インターネット青年会
「インターネット老人会」という言葉がある。これはインターネットが普及した当時からネットを利用してきた、いわば古参ユーザーが当時について語り合う時に主に用いられるものである。
私が生まれる前にインターネットは生まれたため、私がそちらに参加出来るわけはないのであるが、それでも楽しそうに当時を振り返る彼らを見て羨望の視線を送る、そんな自分がいるのもまた分かっていた。老人会ほどじゃないけれど、自分だって割と速くインターネット始めたんだぞ、そんな子供じみた言い訳を添えて。
私が初めてインターネットなるものに触れたのは2004年頃だったと記憶している。もっとも、母がパソコン通信時代からのオールドユーザであったためにPCに触れたのはもっと前だったが。今はもう動かない、古い古いPCの中には当時遊んだひらがな学習のソフトがいまだに眠っている。
それはともかく、インターネットとの出会いはそんな母……ではなく、父がキッカケであった。仕事から帰ってきた父がカタカタとキーボードを叩いている所へ駆けていき「なにしてるの」と尋ねた私に対し、「何してるか見てみるか?」と言いながら私を膝の上に載せてくれた。画面に映り動く文字の羅列を食い入るように眺めた。6歳の出来事だった。
小学生に入ってからは毎日のように児童館に通い詰めた。そこではインターネットが利用できるPCが1回20分限定で開放されていたからだ。利用時間が終わるとまた次の人が終わるまで待って、その後また利用……児童館の職員に怒られつつもそんなことを繰り返しているうちに、空いている時であれば時間無制限でPCを使わせてもらうことが出来るようになっていた。
主に見ていたのはおもしろ・怖いFlashであったり「Yahoo!きっず」であった。ラーメンズが元ネタで2チャンネル発祥のキャラクターたちにそれを喋らせた「千葉!滋賀!佐賀!」や「恋のマイアヒ」、「赤い部屋」や「ウォーリーを探さないで」など、今となっては懐かしいものを齧りつくように見ていた。また、PCに標準搭載されているスパイダソリティアやピンボールもよく遊んでいたものだ。
私が小学校中学年になった頃、父はPCでオンライン麻雀を始めた。帰宅後ご飯を食べ終わったかと思うと「ロン2(ロンロンと読む)」というサイトにアクセスし、全国のプレイヤーを相手に麻雀を打っていた。私は毎回眠くなるまでそれを眺める。そのうち、私も自分のPCというものを持ってみたくなった。
勿論両親は大反対。PC自体が高価であることと私は当時まだ10歳にもなっていなかったからだ。ゆえに両親は父のノートPCをたまに貸すという妥協案を提出し、私はそれに了解をした。そしてインターネットを自分だけで利用する許しを得た時、私は母と約束をした。
1.知らない人に話しかけられても無視をする(簡単に信用するな)
2.少しでも危ないと思ったサイトにはアクセスしない
3.変なところをクリックしたらすぐにブラウザを閉じる、それでも治らなかったら電源を消して親に報告する
4.どんなことをしたかをきちんと報告する
それ以外にも細かい約束が多々あり、当時の私はぶーたれたものだ。「厳しすぎ!」と言った記憶が残っている。しかし、私がネットリテラシーを覚えられたのはこの母親との約束の影響が非常に大きい。小学校高学年、あるいは中学生になってから偉そうな人間にインターネットの危険性について説かれてもイマイチ聞く気になれなかった……そんな人もいるのではないだろうか。かくいう私もその1人であった。というのも、よく聞けば皆母と同じことを言っていたのである。
――なんだ、母さんが昔から言ってたことと同じじゃんか。つまり母さんの言いつけを守っておけばいいんだ。
思えば、あの約束はパソコン通信ベテランの母が自分の安全のために必死に考えてくれたのだろう。今となっては感謝しかない。中学生の身で携帯ゲームで課金しまくって怒られたり、オフ会被害に遭う周りの生徒を尻目に、そんなことを考えていた。
そして現代。スマートフォン・タブレットが普及した現在、PCを扱える人間が周りで少なくなっている。正確に言えば「増えていない」だろうか。昔のようなダイアルアップ接続やADSL接続でなくなり、光回線や無線LANというものも登場したのもあって、私は「これからどんどんPCを使いこなせる人が増えていってPC操作は当たり前、そんな社会になるぞ」と信じて疑っていなかった。しかし今、私の周りには、「スマホなら出来るけどPCはちょっと……」という人間が大量発生している。そして、以下のような会話も発生したのである。
「お前インターネット詳しいんだって?実は俺もやねん」
私「そうなんや! 僕昔からFlashとかmixiとかずっと見てて~」
「……ふらっしゅ?何それ」
私「???????????」
これがジェネレーションギャップってやつか……
なお、この会話は同じ年齢の人間同士で行われたものであることを追記しておく。決して私が年齢詐称をしているわけではない。自分はインターネットに触れたのが早い方だったんだな、と認識した瞬間であった。
勿論その話題を知らない人間を悪く言うつもりは一切ない。知らなかったものは仕方ないからだ。しかしながら、当時のネタがまるで話題に出来ないのは少し寂しい、そんな感情を覚えることもある。ゆえに、2000年代中期にインターネットを始めた、「インターネット青年会」のようなものがあるとすれば、是非参加してみたいなあ、などと思う。
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