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【#創作大賞2024】骨皮筋衛門「第五章:筋衛門を知らない男」(2393字)
第五章「筋衛門を知らない男」
帳面町は美しい星空でも人気の観光地であった。不思議なことに年に一度、最高の銀河が見られる日に「帳面町星まつり」が行われ多くの観光客が訪れる。その祭の土産として人気なのが骨皮家の技術の粋を集めて作られた美しい小さな銀河だ。カプセルの中で輝く小さな銀河は帳面町でしか手に入らないため、すぐに売り切れてしまう。
それが今年の星まつりでは買い求める観光客全てが手に入れられたという。しかも星まつりが終わって数日経つというのに手に入るという噂が骨皮筋衛門の耳にも入った。
「それは本当か?」
「はい。しかし、偽物の銀河をつかまされたとのクレームも入り始めまして」
「それはゆゆしき事態……」
そう呟くと骨皮筋衛門は腹をプルンとさせ潜入捜査に入った。
「キャー!筋衛門様が潜られた!」
署内の女性から黄色い声があがる。
「よし、僕も頑張るぞ」
部下は筋衛門への尊敬で眼を光り輝かせたまま外へと飛び出して行った。
「部下はドアから出るのね」
「当たり前でしょ」
先輩署員が何故か得意げな顔で後輩をたしなめた。
「これを銀河売りから購入したと?」
「そうよ。でも見てよ!今日になったら光らないの!」
部下の聞き込みに怒り心頭で答える観光客。名物の銀河がまだ売られているとの噂を聞きつけ、多くの観光客が帳面町に滞在しているのだ。
「この銀河は偽物の可能性があります」
「ええ!パチもん?帳面町ならそんなことないと思っていたのに」
ガッカリする観光客に部下は自信ありげに伝える。
「只今、全力で帳面町警察が動いています。これ以降は決して購入されませんように」
「まあ……犯罪発生率約0%の帳面町警察がそう言うのなら」
しぶしぶと納得する観光客。
「ところでこの銀河、どこで買われましたか?」
「あそこの銀河売りよ!」
観光客の指さす方向には慌てて店じまいをする見るからに怪しげな銀河売りがいた。
「すみません……」
と部下が声をかけると走り出した。部下は観光客に「ありがとうございます!」の声を残し慌てて追いかける。
「安全な帳面町で捕り物見ちゃった♪」
なぜか喜ぶ観光客だった。
「バレないっすかね」
「ビビってねえで磨けよ」
ここは偽銀河売りのアジト。数人の男が黙々と小石を磨いている。磨かれた小石はキラキラと輝く。それをカプセルに入れ本物のようにあつらえているのである。
「お前ら!こんなこと許されると思っているのか!」
そう叫ぶのは先ほど怪しい銀河売りを追いかけていた部下だ。偽銀河売りの仲間に捕らえられ、アジトに連れて来られたのだ。
「こんなことしても筋衛門さんに捕まるぞ!」
「はぁ?筋衛門?誰それ?」
偽銀河売りのボスは帳面町の住民でもイービル・フラワーでもない。たまたま訪れた帳面町で、星の形に似た小石を川辺で見つけた観光客だった。ふと思いついて拾った小石を軽く磨くと本物の銀河のように光り輝くので偽銀河の販売を思いついたのだ。
ただ、この偽銀河は本物と違い翌日には光らなくなる。本物であれば次の年の「星まつり」が始まる頃まで輝き続け光が失われていくため、星まつりの時期だと気づくこともできるのだ。
そのことを知らない男は金儲けが帳面町の川辺に転がっていると考え、地元の後輩を「星まつり」の少し前に連れて戻って来た。そして、小石磨き要員に仕立て上げ、偽銀河をなにも知らない観光客相手に売りつけていたのだ。
「まさか警察に嗅ぎつけられるとは思わなかったぞ。平和ボケしているせいかすぐに捕まったがな」
そう言われて悔しそうな部下。
「俺達がトンズラするまではここにいてもらう。な~にが骨皮筋衛門だよ、へっ!」
そう言ったボスが鼻で笑った時、
「トンズラなぞ!させない!」
という声がアジトに響いた。
「だ、だれだ!」
「骨皮筋衛門だ!」
そう叫び、見た目からは想像できない素早さでリーダーの目の前に躍り出た骨皮筋衛門。
「ほ、骨皮筋衛門?」
初めて見る骨皮筋衛門にぎょっとする偽銀河売りのボス。名前と体型の違いに衝撃を感じ思考が停止した。口を開けたまま呆然としている。
後輩の一人が、
「はっ!骨皮筋衛門!なんだそれ?」
とイキり立ち上がる。後輩が筋衛門に殴りかかろうとした瞬間、筋衛門の体が宙に舞った。
ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン。
イキった後輩は目を回す。ストンと降り立った筋衛門が他の後輩を見る。
「やべっ!逃げろっ!」
慌てふためき逃げ惑う後輩どもも、
ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン。
筋衛門の脅威の腹攻撃で面白いように打ちのめされた。呆然としていた偽銀河売りのボスはハッとし逃げ道を探すが、骨皮筋衛門に出口を抑えられている。あわてふためきキョロキョロしていたボスであったが、縛り上げられた部下を見つけ走り寄った。
「あ!」
「近寄るな!近寄ればこいつの命はない!」
卑怯な男は部下に鋭利な刃物をつきつけた。偽銀河売りのボスは部下を人質に逃げるつもりなのだ。
「筋衛門さん!僕に構わずこいつを!」
「そんなことはできん!」
その会話を聞き、思わず安心したボスがニヤリとした。それを見逃さないのが我らがヒーロー骨皮筋衛門だ。
「隙あり!」
ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン。
偽銀河売りのボスはあっけなく倒された。
「イービル・フラワー以外にも帳面町で悪いことをするヤツがいるんですね」
「そうだ、だから帳面町の犯罪発生率は「約0%」なのだ」
「なんだか悔しいっす」
「しかし、君のような正義感のある若者が育っている。そして私も悪の芽を摘むことを怠らない。だから未来は明るい」
「筋衛門さん……」
部下の目がキラリと光る。慈愛に満ちた眼差しの骨皮筋衛門がそっとハンカチを渡す。
偽銀河売り達は釈放される前に骨皮家独自の技術で悪事に関するあらゆる思考を消され地元へと帰された。帳面町から帰ってきた彼らが善人となったのを見て地元の人は「帳面町は心を清くするって噂、本当なんだな」と囁き合った。
こうして骨皮筋衛門の存在は守られたのである。
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