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2021/04/12 春に逝った父

私の父は、春に逝った。もう16年も前になる。自宅で突然倒れ、脳死状態となり、11日間後に息を引き取った。それ以前に読んでいた、尊敬するジャーナリスト、柳田 邦男さんの著書『犠牲(サクリファイス)―わが息子・脳死の11日』とちょうど同じ日数。

たった11日間。

その年の4月。春がいかに一気に「開花」したか。スローモーションにように思い返すことができる。

ソメイヨシノが散り、少し遅れて八重桜が咲いた。父のいる病院へ通る道すがら、濃桃色の花が今を盛りと咲くのを車窓から見た。

命が躍動する春と、命の終わりを迎えつつある父。越えようのない隔てを感じた。あの時の陽光、花びら、萌える青葉の輝きを、遠い世界のように感じていた。

父が逝った後、八重桜は散り始めた。花吹雪の中、父の葬送は火葬場へと続いた。私の父は死んだのに、世界は何一つ変わらないんだな。それが真実。当たり前だけど。慟哭の私に爛漫の春は残酷すぎた。

願わくは 花の下にて 春死なん その如月の 望月の頃

これは西行の有名な歌だ。春に死にたいと言う人はいるが、それは死に行く当事者の思いだろう。遺された者に春は辛すぎる。

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