Cluster でクジラを知るワールド作りを目指す
後期から始まった活動は「三宅島クジラ鼻水プロジェクト」PRをメタバースという新たな界隈に向けて行うものだった…
このプロジェクトは
2018年頃から突如三宅島近海で目撃されるようになったザトウクジラの生態調査を行うもので、調査方法は陸地からドローンを飛ばしクジラの撮影、鼻水(潮)の採取を行うという国内外でも稀な方法を試みている。撮影した個体の尾びれの模様を記録する事でザトウクジラの個体識別ができ、また採取したクジラの鼻水からは、クジラが持っている菌や病気、その個体が他の地域で観測されたどの群れと同一なのか、また親族関係など多くの情報が得られる。
clusterでのワールド制作開始
今回VRでPRを行うにあたって、私は始めてUnityに触れる事となり、Clusterについても一から学ばなければならなかった。
参考にしたのはCluster公式から公開されているこちらのサイト。
clusterでのワールド作りの基礎が丁寧に説明されている。こちらを見ながら基礎となるワールドと、その中でクジラの泳ぐ海の制作を進めた。Unity Asset Storeに公開されている豊富なアセットや、ネットに公開されているスクリプトを色々と試すのが楽しかった。
しかし私はClusterにおける『C#が使えない』という重大な特徴を見落としていた…
Unityはオブジェクトを配置して、「C#」というスクリプトを書いてゲームにしていくのが基本だが、Cluster上ではそれが動かないのだ。
私はUnity上で再生の確認を行い、問題がなかった為ワールド内に多くのスクリプト付きのアセットを採用していた。制作1ヶ月目にしてようやくその事に気がついたのだ…
いくらUnity上で動いても実際のCluster内では動かないのは、実際にワールドをアップして確認しながら進めていれば起こらなかった事なので、実装先での確認は怠らないよう心掛けたい。
しかし、ここで試みていた「海中の再現」は、このワールドにおいて重要な要素であると思っている為、これから他の方法を模索し実装していきたい…
ザトウクジラの歌
ザトウクジラは歌を歌う
世界に5種確認されている「歌うクジラ」の中でも、ザトウクジラはより複雑なメロディーと歌の文化を持っていることで注目されている。仲間とのコミュニケーションの為と考えられている彼らの歌は、人間の歌のように決まったフレーズを繰り返したり、地域差があったり、なんと「流行りの歌」も存在する。
当然ながら、ザトウクジラの大きな魅力である「歌」をClusterのワールド内にも実装したいと思った。
お借りしたのはモントレーベイ水族館から公開されているこちらの音源。
ザトウクジラの鳴き声が120分に渡って録音されている。この中から特に魅力的に感じた数十秒を切り出し、ワールド内の海面の下にいる時にだけ再生されるようにし、そのほかにも水上では波の音が聞こえるように設定した。
今後は、三宅島に訪れるザトウクジラの実際の声を録音して海中のBGMとして実装できれば良いと考えている。
ザトウクジラの行動をアニメーションで再現する
実際の海に生きるザトウクジラ達には、観測される様々な行動パターンがある。
大ジャンプ「ブリーチング」、一般的に潮吹きと呼ばれるクジラの息継ぎ「ブロー」、深く潜る直前に一気に体を垂直にする事で海上に尾びれを出す「フルークアップダイブ」、などが代表的だ。
ザトウクジラについて解説されているホエールウォッチングのサイト
これらの特徴的な行動を観測できるようにするのが、このワールドの主だった目標の一つだ。実際に三宅島の調査に同行し、陸地から見えるザトウクジラの行動パターンを観察したり、動画を繰り返し視聴したり、研究者の方々から助言を頂くことで、より実際の動きに近いアニメーションにして行きたい。
エスコート
まず最初に実装したのは「エスコート」だ。おそらく聞き覚えのない方が多いと思われるが、これもザトウクジラ特有の行動の一つである。
子育て中の母クジラと子クジラの側を守るように共に泳ぐ雄のザトウクジラが子育て海域で観測されることがある。この成熟した雄が「エスコート」と呼ばれる個体だ。この雄は父親では無く、母クジラとの次の交尾を狙っている個体だと考えられている。
地球上の多くの哺乳類で、成熟した雄が子供連れの雌を見つけるとその子供を殺し、フリーになった雌との交尾を狙う姿が確認されている。しかしザトウクジラの雄は逆に、程よい距離を保ち、子育て終了までボディーガードのような行動をとりながら母子クジラに寄り添うのだ。私はこの行動にザトウクジラの独特な社会性を感じ興味を惹かれた。そして、この事を知って同じように興味を持つ人が出て来るのではないかと考えて、まず最初に「母子クジラとエスコート」を実装することにした。
ここでもまた問題が発生した。本来、Unityで制作するゲーム内に実装するアニメーションは、なるべく短く小分けにして、それらをアニメーターで一括管理し、アニメーションの遷移やループを行うのだが、私の作業環境ではなぜか、アニメーターを入れるとアニメーションが非常に重くなり編集作業が出来なくなってしまう。1つのアニメーション自体が重すぎるのかと思い、短くシンプルな物のみにして試してみたり、使用している開発キット「ClusterCreatorKitSample-master」との相性が悪い可能性を疑い、導入前の環境で試したりしたが改善されず。その為現状では、非常に長く複雑なアニメーションをクジラのオブジェクト1頭ずつに設定しループさせる方法をとっている。しかし微調節に手間がかかることや、より複雑でランダムな動きを再現できない為、最優先で改善しなければならない問題点である。オブジェクトの親子関係を利用した移動方法も試したが、鋭角を曲がる際の動きが不自然な為、やはり別の方法の模索が必要だと感じた。
現時点では
・エスコート
・ブリーチング
・ペダンクルアーチ
・フルークアップダイブ
の実装が終わっている。しかしジャンプの迫力を出す要となる飛沫の表現に難航している為、パーティクルを使った飛沫の実装も今後の課題の一つである。これができれば、潮吹き「ブロー」の実装も可能になるだろう。
このワールドの今後のカタチ
VRでは空間や物体のスケールを実感するのに適していると思う。なのでクジラという、普段近づくことが困難な体の大きい生き物を扱うのにVRは非常に相性がいいと言えるだろう。ザトウクジラのスケール感を体験できるようにする為には、これからのアップデートでクジラに近づいて間近から、彼らの海中の動きと海上の動き、どちらも観察しその迫力を体験できるようなワールドにする必要がある。その為には、泳ぐクジラに肉薄する移動手段と、海中から海上へのスムーズな移動が必要になる。
また、メタバースとは、人が集まって交流が生まれて初めて真価を発揮する物だと捉えている為、最終的には制作したワールドで「VR版ホエールウォッチング」をしながら、有識者やクジラファンが交流したり情報を交換しあえる場となるのが理想である。VR内で、時間空間の垣根を越えた、体験を伴うクジラにまつわるサイエンスコミュニケーションが行えるワールドがを生み出したい。
今後の課題
パーティクルを使った飛沫の制作
アニメーションの追加、改善
アニメーションの管理方法の改善
海中に入った時の海底と海水の表現
人が集まれる「場」と「仕組み」の確保
移動手段
ワープを利用した複数シーンの実装
三宅島要素の実装
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