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糖度至上主義の時代に種ありぶどうを選ぶ理由

ぶどうと言えばシャインマスカット。とにかくシャインマスカット。こんな言い方は宜しくないがさすがに飽きてきた。美味しいけど甘さが強すぎて、パクパクとは食べれない。
私が勝手に呼んでいるが「糖度史上主義」の代表例だと思っている。シャインは果物と呼ぶよりお菓子と言った方がいいのでないだろうか?これも果物に甘さをひたすらに追い求めた果の結果とも言える。その結果、果物がより軽食などとは程遠い嗜好品となっていく。果物=嗜好品という扱いは世界でもかなり特異的な例である。海外では果物はキオスクなどでスナック菓子のように皮ごと丸かじりにするような軽食のような扱いをされることが多く、日本のように食後に家族で高価で大きい1つの果物を皮をむいて共有するのは世界的に見て珍しい。

話は戻るがシャインは美味しいがぶどうという果物を食べている感覚はなく他の果物を食べているような気がするのは私だけであろうか?
以前にもマスカットオブアレキサンドリアの記事でも取り上げたが、シャインマスカットが良い意味でも悪い意味でも出来すぎている。
味も良い、皮も気にならない、種無しになる、脱粒しにくくて輸送にも耐える。棚持ちも良い。比較的病害虫に強く栽培もしやすい。単価が高い。
本当に欠点がないのがシャインマスカットだ、本当に素晴らしいの一言に尽きる。「マイハート」など志〇ぶどう研究所でつくりだされた品種のようにシャインマスカットを母体にした品種も増えてきており、ぶどうの品種が変わりつつある。

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グラフは農中総研のホームページより引用 

上のグラフを見て欲しい。シャインマスカットの生産量がの増えていくのと同時に巨峰やピオーネ、デラウェアの生産量が落ちている。つまり巨峰などからシャインマスカットへと品種切替が起こっている。無論、第2図のとおり既存の品種より2倍近くの値がつくので品種切替が起こるのは無理はない。
※補足
2020年には品種別の出荷量で1位になった。品種更新の速度が恐ろしく早い。栽培面積でも一位になる日が来るだろう。既に中国では日本の栽培面積の40倍、韓国でも5倍ほどの面積の栽培がある。流出問題に関しては触れないが、韓国などでは輸出にもかなり力を入れている。

社会ダーウィニズム論の考えで、劣る品種は消え、優れた品種が残るのは当然であり、現にそれが繰り返されてきた。
しかし、シャインマスカットが増えすぎてスーパーなどで見かけるぶどうの種類がぐっと減ったような気がする。最近ではシャインの他に赤系のクインニーナ、青系のナガノパープルも数を伸ばしており、ぶどうの条件としては種無し、皮ごと食べられることが求められている。巨峰もピオーネもデラも皮ごとは食べれないが、種無しに出来るのでギリギリ及第点といったところ。この3種のように皮ごと食べれないぶどうはいつまで市場流通するのか気になる。
昔の品種への思い入れもあるが、ぶどうの多様性が低くなってしまうのは残念である。これは、消費者の総意なので仕方ないことである。
しかし、私はそんな中であえて「種有りブドウ」を食べて欲しいと思う。種有りの中でもデラウェアのような小さめの粒で、弾力のあるプルっとした“塊状”の肉質のぶどうである。
種があると種に栄養を送るために味が濃くなると聞いたことがあるが、確かにそう感じる
粒をチュルっと吸うと、果肉と皮の周りにある甘い果汁が口に広がり、その後果肉を噛むと清々しい酸味と独特な香りが口を包みこむ。種を出さなければいけないが、それほどの手間かける価値はあると感じる。
その中でも今年食べた何種類かを紹介したいと思う

(明治43年の種苗カタログ 見かけない品種も多いがコールマン、キャンベルス、デラウェア、甲州、マスカットアレキー(マスカットオブアレキサンドリア)、ナイアガラ、コンゴートは現在でも栽培されている)

キャンベルス(キャンベルス・アーリー)

昔のぶどうと言えばこの品種とデラウェアあたりだろう。この品種も歴史は古い。日本には明治頃に入って来て、その後巨峰などが登場する昭和40年頃までは主流品種であった。寒さに強いという理由で北海道や東北などで栽培されている。
味は甘みよりも酸味強く、フォクシー香と呼ばれる例えようのない香りがする。キャンベルの芽条変異の四倍体品種「大玉キャンベル」別名「石原早生」は巨峰の片親である。巨峰の皮離れのよさはこの品種から来ているのと思われる。やや弾力のある果肉で、巨峰に比べるとやや繊維質。種2つほどあり。粒は一円玉ほど


旅路(たびじ)

北海道でも余市や小樽の辺りでしたか栽培されていない品種のようで、私も購入する時に初めて名前を知った。昔は紅塩谷という名前で呼ばれていたそうだが、小樽が舞台となった昭和40年頃の連続テレビ小説「旅路」にあやかって名前がつけられたそう。りんごの「未希ライフ」も朝ドラ由来でしたね。ちなみに種無し処理をするとグーズベリーのような模様がでてくるそう。
キャンベルに比べると香りは少ないが、口に含んだ時の普通のぶどうとは全く違うスパイシーやレモンのような香りが炸裂する。酸味が強く、レモンのよう酸味を感じた。皮離れはよく、果肉は繊維質ぽい所も少しあるがモチモチとした食感でタピオカのよう。大きさは一円玉より一回り小さい。

ベリーA(マスカット・ベリーA)

昭和2年に日本ワインぶどうの父と呼ばれる「川上善兵衛」氏によって開発された品種。アメリカ系品種「ベリー」とヨーロッパ系の品種「マスカットハンブルク」を掛け合わせた品種。赤ワイン用のぶどうしては日本一の生産量を誇るも、生食用としては昭和までは人気の品種であったようだがピオーネなどよ品種に押されてあまり主流しなくなった。
味は全く酸味が無くとても甘く、香りはあまり感じることができなかった。食感は巨峰のような食感で、崩壊性(固めの果肉)と塊状(プルっとした果肉)の中間くらい。巨峰より繊維質が多い。皮に渋みは無いが、皮に厚さがあるのでそのまま食べると口残る。大きさは一円玉より少し大きい。

ナイアガラ

緑系の品種ですがマスカットではありません。こちらも古い品種で明治後期のカタログでその名前を確認することができます。こちらも栽培量は多いですが、白ワイン用に栽培されることが多いです。
粒ごとに甘いものがあったり、酸っぱいものがあったので個体差があるのかもしれません。また、このぶどうの1番の特徴と言ったら独特な香りでしょう。ぶどうの中でも相当香りが強い品種です。その香りは例えようないのですが、様々な果物の香りが混じったようなフルーティーな香り。とにかく例えが難しいのですが、クセが強いので好みが分かれそうです。驚いたことに1粒に種が5つほど入っていました、種の入りやすい品種なのかもしれません。

ネオマスカット

昭和7年に「アレキ」と「甲州三尺」の交配によってできた実生から選抜。戦後から平成20年くらいまで大衆的なマスカットと言えばこれであった。黄色くなると見栄えが悪くなるので酸味が残った状態で早取りにより「すいます※ 酸っぱいマスカットの意味」とよばれネオマスの悲劇と呼ばれるほど急激に栽培量が減少し、ほかの緑系の品種などに切り替わった。強いマスカット香があり、とても風味の良い品種。皮離れがよく、弾力のある果肉。肉質はやや繊維質だが、アレキのようなゼリーっぽいプリっとした感じもする。味はやや酸味の効いた少し淡白な味。皮は硬く、味も特にないのでそのまま食べるのには向かない。

甲州三尺


かなり古くからある品種。甲州の枝変わりなど色々な説がある。皮離れはよく、香りや風味はあまり感じない。果肉はぶどうにしては果汁が少なく、繊維質で弾力がある。甘味は強く、私が食べたものは酸味は感じなかった。古くなるとボロボロと房から萎んで落ちる。甲州よりも収穫時期が早いようである。房が大きすぎるために流通はしない。

他にもこれからだと癖の少なく甘みの強いスチューベンとかが出てきますが、そちらは簡単に入手できるので是非召し上がって頂きたいです。

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