ファン・サポーターは看板を背負っている

1.高校の校長の下手なスピーチ

「皆さんは、我が校の制服に身を包んで通学しています。皆さんのしたことは制服を通じて我が校の評判に繋がります。ぜひとも、我が校の名に恥じない言動を心がけていただきたいと思います。」

今でも忘れられない。高校時代の校長の朝礼だ。
校長は自らも認めるほどにはスピーチが苦手な人物だった。言葉選びが上手くなかった。
そのため、僕(渡部"蓮"郎)は当時
「ああ〜自分の名誉に生徒を利用するやつね〜ちょっと〜ナメてるよね〜来いよ〜」
と、少し不快に感じたものだ。

その翌年、少し大人になった僕は、口下手な校長が何を伝えたかったのかを改めて考えてみた。

学校とそのトップである自分の名誉のため、生徒諸君には紳士淑女たる行動をとってほしい。言葉通りに受け取ればただそれだけのスピーチだったが、彼の名誉のために、もう少し深掘りしてみた。その結果は、以下のようになる。

「悪い評判ほど早く伝わる。そうなれば、私をはじめとする教職員だけでなく、この高校の生徒のイメージまで悪くなってしまう。イメージが悪くなって良いことはない。悪名が轟けば優秀な教員や学生を招くのが難しくなり、偏差値が下がる。そうなれば教職員や生徒の評価まで下がる。"かつて名門だった"と揶揄されてしまう。これは、退職や卒業の後まで付き纏う深刻なダメージだ。
また、規模の大きなものでなくても、影響は日常の何気ないところまで及ぶ。
例えば、我が校の生徒限定で割引キャンペーンを張ってくれる近所のラーメン屋が、キャンペーンをやめてしまうかもしれない。文化祭で我が校に段ボールを供与するために、わざわざ処分せず保管しておいてくれる駅前のスーパーが、協力を拒んでしまうかもしれない。2つ先のターミナル駅までタクシーを使う生徒がいるが、今後は乗車を拒まれてしまうかもしれない。些細なことではあるが、金銭や時間に余裕のない学生にとっては死活問題たりうる。
だから、品行方正であるに越したことは無いのである。自分たちのために、友達のために、後輩のために、そして(何より)、私たち教職員のために、品行方正であってほしい。」

ここで僕が思い浮かべた例は、どれも「かもしれない」思考から生まれた暗い想像に過ぎない。しかし、「ありえない」と切り捨てられないのは事実である。

2.ユニフォームやアイコンも制服である

前置きが長くなってしまったが、本題に入る。
本題とはズバリ、「JリーグクラブのユニフォームやSNSのアイコンも制服と同じ」という事である。

ファンが贔屓クラブのユニフォーム姿やアイコンを使ってトラブルを起こす行為。それは、クラブの看板を背負って暴れているも同然だ。

ここで言うトラブルには、違法行為や迷惑行為はもちろん、新型コロナ対策に違反する行為も当てはまる。世間が敏感になっている今、最も気を遣わなければならない事かもしれない。酒が入った勢いで、ホームタウンでマスクも羽目も外している人はいないだろうか。

「イメージが低下したから何?俺たちはワルだぜ!」と考える人もいるかもしれない。

しかし、先述した高校の例と重ね合わせて考えてほしい。
イメージの悪さは、ファンのみならずクラブにも悪影響を及ぼしかねないのだ。


例えば、有望な若手選手やスポンサーの獲得に悪影響が出る可能性を考慮したことはあるだろうか。
実際にそのような事例があるのかは不明だ。しかし、「おたくはイメージが悪いので嫌です」と明言する人はいない。「実は、契約不成立の背景にイメージの悪さがあった」パターンの存在は、捨てきれない。潜在的な事例があるかもしれない。

確実な因果関係は立証できないが、かと言って因果関係を否定することもできないのだ。

話は変わるが、このご時世になってもなお、SNSで悪口雑言を書き殴っている人が存在する。

これに関しては、差別発言でもない限りサッカー界隈の外に出ることはない。無関係の人々に迷惑をかけることはまずない。

しかし、クラブの看板を汚し、他のファンやクラブに迷惑をかけることに変わりはない。世間からは嫌われなくとも、Jリーグ全体から冷たい目線を向けられる。本質的なタチの悪さはどっこいどっこいだ。

また、クラブやファンといった括りで捉える以前に、見た人を傷つける、トラウマを与えるといった加害行為にも繋がる。単なる愚痴や感想ならともかく、誹謗中傷を書き込む行為や攻撃的なリプライには相当な破壊力がある。

これは昨今散々話題になったので、言うまでもない事かもしれないが。

はっきり言って、時代遅れも甚だしい。

上述した種々の余計なリスクをゼロにするためにも、ファンとして、イメージ低下を回避するに越したことはないと思う。

3."大半はまとも"は通用しないかもしれない

無論、大半のファン・サポーターはまともだ。僕はそう確信している。

20年近くに渡りJリーグを見てきたが、年々スタジアムの治安が改善され、様々な層が楽しく訪れる場になっている印象を受ける。また今年は、コロナ禍のスタジアムに"マナーを守れないファン"がほとんど現れないことにも感銘を受けた。

他の界隈と比較しても、民度は高い方だとすら思う。

なので、時々悪質なファン・サポーターが現れても、「そんなのごく一部だから」と笑い飛ばせる。

しかしこれは、僕が長らくJリーグを見てきたおかげである。現状を知っているゆえに、「大半はまともだ」と自信を持って思える。

一方で世間一般の人々は、"たまたま目にした不届き者"以外のファン・サポーターの素性など知る由もない。
大半はまともなのかもしれないと頭では理解できても、自信を持てない。Jリーグ界隈全体を知らないのだから仕方がない。

彼らの頭の中では、全体のほんの数%の不届き者が、異様に大きくなってしまう。Jリーグファンは、あのクラブのファンは、あのユニフォームを着ている人は、皆あのような不届き者なのではないかと思い込んでしまう。

ほんの少数の言動が、全体のイメージを左右する。「大半の人はまともだったことくらい、わかるだろぉ?」との理屈には、残念ながら頼れない。

4.看板を背負っている自覚を持つこと

全てのファンが「自分は贔屓クラブの看板を背負っている。自分の言動一つでファン・サポーター仲間やクラブのイメージが変わるかもしれない。そのイメージの変化が、クラブの補強に影響を与えるかもしれない。経営に打撃を与えるかもしれない」と考えるようになれば、ファンによる愚行は大幅に減ると思う。

「そんなの妄想だろう」「大した影響力ないっしょw」などと鼻で笑う人もいるだろう。そう考えるのは自由だ。この文章は僕がJリーグ界隈を見てから頭の中で組み立てた論理であり、明確な論文やデータに基づいたものではない。反論意見を全否定することはできない。

しかし、斜に構えてファンの言動の影響力を軽視するよりも、クラブの看板を背負う1人のファンとして、愛するクラブのイメージアップのためにより善き言動を心がける方が、よほど合理的で大人な姿勢だと思う。

お金に余裕のある方はもし良かったら。本の購入に充てます。