居場所のない“異端児”が城を築くまで
むかしむかし、職場で私は”異端児”だった。
私が関心があり好きでいるものは、職場のたいていの人にとっては理解できないことだったようで、よく私の陰口が聴こえてきた。
「あの子なんなんだろうね」
「さあ、よくわからない」
もう忘れてしまったけど、なんだかあだ名もつけられていた笑。(宇宙人、みたいな感じだったように思う)
どうやら、その頃私が熱意を傾けていたチャリティーダンスイベントや震災の復興支援活動のブログを見つけたらしい。
職場ではそんなに仕事ができるわけでないのに、何してるんだろうこの子。ダンスとか、社会貢献とか、よくわからないな。
みんなきっとそう思っていたと思う。
一緒にご飯を食べていても、女子社員たちの話題には関心がなかったので、話に全くついていけない。ドラマの話、今日の晩御飯のメニューの話、週末でかけるレジャースポットの話。
お昼の休憩時間はいつも憂鬱で、話を聞くふりすらできず、頭のなかでいつも別のことを考えていた。
そのうち居づらくなって、いつのまにかその輪に入らず、一人でオフィスに残って、パソコンで自分の好きなことを調べながらご飯を食べるようになった。
こういうことを繰り返していると、女子社員のなかでちょっとした“仲間はずれ”のような状況になってくる。
それに気づいた上司は、なかなか周囲に溶け込めない、溶け込もうとしない私を心配して、「何か悩んでることはあるか?」と聞いてくれたことがあった。
「いえ、何もないです」
職場で一切心を開いていなかった私は、自分に関わってほしくないという一心で、その気遣いを受け取らなかった。
プライベートではダンスや復興支援を一緒にしてくれる仲間はいたけれど、生きている時間の多くを使う仕事で心を許せる相手がいないのは、私にとってはとてもつらいことだった。
毎朝、通勤のバスを降りて、職場まで歩く5分の道のりは足取りが重かった。
なんとかして気持ちを明るくしよう。
そう考えて、その5分はいつもイヤホンをして大音量で自分の好きな音楽をかけていた。そんな私を励まし勇気づけてくれた、1曲の歌がある。
「ものごころついた時から かまぼこ板にしか 興味がない」
ものすごいインパクトのある(笑)、この謎の一節から始まる曲だ。
秋田出身のシンガーソングライター・青谷明日香さんの代表曲「異端児の城」。初めて聞いたときに「これは私のための曲だ」と思った。
それはこんなストーリー。
小さい頃から「かまぼこ板」が大好きで仕方なかった少年は、一生懸命小遣いを稼いでは、かまぼこ板ばかり集めていた。当然、学校ではクラスメイトが話している話題にはついていけない。
「クラスの女子たちが 廊下でこそこそしてるの聞いた
あのかまぼこやろうって ぼくの陰口言っていった
とうるる 興味がない おまえらなんかにゃ興味がない」
そのまま大人になった彼は、自分を理解してくれる大好きなお嫁さんに出会った。そして、大好きなかまぼこ板で家まで建てた。それは、なかなか人には理解されない趣味を持った彼の「異端児の城」だった。
「人と違うこと 自分を貫くこと
とても難しい だいたいは流されてしまう
でも大丈夫 本当の仲間ができるから
ゆっくりでいい 築いていこう 自分の城」
私は行きたくない職場へ向かって歩きながら、よくこの曲を聞いて目を潤ませていた。
いつかこの場所から抜け出して、自分の好きなことを仕事にしたい。
いつか信頼できる仲間といられる居場所をつくりたい。
今は理解されなくても、きっとそのうち誰かがわかってくれる。
そうやって自分を無理やり鼓舞しなければ、自分の好きなものを諦めずにいることは難しかった。この曲をお守りのようにしていた。
時が経って、やっと独立して自分のやりたいことをやるため、仕事を辞めるとき。あるスタッフの人が最後に、こんなふうに声をかけてくれた。
「ずっとブログ見てたけど、復興支援のためにイベントやって、本当すごいよな。応援してるから頑張ってね」
自分が遠ざけていた人のなかには、本当は言わないだけで、自分を認めてくれていた人もいたんだと、私はその時に初めて知った。
明日香さんはライブで、この曲を歌う前にこんなことを語っている。
「みなさんきっと、人には言えない趣味があると思うんです。延長コードばっかり集めるのが好きとか、満月の夜には全裸でベランダに出ないとだめとか。
人には言えない趣味を持ってるひとがいると思うんですけど、それって子どもの頃から形成されると思うんですが、周りの人に流されちゃって、そういう部分をなくしちゃうことってよくあるなと思って。
一人ひとりの個性を、ずっと大事にしてほしいなと思ってつくった曲です。”異端児の城”。」
あの頃の私は、自分だけが人と違って、自分だけが苦しいと思っていた。
でも今はわかる。
誰にでもひとと違う部分があり、ひとには言えないことがある。
大切にしたいのにできなかったもの。
好きなのに好きだって言えなかったもの。
わからないだけで、そのひとなりに我慢してきた思いがある。
気が合わないと遠ざけていた、あの女子社員のみんなにもきっと。
思えば私自身だって、彼女たちの好きなものたちを、「つまらないこと」として理解しようとはしなかった。
まずは自分の好きなものを素直に認めてあげること、大事にしてあげること。そうすればきっといつか、誰かが気づいてくれるし、仲間ができる。
そして誰しもがそういう思いを抱えていることを理解できれば、そのひとが好きなものに関心を持たなかったとしても、好きであることだけは否定せずにすむ。
もしかしたら、ひとには誰でも“異端児”な部分があるのかもしれない。
今となっては、もっと素直に自分を開いて、「私はこんなことが好きで」ともっと話してみればよかったなあと反省している。一生懸命に自分を守り、周囲と壁をつくっていたのは自分だったのかもしれないなと。
あれから5年が経ち、「職場に居場所がない」と感じていた私は、すごく好きな仲間に囲まれて毎日働いている。
「これが好きだ!」と叫んでみたら、同じものを好きだと言ってくれ、「協力するよ」と集まってくれた仲間たちと、soarという団体をつくった。みんな私が突拍子もないことを言ったとしても、それをおもしろがって、受容してくれる。
この世界にたったひとりきりでいるような気分になったこともあったけど、案外そうでもない。世界は広い。
どうやら、自分を理解し受けとめてくれるひとはけっこういるみたいだ。
soarは私にとっては「異端児の城」のようなもの。好きなものを素直に大切にしていたら、いつのまにかコツコツと築かれていた城。
人によっては、その築かれる城は会社だったり、趣味でつながった仲間だったり、たった1人の大切な誰かとの関係性かもしれない。
少なくとも私は、soarという場を、集まってくれる人たちが安心して自分らしくいられる居場所にしたい。その人が好きなものの話をたくさんして、笑い合える場所でありたいと思っている。
もし今、自分には居場所がないとか、自分らしく生きることができないとか、そういう思いがあるひとがいたらこの曲を聴いてみてほしい。
そして自分の好きなものを、ずっと大切にしていてほしい。
ゆっくりでいい、
築いていこう自分の城。
最後に、明日香さんのブログにあった一節を。
「誰のなかにでもある、人と違うこと。それを蔑むんじゃなくて素直になるってこと。そうすると、自ずと本当の仲間が増えていくよ、ということ」
サポートは、soarの活動に活きるような学びに使わせていただきます😊