【#シロクマ文芸部2月】④ずっと大好きだよ
2月最後の物語です。
前回までのお話はこちら👇
👇今週のお話👇
閏年だから今年の2月は29日までじゃん、といいながら差し出された小さな箱。
「覚えててくれたんだ……」
不覚にも涙がこぼれそうになる。泣くの我慢してる?と言われて泣きゃしないわいわ!とドツく。
少しでも自分の思い通りにならないと「青写真と違う」とすぐに気落ちするのにチョコレートの一つで機嫌を直したり、散歩に誘えば何事もなかったかのように梅の花を楽しんだり。繊細なのか呑気なのかまったくわからない私の息子。
長い不妊治療の結果、我が子は心臓に穴の開いた状態で生れた。
大学病院の医師は「うちは毎月100人妊婦さんが来るので2mmくらいの穴が開いた新生児は1~2人くらい生まれます。心配しなくていいですよ」とニッコリしながら説明してくれたが、小さな体に2mmという数字はとてつもなく大きいと感じた。
沢山の線がつながれ保育器の中に寝かされた姿は痛々しく、無理に子どもを望んだ自分を呪いたくなった。罰が当たったのかもしれないとガラスの向こうの我が子に謝る。
しかし、そんな心配をよそに経過観察を続けるうちに心臓の穴は自然とふさがった。
「生まれてから完成しても大丈夫な内臓もあるんです」
という医師の説明を聞いて我が子の生命力に感謝をした。
内臓をゆっくり作ったのが影響したのか何事にもマイペースで、友達の気持ちを汲み取れず学年が上がると共に周囲から浮くようになった。周囲の空気を読めない辛さは自信の持てない性格へとつながった気もする。
その辛さから二次元の世界にすっかりハマり見守る側はハラハラのし通し。ただ、その中で出来た友達と交流することで相手への配慮を学べ、進学や就職へのモチベーションとなった。
人それぞれ学ぶ瞬間が違うのだろう。我が子は人より少しそれが遅いのだ。
「2月29日が母さんの誕生日だって覚えてたんだ」
「うん、前に4年に一度しか歳を取らないって言ってたから」
「でさ、さっき散歩に出かける前に私のこと「お前」って呼んだよね?」
「うん。呼んだよ」
「母さんに「お前」とはなんですか!」
「だって4年に一度しか歳を取らないなら俺より年下かなって」
「はぁ。この苦労皺を見てもそう思う?」
「……。思わない」
「そこは思うでしょ?」
ひとしきり笑った後、私よりはるかに大きくなった息子と梅の花の咲く道を歩く。
息子よ、生まれてきてくれてありがとう。なにがあってもずっと大好きだよ。
沢渡君と松苗さんみたいな恋物語にしようかと思いましたが、ふと思いついて親子の話にしてみました。
小牧幸助部長、来月もお題を全てつなげてお話作りますよ🙌
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