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全員女性キャストの『ジュリアス・シーザー』一言雑感【2021/10/23】

女性だけで挑むシェイクスピア劇。本来は、男性ばかりのキャストで占める『ジュリアス・シーザー』。蜷川版では約35人中、女性らしき名前の人はわずかに1人(まるで、今の我が職場のようである)。そんな「オッサン劇」を、女性だけで演じたら…? その1点だけに絞った雑感である。

女性だけの芝居といっても、宝塚のようなキラキラ感はない。事前の劇評で鏡の舞台美術だとは知っていたけれど、その鏡はひび割れて、周囲が朽ちているような有様。像を正しく結ばない。歪んだ見方しかできない世界での出来事ということなのだろうか。

主要キャストは、ブルータス(吉田羊)、アントニー(松井玲奈)、キャシアス(松本紀保)、ジュリアス・シーザー(シルビア・グラブ)の4人。全員、声は押し殺したように低めで、抑制的な発声だった。これには、かなり苦心したのではないかなと感じた。

柔らかくてほっそりとした女性の身体から発せられる、「俺」という男の言葉。最初のうちは少し混乱したが、そのうち慣れていった。そこに現出したのは、「男でもなく、女でもない」本質だった。

一番驚いたのは、キャシアス(松本紀保)。劇団チョコレートケーキの名作『治天ノ君』での威厳と品性を持つ貞明皇后節子役のイメージが強かっただけに、こんなに激情にかられる演技が、とても鮮やかに映った。もっといろんな役を見てみたいと思った。

ステレオタイプの男性中心の舞台では、女性キャストは限定的な役割しか与えられていないケースが多かったのではないか。「娘」時代が終われば「母」というように。そんなことを気づかされた。


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