見出し画像

2021/05/19 思い込んだら夜中の薔薇

向田邦子のエッセー「夜中の薔薇」。〽 童は見たり野中の薔薇 を、「夜中の薔薇」だと思い込んでいた人のエピソードが出てくる。音だけを聞いて覚えた歌詞が、間違って文字に脳内変換されることは多い。

代表的なのは、アニメ『巨人の星』の主題歌だろう。〽思い込んだら~ を、〽重いコンダラ~ と変換してしまうケース。私も子どもの頃、そう思っていた一人だ。

先ほどのエッセーに戻ると、「わたしは夜中の薔薇のほうがいい」とあった。思わぬ誤読から、豊かなイメージを想起することもある。

この日の夜遅く、ある駅前に続く薔薇園の前を通ったので、昔読んだエッセーをふと思い返した。暗闇の中で薔薇は、姿よりも先に、芳醇な香りで存在を知らせる。真紅の花びらも、闇の中に半ばとけ込んでおり、秘やかな色香を醸し出している。花の影に棘があるのも、また一興。夜中の薔薇は、大人のロマンスによく似合う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?