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変化する世界最大の小売業

こんにちは、コーイチです。
今回は、世界最大の小売業である「Walmart」の最近の取り組みを見ていき、これからの日本の小売業の改革はどうなっていくのか考えたいと思います。

1.Walmartとは

(出典:MSCRYPTOO youtubeより)

 「Walmart」は、サム・ウォルトンが1945年にアーカンソー州ニューポートにベン・フランクリン雑貨店を開いたことに始まります。
 その1年後、弟のジェームズが、ミズーリ州バーセイルズに同様の店を開き、サム・ウォルトンは、1950年にアーカンソー州ベントンビルで「ウォルトンズ5&10」を開業しました。
 1962年まで創業者の事業は雑貨店の経営に限られていましたが、同年7月、ディスカウントストアである最初のウォルマート・ディスカウント・シティを、アーカンソー州ロジャーズに開いたのが現在の「Walmart」の創業となりました。
 「Walmart」が急激に伸びたのは1960年代から70年代で、この時期には多くの町が「Walmart」の新規出店を熱心に誘致しました。しかし1996年に「Walmart」の店舗数はピークを迎え、「Walmart」の出店が地元にあまり大きなプラスにはならないことが、明らかになってきた後、減少に転じました。
 また米国内の既存店も売り上げが伸びず、苦戦していきました。原因は、従業員の士気の低下によってサービスの質が落ち、顧客満足度が低下していることにあったと言われています。
 しかしながら、2008年度ごろから売り上げは改善の兆しを見せ、回復基調となり、2012年には売上高が40兆円を超え、2位の「カルフール」に3倍以上の差をつけました。
 それに伴い2012年度には株価は上場以来初めて70ドルを突破し過去最高値をつけるなど、世界最強の小売業者となっています。

 「Walmart」は、売上高60兆円を超える「世界最大の小売業」となります。参考までに、アマゾンで売上高は42兆円、日本のイオングループの売上高は8.6兆円です。
 「Walmart」の代名詞といえば「EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)」で、「特売」を廃し、また年間を通じた低価格を押し出すことで、アメリカはもとより世界中の消費者から支持されています。
 「Walmart」は全米で約4700店舗を展開しており、全人口の90%が「Walmart」の店舗から10マイル(約16キロメートル)以内に住んでおり、世界15か国に進出して事業展開しています。

2.コロナ禍における成果

(出典:Walmart youtubeより)

 新型コロナウイルスの感染が世界的に広がった2020年2〜4月(第1四半期)でさえ既存店舗の売上高は前年同期比10%増と、およそ20年ぶりとなる高い増収率を記録しました。
 また、「Walmart」はコロナ禍で主に下記のような取組みを行いました。
⃝従業員の安全と健康を最優先し、サプライチェーンを継続させ、サプライ 
 ヤーや取引先など社外への支援や新たな雇用を創出。
⃝ コロナ禍で急増したEC需要に対応し、非接触型サービスを拡充させるた
 め、有料会員制プログラム「Walmart+」をスタートし、ネットスーパーの
 当日配送サービスを無制限で利用できるようにした。
⃝ 診療所事業の「Walmart Health」を進展させ、透明性のある低価格な医療
 サービスを提供。
⃝気候変動問題への対応策「プロジェクトギガトン」を進行させ、2030年ま
 でにサプライチェーンで発生するCO2を累計で1ギガトン(10億トン)を
 削減する方針とした。
⃝ DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)に触れて、多様
 性のあるチームが勝ち、インクルーシブな環境が成功をもたらすと発言。
〇オンライングロサリーの急増に伴い、ストアピックアップと配送サービス
 を、5年間分の成長を5週間で成し遂げた。

 また、これらの急成長を可能にしたのは、「Walmart」の巨大な店舗網であり、新型コロナの影響で来店客数が減ってもなお、店舗が重要な役割を担うという見方を示しています。

3.新しいビジネスモデル

 2021年2月の投資家向けのカンファレンスでは、「Walmart」の「新しいビジネスモデル」が発表されました。
「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」を軸にして従来のサービスラインを再構築していることが最大の特徴となっています。
 顧客との直接的な接点となる、ストア、ピックアップ、デリバリー、そして「Walmart+」を強化していくことと、顧客にもっと幅広く深くサービスを提供し、関係を深め、健全なサービスミックスを維持することを上げています。
 ECでは引き続き、自社在庫商品の販売とマーケットプレイスの両方を展開、ヘルス&ウェルネスの領域では、今後はさらに高品質で、予防的で、アクセスがしやすく、手頃な価格の商品・サービスを提供すると強調しました。
 金融サービスについても、「Walmart Pay」を非接触決済システムとして刷新し、一気に普及を進めました。

 「Walmart」は「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」を考え、EC、ヘルス&ウェルネス、金融サービスを、優先順位の高いサービスとして考えているようです。

4.新しいサービス

(出典:TDInsights Live youtubeより)

 〇金融サービスの拡充
  従来、家電製品などの購入に使う「Walmart app」と食品購入用の 
  「Walmart grocery app」の2種類があったアプリを「Walmart app」に
  統合し、そこに「Walmart Pay」も搭載しました。
  これにより、顧客のIDと決済データという、最も基本的な顧客接点を押  
  さえたことになります。今後は、中国のアリペイ、ウィーチャットペイ    
  のように、消費者金融をはじめとするさまざまな金融サービスを手掛け
  ていくことになると予想されます。

 〇Walmart Connect
   2021年1月末に「Walmart」はデジタル広告を扱う部門を「Walmart
   Connect」として再編し、自ら広告プラットフォームを運用すること
  で、自社サイトや店内サイネージなどに取引先からのデジタル広告を表
  示し、新たな収入源とする狙いがあります。
   プライバシー重視の流れの中、ターゲティング広告が利活用できなく
  なりつつあり、これから各社は、広告事業者に頼らず、企業自らメデ
  ィア化して顧客と直接的な関係を結び、顧客プライバシーを保護しつ
  つ、継続的で良好な関係性を築いていくことが、ますます求められてき
  ます。
  「Walmart Connect」は、その先端事例であり、顧客の生活の一部とし 
  て組み込まれている「Walmart」は、すでに単なるリテーラー以上の存
  在で、蓄積しているデータも、データ企業以上のものとなっています。
  そのような企業がメディアを運営するとなれば、メディア以上のメデ
  ィアになるのも難しくはないのかもしれません。

 〇Walmart Health

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(出典:edition.cnn.comより)

  「Walmart」は国民皆保険制度がない米国において、透明性のある低
  価格な医療サービスを提供することを目的に、2019年9月から店舗に併
  設する形で「Walmart Health」の開設を始めました。2021年1月期末時
  点でジョージア州とシカゴ地域で9カ所を運営しています。
   「Walmart Health」は、地元の医療機関との提携により運営されてお
  り、医師や歯科医、診療看護師、医療技師などが常駐し、初期診療や臨
  床検査、レントゲン撮影、歯科治療、眼科治療などの医療サービスを提
  供しています。
   また2021年5月に、遠隔診療サービスの「MeMD」を買収し、オンラ
  インとオフラインを組み合わせたオムニチャネル化を進めています。
   遠隔診療サービスは、消費者の医療アクセス機会を大幅に広げ、
  (実店舗型の)「Walmart Health」を補完するものとなります。

 〇Interactive store

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(出典:retail-week.comより) 

   「Walmart」はオンラインとの融合を意識した店舗デザイン刷新に着
  手しています。
   2020年秋にスタートした第1弾では、店頭在庫を絞り込み、「デリ」
  や「婦人アパレル」といった売場サインを大きく掲げることで、スマホ
  アプリを使って商品がどこに置いてあるのかをすぐに探せるようにしま
  した。
   また、非接触のセルフレジを導入したり、来店客がスマホアプリを使
  って商品バーコードを読み取り、アプリで決済できる「スキャン&ゴ
  ー」も利用できるようにしました。
   こうした店舗デザインの刷新は、すでに1000店舗近くで実施され、来
  店客や従業員からのフィードバックを生かして、第2弾の店舗デザイン
  刷新を進めています。
   第2弾では、すっきりとした店内デザインで商品を探しやすくしてい
  るほか、各売場にディスプレーコーナーを設置して商品のコーディネー
  ト提案を強化しています。
   「Interactive store」と名付けられたプロトタイプは、アーカンソー州
  スプリングデールの既存店を改装し、2022年1月にオープンしました。
   店内にはデジタルサイネージを多数設置、売場案内として活用するほ
  か、商品の魅力を伝える動画を配信しています。
   「Activated corner」と呼ぶディスプレーコーナーを売場ごとに設置
  し、アパレルや寝具などのコーディネートを提案しています。
   「Elevated Brand shop」と呼ぶインストアショップ的な売場展開も増
       やしました。「リーボック」などのナショナルブランドや「Walmart」
       のプライベートブランドを、広いスペースを使って1カ所で集中して展
       開しています。
   「Walmart」は店舗とオンラインストアの商品部門を統合し、店頭と
  オンラインの在庫管理システムも一元化しました。
   店舗デザインを刷新することでショールームとしての機能を強化し、
  店頭在庫がない商品についてはオンラインストアに誘導、購入できるよ
  うにしています。

 〇Talk Shop Live
   「Walmart」はライブコマースの番組配信を強化するため、2021年に
  「Talk Shop Live」と提携し、2022年2月から、ライブコマース配信プラ
  ットフォームの「Talk Shop Live」で、番組の定期配信を始めました。
   「Talk Shop Live」のプラットフォームを活用して作成したライブコマ
  ース番組は、ウォルマートが自社のECサイトからも配信できるようにし
  ています。
   ライブコマースでは、配信者側が紹介している商品を視聴者が番組を
  見ながら購入でき、現在は、自社サイト「walmartshoplive.com」でも番  
  組を定期配信しています。

 〇バーチャル試着

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   「Walmart」は2021年、イスラエルのスタートアップ企業、
  「Zeekit」を買収し、2022年3月、同社のECサイト「Walmart.com」と
  スマートフォンアプリにバーチャル試着機能を実装したと発表しまし
  た。
   今回実装したのは、「チューズ・マイ・モデル」と呼ばれる機能で、
  約50人のモデルの中から自分の身長や体型、肌や髪の色に近いモデルを
  選択し、ECサイトやアプリ上で好みの服を試着させることができます。
  モデルの身長は5.2〜6.0フィート(約152〜188cm)、サイズはXS〜
  XXXLで、さらに70人近いバーチャルモデルを追加しています。
   ECサイトで販売しているウォルマートのプライベートブランドのほ
  か、ナショナルブランドの「リーバイス」と「ヘインズ」がバーチャル
  試着に対応しており、今後ブランドは順次、増やしていく予定との
  ことです。
   また将来的には、利用者が自分自身の写真をアップロードしてバーチ
  ャル試着する機能も追加していくものと思われます。

 〇Walmart GoLocal

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(出典:retailtechより)

   「Walmart」は2021年8月、ラストワンマイル配送を他の小売業から
  請け負う新配送サービスを開始しました。
   新サービスの名称は「Walmart GoLocal」といい、自社の配送ネット
  ワークを活用して、他社の商品を購入者に届けます。
   新サービスは、ローカルのベーカリー専門店や自動車用品店などの中
  小事業者から、全米規模の大手チェーンまでさまざまな規模と業態の小
  売業を対象とし、専用のサイトでサービスの申込受付を行います。
  
   「Walmart」は2020年2月、同社のECサイト「Walmart.com」の出店者
  向けに、商品在庫の保管や出荷作業、宅配などを一貫して代行するサー
  ビス「ウォルマート・フルフィルメント・サービス(WFS)」を始めて
  いますが、「Walmart GoLocal」は、Walmart.comに出店していない事業
  者も利用できるということです。
   「Walmart GoLocal」では、事業者が受注データを「Walmart」に送信
  し、事業者の受注システムと「Walmart」の配送システムをAPI(アプリ
  ケーション・プログラミング・インターフェース)で連携させることも
  可能となっており、受注データに基づいて「Walmart」が配送車両やド
  ライバーを手配し、購入者に商品を届けます。

 〇自動運転車による配送サービス
   「Walmart」、「フォード・モーター」、自動運転新興企業「アルゴ
  AI」は2021年9月、フロリダ州マイアミなど米国の3都市で自動運転車
  による配送サービスを開始すると発表しました。
   サービス開始後は、「Walmart」のサイトで注文した食品やその他の
  売れ筋商品が自動運転車で顧客の自宅まで配送されます。
   「アルゴAI」のクラウドベースのシステムを「Walmart」のネット注
  文プラットフォームと連携させ、注文の処理や商品の発送準備を行い、  
  「アルゴAI」の自動運転技術を搭載したフォード製の自動運転試験車両
  が商品の配送を行います。
   「Walmart」は過去に、ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転子会社
  「Cruise」と提携し、自動運転車の配送試験を実施したり、自動運転の
  スタートアップである「ガティック」と「ニューロ」とも自動運転車の
  商品配送で組んだりしており、近い将来アメリカ全土でのサービスが開
  始されるのではないでしょうか。

 〇ドローン配送サービス
   「Walmart」は2021年6月、ドローン配送サービスの「DroneUp」に出
  資したと発表しました。
   「DroneUp」とは2020年9月から、新型コロナウイルス感染症検査の
  検体採取キットを、ネバダ州とニューヨーク州の店舗からドローンで配
  送する実証実験を行っており、数百回のドローン配送を安全に完了した
  と言われています。
   「DroneUp」は、米連邦航空局(FAA)認定のドローンパイロットを
  全米で1万人以上組織化しており、顧客企業の要望に応じてパイロット
  を派遣しています。
   「Walmart」は今後、アーカンソー州の店舗でドローン配送サービス
  の本番運用を開始する予定ということです。

5.最後に

(出典:Jason Strate youtubeより)

 EC全盛の時代にあってアマゾンに押され、「世界最強の小売企業である「Walmart」は時代遅れ」と揶揄されてきました。
 しかし「Walmart」は「実店舗で売る」ことに固執せず、オンラインを含めたオムニチャネル化を進め、サブスクリプションサービスを始め、配送まで手掛けるようになりました。 
 DXにおいて最も重要な「デジタルで顧客とつながる」作業を着実に進め、顧客をIDで管理し、決済データも収集するようになりました。
 これにより「Walmart」は、顧客との間に継続的で良好な関係を築き上げる体制を作り上げ、小売のための店舗という機能はそのままに、店舗を「自社ECの倉庫」や「配送拠点」「ECのストアピックアップ」として再定義しました。
 また、「Walmart」は、ビジネスモデルの変革を実行するために、Crunchbaseによると、27社の企業を買収しています(売却済含む)。その内、17社を17年以降に買収していることから、ここ数年で買収を本格化し、
グローバル展開やDX化に力を入れていることがわかります。
 このような数々の企業の買収を経て、長期的・積極的なテクノロジー投資を行える土壌が整った「Walmart」は、バックエンド領域、リアル店舗施策、人材育成等の事業を今後も成功させていくことかと思います。

 日本の小売企業もDX化は進んでいますが、「Walmart」ほどには進んでないように思えます。
 日本とアメリカでは、マーケットや商習慣が違うので、同じことをしても仕方ないと思いますが、日本人にあった、きめ細やかなおもてなしの顧客サービスのデジタル化や快適性、利便性を追求したテクノロジーの導入、顧客とのつながりなどが必要かと思います。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。          
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