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僕が本当に面白いと思う、アカデミー賞作品賞受賞作5つ

1987年 プラトーン

オリバー・ストーン監督、チャーリー・シーン主演の戦争映画。

恵まれた環境で生まれ育った主人公クリスは、感情任せに軍隊に志願。ベトナムに派遣された彼を待っていたのは、過酷な現実だった。

戦争映画ではあるが、ヒューマンドラマ要素が強い。異質の中の異質である戦争という環境で、人の醜さが露呈する。そのあまりの醜さにショックを受けながらも、生き残るために翻弄する主人公。我々がもし仮に当時の戦地へ行ったら、同じ思いをするはずなので、感情移入せざるを得ない。
ところで、この映画に限った話ではないが戦争映画は前触れなく人が死ぬ。強烈な緊迫感があるし、どうしても過激なシーンはある。しかし学校の授業で流すところもあるそうなので、客観的に見ても耐えられないレベルではないのだろう。(ちなみに僕は「ホステル」を普通に観てしまう人間なので、プラトーンを観ても突然目を背けるようなことは無かった。)
公開から30年以上経った今でも、戦争映画の最高傑作に挙げる声は多い。アカデミー賞作品賞を観たことがなかった僕を「作品賞を獲る作品はやはり凄いのだ」と思わせた傑作。一般教養として、ぜひ。

2005年 ミリオンダラー・ベイビー 

クリント・イーストウッド監督、ヒラリー・スワンク主演のボクシング映画。

人間関係的にも金銭的にも恵まれない主人公マギーが、一念発起してボクシングジムに入門する。ジムを経営するのは不器用な名トレーナー。初めこそいざこざがあったものの彼らは次第に打ち解け、トレーニング以外のところでも互いの話をするまでになる。元々才能があったおかげでみるみる成長したマギーは、瞬く間に有名選手の座へ登り詰める。ところが、待っていたのは残酷な結末だった。

ロッキーのようなサクセスストーリーを期待していた我々に、強烈な右ストレートを浴びせる胸糞な名作。ネタバレになるので詳しくは書けないが、ノリノリ展開から打って変わって、最後に重いオチが待ってある。落差が辛い。主人公とトレーナーの決断は正解だったのか。人それぞれ、意見が分かれる。このテーマを扱った以上、そしてアカデミー賞作品賞を受賞した以上、全世界で論争が起きたのは当然のこと。
そんな「問題作」とも言える作品だが、後味の悪さをも凌ぐ映画としての質の高さも味わえる。無駄のない脚本、俳優陣の完璧な演技、そしてそれらを存分に引き出す優れた演出。正直なところ、僕はあまり後味が悪いとは思わなかった。オチにショックは受けたものの、「素晴らしい映画を観ることができた」と満足できたからだ。
この映画、名作を語る上で欠かすことはできない。

2008年 ノーカントリー

コーエン兄弟監督、ジョシュ・ブローリン主演のスリラー映画。

マフィアの抗争の現場に、大金が残されていた。主人公のモスは、それを持ち帰ってしまう。それが悪夢の始まりだった。彼はマフィアに雇われたサイコパス・シガーに、どこまでも追われることとなる。

まず、このようなサイコスリラー映画が作品賞を受賞したことが異例。おそらく史上初だったのではないか。頭脳を駆使して逃げ回るモスと、あらゆる手段を使ってモスを追い詰める殺し屋シガー。これだけならただのアクション映画だが、そこにマフィアや警官や賞金稼ぎらが絡んでくることで、ヒューマンドラマ要素も付け加えられる。そんな映画だ。またわシガーの狂気を始め、人物描写が巧み。ゆえに人物一人一人に魅力が生まれ、(殺戮シーンや撃ち合いを除けば静かな映画だが)飽きが来ない。ちなみに、原題の「No Country for Old men」(老人のための国はない)が意味するところは、登場人物中唯一の老人である保安官のベル(トミー・リー・ジョーンズ)の言動を注意深く観察すれば、おおよそ理解できると思う。
このような、緊張感のあるサイコスリラーに編み込まれた深みのある文学性、そして、この年の他の映画が全体的にパッとしなかったことが、この作品の異例とも言える受賞に繋がったのだろう。スリラーものが苦手でなければ、観る価値がある。

2011年 英国王のスピーチ

トム・フーパー監督、コリン・ファース主演のノンフィクション。

吃音持ちのアルバート英国王子(のちのジョージ6世)が、国民への重要なスピーチに向け吃音を克服しようと奮闘する。それを妻と言語聴覚士がサポートする。話としてはそれだけ。

このような単純かつあまりインパクトのないストーリーゆえに、ネガティブな評価も多い。しかし、1人の人間が途方もないプレッシャーと闘いながら先天的な障害と向き合う姿、それを明るくサポートする妻、次期王位継承者相手でも一向に怯まず向き合う言語聴覚士。この3人の人間ドラマは、実話であることも手伝って力強く心に響く。もちろん俳優陣の演技も素晴らしい。特にヘレナ・ボナム=カーター。彼女は昔から素晴らしい女優だが、この映画での演技は文句の付け所がなかった。
教養のみならず、教育的観点からも優れた名作。僕は大学時代、この映画に関するレポートを書かされた(クラス最高評価をもらった)。アカデミー賞作品賞受賞作にしては重くなく、鑑賞の難易度も低い(誰でも理解できる)。わりとオススメ。

2015年 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、マイケル・キートン主演の、演劇を舞台にしたヒューマンドラマ。

かつてバードマンというヒーロー物の主演を務め、一世を風靡した俳優のリーガン。今ではすっかり落ちぶれ、家庭環境も最悪。そんな彼は自ら舞台をプロデュースすることで再起を図ろうと考える。しかし、舞台化に選んだ作品が演劇に向かない作品だったり、出演者が負傷したり、代役が変人だったりと、さまざまな困難に見舞われる。果たして舞台は成功するのか。

全編ノーカットで撮影されたように見せる、特殊なカメラワークが特徴。それ以外にも、かつて自身も「バットマン」を演じたマイケル・キートンの迫真に迫る演技。脇を固まる実力者俳優たち。現代社会を皮肉るストーリー。全く先の見えない展開、終盤に判明するタイトルの意味などなど、魅力は多い。
ただし話自体は難解だ。作中で開催される舞台の原作「愛について語るときに我々の語ること」自体が非常に難解な小説であり、まずその理解にエネルギーを奪われる。さらにこの映画自体もかなり渋いヒューマンドラマであり、内容もやや硬い。ラストもわかりやすいハッピーエンドやバッドエンドではなく、解釈の分かれるぼんやりとしたものになっている。人によっては全く良さがわからないだろう。(映画に詳しい詳しくない関係なく)
だが、僕はこの映画を鑑賞し終えたとき、素直に顔が綻んでいた。面白かった。人間のシリアスでリアルな言動を味わえたし、特殊な撮影技法も経験できた。久々に芸術作品を観た気がした。
アカデミー賞作品賞は妥当。ただし軽い気持ちで観ると後悔するので、興味が湧いた人のみ観てみてほしい。

お金に余裕のある方はもし良かったら。本の購入に充てます。