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オススメの一冊「学級作りの教科書」

教育の世界には、授業名人、プロ中のプロと称される方がたくさんいらっしゃいます。
私にもそういう憧れの方がたくさんいて、勝手に心の師匠と仰いていますが、その中でも有田和正先生は別格です。
8年前(2014年)にお亡くなりになられましたが、私の中で、有田先生の学級づくり・授業づくりの考え方がずっと生き続けています。

1時間に、一度も笑いのない授業をした教師は、授業終了後直ちに逮捕する

この名言の一つからも表れているように、有田先生の学級、授業では、笑顔が満ちあふれています。
有田先生の実践を知ることができる数々の名著があり、そこには、学ぶことをおもしろがっている子どもたちの姿がたくさん記されています。
そして何より、有田先生ご自身も、教材に、子どもたちに、授業づくりに、学級づくりに向き合うことを心底おもしろがっておられることが伝わってきます。
私もこんな教師になりたい、そして、こんな学級を子どもたちと作っていきたい。
有田先生は、ずっと憧れの教師でした。

教師の道を歩み始めた新米先生の方々にオススメしたい有田和正先生のご名著は数多くありますが、この一冊は外すことができません。

「学級づくりの教科書」 有田和正(著)ーさくら社

今回の記事では、この本の中から、オススメの実践を3つご紹介します。
読んでいただいた新米先生が共感してくれて、自分も実践してみたい!とこの本を手にとってもらえたらとっても嬉しいです。

オススメ1 春をさがすのはいつがいいか?

春をさがすのはいつがいいか?

「春さがし」のような季節を感じる学習は、低学年の生活科の定番ですね。
私の住む北海道では、桜は5月に咲くのですが、どうでしょう?桜前線の北上に合わせて春さがしをするというような、分かりやすい春さがしをすることがありませんでしたか?

でも、「春さがし」を春にするのはナンセンスだ、と有田先生はおっしゃいます。

2月初めの大寒の頃、外を見ると雪がチラチラ降っている。こんな日が「春さがし」にいいなと思った。
私は、窓の外をじっと見つめた。
子どもたちは「何をしているのだろう?」と、私の目線を追った。
ついに待ちきれなくて、「先生、何してるの?」と言う。「うん、雪が降っているね。でも春が見えるんだよ」と言うと、「先生、気が狂ったんじゃないの?」と言う。
「いや、気は確かだよ。春さがしに行こうじゃないか。雪は降ってるし、雪と遊んでもいいんじゃないか」と言う。

「学級づくりの教科書」 有田和正(著)ーさくら社 P71

この後、子どもたちは、校庭の木々の芽がふくらんでることに気がつき、見事に「春」を見つけるのです。

生活科の学習は、感性を磨くことでもあります。満開の桜を見て、「あー、春だなぁ。」なんて言っていては、感性が磨かれることはないでしょう。
冬に春をさがし、春に夏をさがし、夏に秋をさがし、秋に冬をさがす。
こうすることで、感性が研ぎ澄まされる
のです。

オススメ2 ○○のプロ

○○のプロ

学級活動の一つとして、係活動を取り入れている学級は多いことでしょう。遊び係、新聞係、整理係、お手伝い係、お笑い係、手紙係、黒板係・・・・etc私の学級でも、様々な係が生まれては消えていきました。

では、有田学級にはどんな係があったのでしょうか?

教師が植木鉢に水をやっていると、「先生、私にやらせてください」と言う。「やってくれるのかい。ありがとう。先生は助かるよ」と答える。
その後、私は教室に模造紙を貼り、「フラワーショップ○子」と書く。
〜中略〜
教室へ電話がかかってくる。子どもが、
「先生、電話ですよ。出ないの?」
「ああ、電話係さんありがとう。電話に出てよ」
こうして電話係が誕生する。
電話係に、電話のかけ方を練習させ、「電話のプロ」と名付ける。
〜中略〜
二年生になると、係名は一段とおもしろいものになる。ちょっと挙げてみよう。
フラワーショップ、ごちそうさま、雨のうた、出発係、黒ネコヤマト、ブックセンター、「きみ、元気」、ドアマン、ウィンドーマン、涙の倉庫番、行ってきます、ごりごりマン、オロナミンC、ひき出しショップ、日直小先生、机ならべ、消し屋、コピー、きかいマン、夢の島マン、広告マン、縄跳び小先生・・・。

「学級づくりの教科書」 有田和正(著)ーさくら社 P126,127

まず、係の誕生の仕方がおもしろい。子どもたちのやりたいことが係の仕事として認められています。
そして、そのやり方をきちんと教えてやり、「○○のプロ」の称号を与えることで、一人ひとりにプロ意識を育てています。

このプロとしての活動が、先生からほめられ、クラスのみんなから感謝されて、やりがいを感じることで、さらに工夫をして、活動を活性化させるという好循環が起こっているのです。

「給食係のプロ」は、間もなく「ランチをどうぞ」と言う名前に変えた。
この名前は、給食のプロたちが、クラスのみんなに募集して、その中から選んだものである。
〜中略〜
名前を変更してから、ますますその名にふさわしいサービスをするようになってきた。
歴史学習で、「十七条の憲法」の学習をした。一条から十七条まで学習したわけではない。それなのに、、「ランチをどうぞ」の子どもたちは、さっそく「十七条の憲法」のパロディーを作って、教室に貼り出した。

「学級づくりの教科書」 有田和正(著)ーさくら社 P140

有田先生は、係活動を通じて、奉仕・継続・自治・創造の精神を養うと言います。
教師がときどきゆさぶりを入れて、本物の係活動になっていく様がこの本には描かれています。

オススメ3 おたよりノート&はてな?帳

おたよりノート&はてな?帳

有田先生の代表的な実践の一つに「おたよりノート」という実践があります。子どもが書く学級通信のようなもので、私も連絡帳という文化がある学校ではよく取り組んでいました。(現在勤務する学校では、連絡帳がないので、最初はさみしく感じていました。)

七月十日   一年M子
わたしは、いつもきゅうしょくじかんに、すこしたべたら、すぐHくんをみます。
だって、どのくらいたべたか しらべているのでございます。
Hくんは、はがないから、かまずに、のむようにたべているのでR。だから、はやいのでございます。
わたしは、Hくんのまねをして、のむようにたべてみました。そしたらなんと、きょうは5ばんくらいでした。あしたも、Hくんのまねをするぞ!!
ここらへんで、おわりにするのでR。

「学級づくりの教科書」 有田和正(著)ーさくら社 P37

4月から「ございます」「ござる」「でR」などのことばを先生が使って、おたよりノートを視写させていると、一年生でも7月には、こんな文章が書けるのだから、おもしろい。

入学のときから書かせていけば、「書くものだ」「書くのが当然」と思うようになり、書くことが苦になりません。

そのための仕掛けが、このおたよりノートであり、はてな?帳であったのです。有田先生は、この2冊を毎日書かせていたそうです。

国語のとき、虫の話をべんきょうしているとき、先生が、こくばんに、でたらめな文をかいた。
それなのに、ぼくたちは、それに、なかなかきづかなかった。けど、たったひとりわかった人がいた。それは、Iちゃんです。それで、こんどからみんな気をつけて、国語のきょうかしょを見るようになった。
どうして、先生なのに、子どもたちをだますのかな?
一年K男

「学級づくりの教科書」 有田和正(著)ーさくら社 P84

有田学級の子どもたちが書く文章は、とにかくユーモアがあっておもしろいのです。
どうしておもしろいのか?ということを考えとき、この本から読み取れる有田先生の授業・学級づくりを知れば、ごく当たり前のように感じられます。

有田先生が、いかに明るく、ユーモアのあふれた学級づくりを大切にされていたことがわかります。
そして、子どもの「見る目」をきたえ、子どもの「明るい面」を伸ばすためのさまざまな仕掛けが、引用されている「おたよりノート」「はてな?帳」の記述からも伝わってきます。

まとめ

もうずいぶんと前の話になります。私が二十代の頃に勤務校の研究主任を務めた時に、ご縁があって、研究大会の講師として有田和正先生をお呼びすることができました。
講演会では、会場にいる多くの先生方皆さんが、まるで有田学級の子どもになったかのように、有田先生の授業に引き込まれていました。

1時間に、一度も笑いのない授業をした教師は、授業終了後直ちに逮捕する

一度どころか、何度笑い転げたことでしょう。

とにかく明るい有田先生のお人柄と、物事を見る視点の多さと高さに驚かされました。

そして、講演会の興奮冷めやらぬ中、私の車で空港までお送りし、直にお話しさせていただいたことは、今でも私の大切な自慢です。

私の大好きな有田和正先生の授業観・学級観がぎゅっと詰まったこの一冊は、教師の道を歩き始めた新米先生方へ自信をもってオススメする大切な本の一冊です。

「学級づくりの教科書」 有田和正(著)ーさくら社

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