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ある伝説のトレーナーと、人生最高のユーザー体験の話

ある朝ベッドから起き上がろうとしたら、頚椎のあたりに電撃が走った。

その瞬間からまっすぐ立ってるだけでもしんどく、首はどの方向にも動かせない状態だった。起床後数時間のうちにみるみる症状は悪化し、冷や汗をかきながら近くの整形外科に駆け込んだ。

「頚椎の軟骨がすり減ってますね。頚椎のヘルニアの一歩手前ですね。デスクワークの多い方がよくなります。まず安静にしてください。症状が落ち着いたら、私が開発した健康体操をやってください。今日からしばらく超音波治療を受けてください」

医師からそう手短かに説明されるとともに、A4一枚分にプリントされた健康体操の手引きなるものをもらって、隣の部屋で超音波治療を受けた。

超音波治療というのは自分は初めてだったので、興味本位で

「これはこの場合なぜ効くんですか?」

と理学療法士に訊いてみた。すると

「患部の治りが早くなります」

とだけ施術しながら教えてくれた。あまり腑に落ちない説明だなあと感じながらも、そのときはそこで会話が終わった。

消えない違和感

翌日から、言われた通り超音波治療を受けるため毎日通院し、数日もすると寝起きできないレベルの痛みはなくなった。2週間もするとほぼいつも通りの生活を戻ることができた。その後、健康体操なるものもしばらく続けた。

自分にとっては超音波治療も健康体操も、なぜそれが効くのかはわからなかったが、わかる必要もなかったんだと思う。きちんと治りさえすれば。

ただ、不穏なことに、頚椎のあたりにはまだ鈍い違和感があった。痛くはないが、最初の発症から一ヶ月ほどたった頃にも消えない状態が続いた。

デスクワーク時の姿勢の悪さは心当たりがあったので、気休め程度に机の高さを調整してみたりしたが、あまり効果もなかった。

ここまでくると、さすがに不安が大きくなってきた。

「ほうっておくと、またある日突然爆発するのでは...?」
「指導があった治療も健康体操も一通りやりきったけど、本当にこれでよかったのか...?」

発症時点での痛みや日常生活への影響がはんぱなかったので、再発だけは絶対に避けたいと思い、なにか別のアプローチはできないか考えはじめたのはまさにこの頃である。

コンディショニングとの出会い

ちょうどそのとき、信頼する知り合いから姿勢矯正を含むコンディショニングのパーソナルトレーナーを紹介してもらった。

コンディショニングについて少し触れておこう。世の中にはコンディショニングというのがあるらしく、調べてみたら「運動競技において最高の能力を発揮出来るように精神面・肉体面・健康面などから状態を整えること」(厚生労働省)という意味のようだ。プロスポーツの分野では当たり前に活用されてるらしく、どうやら怪しい水を売ってきたりする商売ではなさそうなので、安心した。

知り合いからはこんな紹介のされ方である。
以下、紹介してもらったトレーナーの名前は「伝説のトレーナー」としよう。

「理屈を尋ねると無限に説明してくれます」
「伝説のトレーナーさんて方はコンサルティングファームのシニアパートナーと話してる感じになるのでお楽しみに」

自分はコンサルティングファームのシニアパートナーと話したことないので後半よくわからんかったが、理屈は無限に気になっていたので、興味本位で申し込んだ。

初回

そして初回がこれである。

衝撃だった。

自分は背中の上のほうが痛かったので、「要はそのあたりをいいかんじに施術・トレー二ングするんでしょ」くらいに考えていた。

甘かった。最初5分10分のカウンセリングだけで、既にこんな調子だった。

「あ、これは直接的には右肩鎖骨まわりの筋が悪さしているかもしれません」
「下半身の筋肉のつき方のバランスがわるくて、それが姿勢に影響してちりつもで頚椎痛めた可能性があります」
「もしかして普段右足上にして足組んでます?」

完全に原因が背中側だと思い込んでいたので、鎖骨まわりの筋が悪さしているなど考えもしなかった。そういえばジム行っても下半身の大腿部はハムストリングスだけ鍛えてなかった。実際に仕事するとき右足上にして足組んでる。
言い当てられすぎて、完全に丸裸にされた気分だった。

その日はカウンセリングを通じて痛み・違和感の原因のあたりをつけるのが中心だった。後半では今後のトレーニングプランを立て、最低限のメニューを教えてもらった。ここまでで90分。あっという間に終わった。

2回目

その後も内容は勿論のこと、プロフェッショナルとして見習う点がとても多かった。

3回目

この頃にはけっこう頚椎の調子も良くなってきたので、コンディショニングのプログラムが終わっても自分で継続して一通りやってけるようお願いしてみた。

4回目

通い始めてちょうど1ヶ月で、完全に痛み・違和感が消えた。
ジムに通う習慣が定着して、行かないと逆に気持ち悪くなるくらいになったのは大きな変化。

5回目

痛みそのものはなくなったが、身体の動かし方の癖がまだあったり、なぜこのメニューをやるのか聞きそびれたりしたことがあったので、適宜聞いたりした。

自分が求めていたものの正体

ひとしきりコンディショニングというものを体験してみて、はっと気づいた。

身体的な痛みや違和感を取り除く当初の目的は達成できたし、気持ちとしてもまさに霧が晴れた思いがした。

ただ、今回は更に大きな気づきがあった。

第一に、自分が真に求めていたのは自律性だったということ。
これまで自分自身はめちゃくちゃ健康体だとおもっていたが、意識していないだけで身体の不調はあるものとわかったこと。また、不調に対して、自分自身でもできる整え方というのがあるとわかったこと。
ほんの少しのストレッチや運動を通じて自律性を取り戻す、自分自身のコントロールを取り戻す感覚は何にも代え難い、と強く感じた数ヶ月の出来事だった。

第二に、自律性と並んで自分が求めていたのは納得感だったこと。
骨や筋肉の仕組みを知らなくても、ふつうに生きていくことは勿論できる。すべてを知ることは困難だし効率が悪いので、誰か専門家を頼ることはそれはそれで大切だ。
自分はコンディショニングの専門家のお世話になるのが今回初めてだったこともあり、他の人の利用動機が気になって伝説のトレーナーに訊いてみた。

納得感などなくてもとにかく痛みがなくなったらいい。そういった人も多いらしい。
自分の場合は得体のしれない痛みに不安を感じていて、とにかく納得感がほしかった。そんな希望に対して伝説のトレーナーは正面から向き合ってくれた。適切な知識を与えてくれ、伴走してくれた。これは自分にとってまさに求めていたことだった。
「魚の釣り方」を教えてもらうことができたので、万一また同じ症状が起きたとしても、もう必要以上に不安がらないと思う。

ありがとう、伝説のトレーナー。
紛れもなく人生最高のユーザー体験でした。
頚椎に電撃が走った日は今後が不安でしたが、また普通に生活したり、持ち場に戻って仕事ができるようになったことがとても嬉しいです。

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