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光と影

昨夜が満月。すっきりと晴れわたり、美しい月に心を動かした人が多いでしょう。数日前、仕事帰りに見上げた空は、曇り空の霞がかかった月夜でした。思わず足を止めて空を見上げたと同時に、澄み切った空に昇る月ではなく、霞がかかった月の光を美しいと思うはなぜだろうとふと疑問に思いました。

ところで、100分de名著という番組があります。国内外問わず、著名な作家の作品の朗読と解説を聴く番組です。昨日は、谷崎潤一郎の回をまとめて再放送していました。

中でも、「陰翳礼賛」という作品について取り上げた回が印象的でした。まず、わたしは小説家が書くエッセイが好きなんですね。エッセイは「わたし」が主語ですから、擬人化された世界でものがたりを紡ぐ方の、人となりを垣間見れるようで楽しいなと思うのです。「陰翳礼賛」では、広い窓があり、光をたくさん取り込む西洋建築より、薄い障子紙が演出する仄暗さを日本的な美しさとして語られているそうです。タイトル通りです。

人だって、光と影があるから魅力を感じると思います。

話は変わって昨日、とある患者さんの家の近くまで車を走らせました。お母さんの介護をしていた頃から付き合いがある方で、お母さんが亡くなられた後、自分自身も患者となり、いつもにこやかに薬を受け取っていく方でした。

この患者さんが先日、火事を起こし亡くなられました。明るく振舞っていた方でしたが、過去にご家族との間に起こった出来事など、亡くなられた後だから聞こえてくるつらいエピソードもありました。仕事柄、患者さんが亡くなられて縁が途切れることを避けられないのですが、いつも通り淡々と受け止めることは難しかったです。

昨日は天気が良く、暖かくて農作業日和。
本来なら、良い天気だなぁ、紅葉も綺麗だなぁ、と空を見上げながら庭仕事に勤しむ日だったでしょうに。
熱かったよね、苦しかったよね。

道路端に車を停めて、手を合わせてお別れを言いました。今となっては不思議なもので、あの患者さんなら、「先生、やっちゃいました」とニコニコしながら話してくれそうに思います。

穏やかで、陽だまりのような人でした。
また会いましょう。どうか安らかに。

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