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十月第一週:現実味を帯びてくる。

28 Sep 2024
ケンブリッジの人の、鼻にかかるような発音にもだいぶ慣れてきた。いたるところで聞こえてくるので、脳内で英語を話すときに、いつもの私の英語ではなくケンブリッジの発音で再生されることが増えている。でも、口の動かし方は分からないので口からは出てこない。気分転換にハリーポッターシリーズを読むと、先週まではこれまでの私の発音だったのに、いまでは全部の会話がケンブリッジの人の発音で再生されるようになっている。Remusだけはちょっと頑張ってまねしている感じがする。映画を見たときに定着した城の風景も、映画のセットではなく、ケンブリッジの古いキャンパスにディテールがすり代わっている。




今のところ、本当に聞き取れない英語を話す人とはほぼ遭遇していない。唯一、Ryder & Amies(ケンブリッジの学生がガウンを買うお店)のガウン担当の兄さんの英語だけが聞き取れなかった。
“Sorry to bother you, but this is my first time to talk with someone with your accent. Where are you from?”
“Cambridge.”
ということで、彼こそが正真正銘バリバリのケンブリッジ訛りであったことが発覚した。おそらく大学側がTownyと呼ぶ街の人の訛りなんだろう。大学側は、それなら何なんだろう。Upper classのgenericな英語なんだろうか。街側は大学の人のことを自らと対比してGownとも称するので、何となくすみ分けがある感じは見られるものの、そんなにはっきりした境界はないと思っていた。でも、土曜日はケンブリッジの学生は街なかでは飲まない(Townyの夜だから:大学の夜は金曜)という話は聞くし、何となくなにかがあるのかもしれない。

29 Sep 2024
靴も自転車も買って機動性が高くなる。こうやって簡単なタスクをこなしている時間は、RPGの序盤のさくさく感があってなんだか楽しい。

1 Oct 2024
日記を書く時だけ日本語キーボードである。他の日本人がすでにストレスで体調を崩しまくっているのをみていて、いつ私にはそれが来るのかとひやひやしている。今のところ兆候はない。世界各国から新手の風邪菌をお土産交換する学生によって生じるというflu seasonも気配を感じない。むしろ、いろいろ大変だったことから遠ざかってさっぱりした気持ちが強い。書く間にも、パソコンのOffice 365の仕事用アカウントや予測変換で出てくる上司の名前みたいな痕跡をちょっとずつ消していく。

4 Oct 2024
今日は朝から授業で、午後から入学式(Matriculation)。。朝は普通に授業を受けて、それでおしまい。入学式用のふわっとしたスカートを自転車に巻き込んで伝線を作る。

午後は入学式。ぼうっと待っている時間が長いので次から次へと新しい人に会う。

ネイティブの女性は話しづらい。絶対にこっちを向いて話さない、わざと私の関係ない話題を早口で話し出す、みたいなことをしてくる人が30%位混じっている。私をというのではなく、アジア系という時点でフィルター対象になっている印象だ。そのせいでネイティブ女性の集団内での割合が高いグループには混じりづらい。

そういう謎の「空気」を感じていると、何となくいろんなことが現実味を帯びてくる。アメリカの高校を題材にしたScholomanceシリーズで読んだ、ランチで一人で座りたくない問題が笑いごとではなくなってくる。まあいいさ、うちのコースはネイティブ女性ほぼゼロだから。Geek & nerd万歳。

非ネイティブも混じった白人集団とか、ネイティブ男性たちのグループはそうでもない。これは何なんだ?初日の初対面の時点でぱっきり傾向があるということは、ある程度英国内で確立されたsocial normなのか。

なお、中国人女性やインド人の集団はいらっしゃーい、という感じで混ぜてくれる。そして何人かが日本語で話しかけてきてびびる。仕返しに、お前の名前、こういう意味だろとサンスクリットや中国語の意味を指摘するとあっちもびびる。ふふふ。

ふわっとsmall talkや挨拶をするくらいの友達がたくさんできる。でも疲れたのでいったん離脱。図書館でleetcodeのmidiumの問題を一問解くと、何となく人心地が付く。
戻って集団撮影。ちょっとずつ顔と名前が分かる人が増えてくる。それが終わった後は、うちのPresidentの学寮内の邸宅を見せてもらう。


壁が傾きすぎて真直ぐな時計が壁と離れている。どの写真もなんか錯視っぽい。


いろんな教科の教科書に出てくるレベルのAlumnusの椅子らしい。

Pesidentには執事さんがいる。人生初のモノホンの執事さんとの遭遇である。
「執事さんが合った中で一番印象に残っている、凄い人は誰ですか?やっぱり英国女王?」
「うちの彼ですよ(presidentを示しながら)。」
かっこいい返しだ!

女王には絶対に会ってるはずだが、やっぱり彼なのだ。

5 Oct 2024
今日はお昼過ぎから学寮のイベントで近所の草原まで歩く。ちょっとずついろんな人と話す。PhD candidateのAlistarは最近までエンジニアの採用担当だったので、沢山programming interviewのTipsについて話してくれる。

はなしながらちょっとずつ集団の中の場所を入れ替えていく。
「イギリスは初めて?」
「初めて、というか海外に出るのがほとんど初めて。」
「それは大変だろうね。何でも新しいことでしょ。」
「それはそう、でも、同時に懐かしく既視感もある。」
そう、田園風景や古い家は奇妙に懐かしい。子ども部屋にあったナルニア国物語や、秘密の庭の本の世界と地続きだからだ。それなのに、何もかも本当に見るのは初めてなので、子ども時代の大好きだった人形を見たときの気持ちと、新しい場所に行った時の気持ちが綯交ぜになって頭を襲ってくる。そんな話を隣を歩いているイギリス人のベンにする。建築家志望のベンは変なこという奴だな、という顔をする。Literature組にでも話すべきだったか。

草原にて。

大部分の人はパーティートークと同じで少しずつ話す人を入れ替えているが、今日も白人∩ネイティブ∩女性のグループはずっとくっ付いて一緒に歩いている。そういうもんとして皆扱い始める。

そのあとは大部分の一緒に歩いていた人がパブで離脱したので(まだ15時だよ?)マレーシアやニュージーランドの中国系移民組と歩きながら帰る。やっぱりこのくらいの流暢さ(IELTS=7.5-8.5くらい)のコミュニティが一番やりやすいな。

学寮前まで戻ってくると、観光客で凄い人ごみでちょっとげんなりする。毎週末こうなの?学寮選び間違えた?
別れ際にお互いの名前を一致させていると、見覚えのないおばちゃんが
「私は誰?」
と聞いてくる。
「分からない、うーん、マーガレットかな?」
「近いよ、だって私はマーレーンだから」
おばちゃんの連れらしきもう一人が後ろから答える。おばちゃんたちは観光客だったらしい。良い一日を、と言い残して二人で連れ立って歩いていく。イギリスのおばちゃんが大阪のおばちゃんの類似生物に見えるのは私だけだろうか。

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