「同じ阿呆なら踊らにゃソンソン」

日記

 あれは確か先週の金曜日か土曜日だったか。トイレットペーパーが残り1ロールしかないことに気づいてドラッグストアへ買いに行った。いつもよりも棚が空いているな、などと思いつつも無事18ロールのデカイやつを購入、これでウ◯コがふけるぞよかったよかったと家に帰ってPCを開いた。すると、「トイレットペーパーとティッシュペーパーが全国で品薄状態!!」という旨のツイートがバズっているではないか。僕は当然「あ? さっき行ったけどトイレットペーパーもティッシュペーパーも全然あったわ、デマ乙」と切り捨てた。

 その後、「ティッシュ」「トイレットペーパー」で検索をかけては「品薄ってマジ?買いに行かなきゃ!」というツイートを見て嘲笑った。

 ――簡単にデマに騙された馬鹿がTwitterで踊っているぞ。

 その時の僕は確かに、Twitterという町の中にあるベドラムへ遊びに行く、18世紀の貴族だった。


 翌日。今度はティッシュペーパーが1箱もないことに気づいた。花粉症の僕はティッシュが不可欠だ。

 ――デマがバズっていたとはいえ、直ぐにティッシュが切れるなんてことはないだろう。そもそもあんな分かりやすい嘘に惑わされる馬鹿がどれくらいいるのやら。

 そんなことを考えながらドラッグストアへと足を運ぶ。……驚愕した。普段店頭においてあるティッシュもトイレットペーパーも、キッチンペーパーでさえがもぬけの殻と化していた。驚きを隠せないまま店内に入れば、おじちゃんおばちゃんの軍団がいくつものティッシュ、トイレットペーパーを持って列をなしている。その横では何故ティッシュがないのかと店員に怒鳴っているジジイ。1980年にタイムスリップでもしたのかという錯覚を覚えた。

 ティッシュは諦めてドラッグストアの隣りにあるスーパーへと入った。最悪トイレットペーパーでなんとかなる。まずは飯だと歩いていると、ボックスティッシュ5箱セットが1つだけ残っているのを見つけた。息を吐きながら豚肩の細切れとソレを持ちレジへと並ぶ。もう馴染みとなったバイトのお兄さんに「備蓄ですか?」と苦笑されたが、生憎そんな準備のいい生活をしてはいない。「もう家に1ボックスもなかったんですよ、残っててよかった」と苦笑を返せば、「いやあギリギリでしたねぇ」という返事。どうやら今日の朝からボックスティッシュが異常な売れ行きを見せ、もう在庫もなかったのだとか。ぞっとしない話だった。


しゃかいのはなし

 踊る阿呆を笑っていたら、その阿呆によって踊らされそうになった。思うに、「同じ阿呆なら踊らにゃソンソン」という言葉は、「考えのない阿呆は無駄に行動力があるから気をつけろ」と暗に示しているのではないか。とろのつまり、僕は見る阿呆であったということだ。

 「赤信号 みんなで渡れば怖くない」と同じで、あれはルールを守って渡らない人間が社会的に困るように出来ている。一緒に渡れるか、踊れる阿呆になるか。そういったことが出来ないと自分が困ることになる。爪弾きにされたり、はみ出しもの扱いになったり。今回の場合ではデマに踊らされず必要に応じて買いに行こうとした人々が割を食っている。

「デマを信じた人々が沢山押し寄せるだろう。その前に買っておかなければ自分が困ることになる」と読み切って事前に物資を買った人々もいるだろう。もしくは、今回の品薄の原因の大半は彼らによるものかもしれないが。ともかく、彼らは「みんな」になることが出来たということだろう。……ここらへんの文章は怒られが発生するかもしれないが、別に貶してるわけではないので勘弁してほしい。ちゃんと褒めてるから。合理的な行動をしたねって。

自分の話

 今回の騒動で色んな人間が踊り狂っているところを見ては対岸の火事だと笑ってきたが、紙騒動が起こった今、いつ自分がベドラムの見世物になるのか戦々恐々としている。先程デマを読み切って事前に物資を買ったという話をしたが、生憎僕は踊るのが然程上手ではない。「みんな」と上手くやる……つまり赤信号を渡ることもなかなか出来ない。とどのつまり、生きるのが相変わらず下手くそのままなのだ。

 ――どうしても、これから赤信号を一緒に渡ることが必要になるだろうし「みんな」と踊ることも必要になる。

 こうやって諦めた人たちが量産化されていく世の中において、空気の読めない人間……所謂はみ出しものにとっては、「みんな」を前提にモノを考える「普通の人達」が狂って見えたりするのかもしれない。だけど、まあ戦いは数だしマジョリティってやっぱ最強だし。我らはみ出しものマイノリティ(単語をくっつけるとなんか電波な歌のタイトルにみえる)は一人で踊るしかないということだろう。ハァヨイヨイ。


 ところで、トイレットペーパーやティッシュペーパーが品切れになると最初に叫んだツイートがバズって騒動が起こったように、「次は○○が品薄になるぞ!」と叫べば皆が押し寄せてそれにともなって供給も増えるのでは、という話を聞いた。

 ……次はシェアルが品薄になるぞ!みないそげー!

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