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伝えたいことを、伝えること。

銀座ソニーでの写真展が明日でようやく終わる。

この記事は写真展が終わったあとになぞなぞの答え合わせのつもりで公開しようと思っていたのだけど、イタズラをしたときについつい犯人であることを名乗り出たくなるようなものでいま書いている。

2週間の写真展はおかげさまでとても盛況だった。
一万人をこえる人が来てくださった。ありがたい。新宿のニコンで一週間個展をしたときの来場者数が一日で来場しているような状態だった。

カメラメーカーのギャラリーは立地や展示環境がいいので、黙ってても多くの集客が見込めるという最大のメリットがある。しかしその黙っても集まるお客さんがじつは最大のデメリットでもある。

カメラメーカーのギャラリーは修理受付や製品のショールームを兼ねているので、カメラ好きな人が集まりがちで、写真の質問ではなくカメラの質問という非常につまらない質問に消耗するのだ。

写真展はカメラの魅力を伝える場ではなく、写真を通して伝えたいことを伝える場だ。伝えたいことを感じてもらえるように、誘導していることを気づかれずに誘導するのが展示だ。

会場入り口にある文章はステートメントというものだ。ステートメントには声明文という意味がある。世の中に訴えることがなければ、別に写真展なんかしなくてもいいのだ。

テロリストの犯行声明文で「今回の無差別テロにはAK-47に30口径の弾を使用しました。AKというのはとても優れた銃でして…」と銃の話にはならない。伝えたいことが写真とおなじか、それ以上に大切なのだ。

家族づれや子どもが多い写真展会場だった。子どもから大人までたくさんの人が来てくれた。もうすぐ結婚するんですという人たちもたくさんきてくれた。

毎日たくさんの人と会話をしたけど、機材の質問をされたのは、ありがたいことにたったの一度だけだった。

人生で初めて写真展に来たという人、飛行機や新幹線、夜行バスを使って遠方から写真展のために来たという人が少なくない…というか結構いる。本当にありがたい。

「子どもが小さい頃を思い出した」「うちの子どもも同じことをしてます」「子どもの頃に父が撮ってくれた写真を見たくなった」「はやく家に帰って家族に会いたくなりました」

質問ではなく、自分の感情を感想にしてくれている人を見かけると、今回の写真展で伝えたいことがうまく伝わっていると実感する。すこし嫌ないいかたかもしれないけど、誘導に成功した。

ぼくが息子に写真で伝えたいことは、ぼくが存在して息子を愛していたという事実だ。写真展でお客さんに伝えたいことは別にある。

「優しい写真」というタイトルには3つの意味をこめた。

撮影者のぼくにとっては息子の名前である「優の写真」という意味。被写体の息子にとっては「父親の優しさ」という意味。

そして写真展に来てくれたお客さんには「写真って簡単で優しいんですよ」というイージーの意味の優しさをこめた。

写真というのは車椅子になろうががん患者になろうが、シャッターを押せば撮れる。マジで簡単だ。でもそれは写真家だからですよね、といわれるとこちらもあまりいいかえせない。

DMの写真と写真展の最後に展示した写真は、妻が撮影した写真だ。うちの妻は保育士さんだけど写真って簡単で優しいから、誰でも撮れるんですと伝えたいためだ。じゃなかったら妻とはいえ第三者の写真を個展に使いませんよ。

写真の息子を微笑みながら見てくれる人が多いのだけど、うちの息子がやっていることは50年前の子どももしていたはずだし、50年後の子どもだっておなじことをしているはず。ぼくだってあなただってしていたはず。

子どもって怒るし喜ぶし、緊張するしイタズラもするし、挑戦も失敗もする。だけどみんなポーズをとらせて子どもの笑顔を撮ろうとするんだよね。ぼくはそれがいいとは思わない。

日常的に見ていて記憶しているものを、撮った方がいいとぼくは思うんです。スタジオの写真館で着たこともない服をレンタルして、関係性が何もない撮影者が撮った写真にぼくはまったく魅力を感じない。

友達とどこかに遊びにいったり、食事した写真をSNSにアップできても、10年前に写真館で撮影した成人式の写真をSNSにアップできる人どれくらいいるだろう。

ぼくは10年後にもみれる写真がいいと思う。そうではない写真に何万円も何十万円もかけることはないと思う。撮影を受注する人はその価値を出せなければダメだと思う。

10年後に家族でみれる写真を撮るのっていいですよ。家族の写真は家族が撮ったほうがいいですよ。という提案をした写真展でした。

ぼくは山生まれ山育ち、山っぽい人はだいたい友達だから銀座みたいな場所が苦手なんだけど、銀座に通って毎日いろいろな人と話していると銀座が好きになってくる。

人って好きなものしか写真を撮らないんです、嫌いなものをわざわざ撮らない。スマホに入ってる写真を見返してください。自分の好きなものだらけでしょ?その好きなものは他の誰かが嫌いかもしれないけど、自分の好きな気持ちを大切に。

写真展会場でお客さんと話していると、息子がぼくの足にまとわりついてきた。写真展が終わったら息子をかまってあげようと思います。

息子が長靴をはいているのは雨だからではなく、ぼくがブーツをはいているからマネをしたみたいです。

いよいよ最終日、仮病を使って休んだので最終日は在廊します。

幡野広志写真展「優しい写真」
銀座プレイス6階 ソニーイメージングギャラリー
11月15日まで11:00-19:00

サポートされた資金で新しい経験をして、それをまたみなさまに共有したいと考えています。