた仮のものです。リサーチを行ったあとは、リサーチ結果・仮説検証結果をもとにResearch Modelをより精度の高いものへと改良していきます。

そのときに以下の問いを考えてみてください。

《Research Modelをブラッシュアップする際の問い》
・これまでのResearch Modelの改善できるところはどこか?
・どのような変数/側面が他に存在しているのか?
・新しいResearch Modelからどのような仮説が導けるのか?

3.3 - リサーチのサイクル

Research Modelのブラッシュアップができたら、再度リサーチを行っていきます。ここからは、これまでに行ったプロセスをアウトプットが十分なクオリティになるまで繰り返して行きます!

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これで今回ご紹介したいリサーチデザインの本編は終了です!
ここまで読んでいただきありがとうございました!

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〜 定性リサーチと定量リサーチとテキストマイニング 〜
このnoteでは、定性分析や定量分析などのリサーチの手法に関しては扱っていませんでした。(むしろその両方に共通するリサーチデザインのアプローチを紹介しました。)なので最後にちらっとこれらの紹介をできればと思います。

主な区分の方法として「データの性質」と「分析の対象数」が使われます。定量分析とは数値的に評価できるリサーチのことで、定性分析とはそれ以外のすべてのリサーチです。また一般的に、定量分析の方が統計的に分析できるように事例数・観察数が多く、理論化がしやすいといった特徴があります。

また、定性分析と定量分析の中間のリサーチ分野として、「テキストマイニング」などがあります。これは音声やテキストなど自然言語などを対象にして、データ量が大量にありつつ、定性的な分析が必要となるものです。

定性リサーチと定量リサーチとテキストマイニング、これらのリサーチ分野にはそれぞれ個別のリサーチデザインの手法があり、要件に応じて使用しています。また最近、これまで2極化されてきた「定性分析」と「定量分析」が統合化するリサーチデザインの手法も提案されきています。これらについては、また別のnoteでご紹介できればと思います。

リサーチデザインを学びたい人への参考図書

さらにリサーチデザインを学びたい人、極めたい人のために2冊ほど僕のおすすめの参考図書を紹介します!

■ リサーチ・デザイン: 経営知識創造の基本技術
この本ではリサーチデザインの基礎・理論から応用と実践までカバーしている本です。リサーチデザインについて学んだことがない方は、ぜひこの本から始めるといいかと思います。僕はバイブルとして何度も読み返しています。

■ 歴史から理論を創造する方法: 社会科学と歴史学を統合する
リサーチデザインとは少しだけ異なりますが、多くの情報を科学的に整理する方法がまとまっています。歴史という大量の情報がありつつ、理論化が難しいものをどのようにまとめていくのかを考えると、リサーチデザインへのヒントが見つかるかもしれません。

おわりに

効率的にリサーチを行うだけではなく、全体を俯瞰しつつ要点を抑えた情報の体系化を行う必要があります。また、チームへの共有などが求められる状況では、リサーチャーが想定している以上にリサーチのプロセスからデザインが必要になります。

長文を書いてしまいましたが、僕自身まだまだリサーチャーとして勉強している最中です。このnoteは現状の僕のリサーチデザインの理解であり、今後どんどんアップデートしていくと思います。(いつになるかわかりませんが、またnoteにリサーチデザインをまとめますのでご期待ください。)

僕がリサーチデザインに興味を持った理由も、ARという先端テック領域のスタートアップに入社したからです。日々技術がアップデートされ、継続的かつ広範囲的なリサーチが求められる現場でリサーチプロセス自体をデザインする必要性を感じました。

もしこのような日々進歩を求められる環境や先端テック領域で挑戦したい方がいましたらお気軽に僕のTwitterまでご連絡ください!
まずはお話しましょう!もちろんリサーチデザインのお話も大歓迎です!

■ トミーのTwitter

■ MESONのコーポレイトサイト


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