小説「魔法少女舞隊マジカル・シックスティーン」39信頼と尊敬
チロの平穏な日々はそれからしばらく続いた。
学校は、失踪中に転校する手続きがされていた。ユエス・アムドの力なら造作もないことだ。その学校はマジカル・フォーの通うところだ。クラスまで同じにしてもらったため、チロはかなり気が楽だった。
転校し、五日ほど立った土曜の帰り道。二人は一緒に下校していた。
「ねぇ、レミ」
チロはマジカル・フォーを本名で呼ぶが、そう呼ばれた彼女は口をモゴモゴと動かして返事をしない。
「レミってば」
「……なんか、名前で呼ばれるのって気まずいね」
「そろそろ慣れたでしょ? 学校でマジカル・フォーだなんて呼べないんだからさ。私もチロでいいから」
「分かってるけどさ。なんか、照れくさいっていうか。コードネームで呼ぶのに慣れちゃってるからさぁ」
「慣れてよ。ほら、チロって呼んで」
「チ、チロ」
顔を真っ赤にしているレミを、チロは鼻の下を伸ばした、いやらしい笑顔を浮かべて見た。
「ちゃんと言えたじゃーん」
「う、うっさい! そんなことより、学校は慣れたの?」
「うん、これもレミのおかげだよね。レミはクラスメイトの信頼を得てるっていうかさ、尊敬されてるよね。私とは大違いだよ」
「まぁ、チロは優しいからね。私はさ、ビビられてるんだよ」
「ビビる? なんで?」
「ほら、私ってちょっと怖いでしょ。見た目とか」
「えー? 怖くないよ。可愛いじゃん」
「な、何いってんのよ!」
チロは別におべっかを使ったわけではない。本心からそう思っていた。レミの大きな瞳、きめ細やかな白い肌、薄い唇、ツヤツヤの美しい髪を羨んでいた。その恵まれた容姿は、そこいらのアイドルすら凌ぐと思っている。
「見た目じゃなくて、普段の生活態度かもね。レミってなんか、委員長とか生徒会長とか風紀委員とか、そういう人たちみたいなキチッとした感じがあるよね」
「そりゃそうでしょ。私たちユエス・アムドなんだよ。皆の規範となるようじゃないと」
「う。そ、そうだよね。ちなみにレミは成績はどのくらい?」
「どのくらいって、普通に学年でトップだよ」
「普通じゃないって!」
「普通でしょ。チロは? 前の学校ではどうだったの?」
「私は、その……」
今度はレミが、ニヤニヤとチロを見つめてきた。
「まさか、言えないような成績じゃないでしょうね?」
「ま、まぁそれは良いじゃない! それよりさ、ロー・シレンだよ。あれ以来、ぜんぜん出てこないけど、不気味じゃない?」
わざとらしいほど急に話題を変えたが、レミは簡単に乗ってきた。腕組みし、アゴに指をあてて神妙な顔になった。彼女にとってもそれは関心事だったのだ。
「確かにね。一体、何を企んでるのかしら」
「立て続けに攻めたから、向こうも戦力が無くなったんじゃない?」
「その可能性はあるね。どういう風に補充しているのかは分からいけど、無限に湧いてくるわけじゃないでしょうし」
「どうなのかねぇ? 実際、どうやって戦力補充してると思う?」
「私が知りっこないでしょ。チロはどう思うの?」
「さぁ? 畑で採れるんじゃないかな?」
「ふざけてないで考えなさいよ!」
二人はそんな話をしながら家ではなくマジカル・ヘッドクオーターへ直行していた。出動は無くとも、訓練は再開されているのだ。
着替えるために更衣室へ行くと、そこには頭に包帯を巻いたマジカル・テンフォーティーがすでにいた。
「パイセンがた、チワッス!」
「マジカル・テンフォーティー! もう出てきていいの?」
「もう通院で大丈夫ッス」
火傷は生死に関わるほどのものでは無かったが、皮膚移植がうまくいっても完全に跡が無くなるということはないそうだ。
チロとしても彼女の治療のことは気になっている。なんとか元気づけたいが、原因が自分だけに良い言葉が出てこない。
「うまくいくといいね……」
「まー、大丈夫っしょ! あ、そうだ。春野さんに仮面を発注したんスよ」
「仮面!?」
「そうッス! 謎めいててカッコよくないッスか? できるの楽しみなんスよねー」
「どういうデザインにしたの?」レミも関心深げに聞いた。
「それは出来てのお楽しみッス」
あくまでポジティブな彼女を、チロは尊敬の眼差しで見た。どうしてこんなに強くいられるのだろうと思う。クラスメイトから冷たい目線を向けられたくらいで、あれほど落ち込んでいた自分が情けなくなってくる。
「私も作ってもらおうかな」
「あ、それ良いッスね! 全員お揃いで作りましょうよ」
「ワタクシは狙撃の邪魔になるからいりませんわ」
入り口から聞こえる声に一同が振り向くと、そこにはマジカル・エイティツーが壁により掛かるように立っていた。
「あ、エイティツーパイセン! チワッス!」
「ともかく、元気そうでなによりですわ。二人もその後、体調はどう?」
「私はもう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「そうね。連絡もなしにどこかへ行ってしまう、というのは最低の無責任な行為ですわよ。もう二度となさらないでね」
「ハイ……」
がっくり肩を落とすチロに、マジカル・エイティツーは微笑みかけた。
「何にしても無事で良かったですわ。やはりこの四人が揃わないと、ユエス・アムドとは言えませんから」
彼女たちは経験を積み、さらに結束を強めていた。それを確かめるように、四人は無言でうなずきあった。
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