麻雀ブーム報道で『レジャー白書』はどう使われているか
最近、「Mリーグの影響で麻雀が若者に大人気!」といったニュースを見る機会が増えてきました。そういったニュースのいくつかでは、『レジャー白書』に記載されている麻雀の参加人口のデータが引用されています。
『レジャー白書』は、1982年から麻雀の統計データを毎年調査している国内唯一の刊行物なので、当然と言えば当然ですね。『天牌外伝』のヒロインを聞かれても、BAR雅のママしか出てこないのと同じことです。
しかし、そうした報道での『レジャー白書』の使われ方には、若干問題があるなと感じたので、この記事を書くことにしました。
ちなみに、最近見たのは、仙台放送が8月20日に発信したこのニュース(↓)ですね。
1.今、麻雀ブーム報道が熱い!
麻雀がらみのニュースと言えば、長らく有名人の賭け麻雀摘発と決まっていました。それに加えて、最近では、Mリーグにおかぴーのグラビアなんかも報じられるようになってきました。そして、今、麻雀ブーム報道が熱いです。正直、麻雀自体はそこまで熱くはないと思っていますが、麻雀ブーム報道はぐつぐつ沸騰しています。
麻雀は子供に人気!
麻雀ブーム報道では、全国で麻雀教室を展開している「ニューロン」が紹介されることが多いです。特に、テレビには子供麻雀教室がよく映されています。この教室は小学生から高校生が対象ですが、出てくるのは大抵小学生です。
最近、TBSのバラエティ番組である『ラヴィット!』に、佐々木寿人プロと岡田紗佳プロが出演したことが話題になりました。そうしたバラエティではなく、YouTubeとニューロンのホームページから、今年、麻雀を扱った報道番組をまとめると以下のようになりました。熱いです🔥
麻雀ブーム報道のパターン
これらの報道の内容はけっこうパターン化していて、大体、以下のように進みます。
「麻雀は昭和の大人の娯楽であり、近年は参加者が減っていた」という前振り
ところが、最近、Mリーグの影響で麻雀は若者に大人気なんです!
「Mリーガーをめざしている」という小学生のインタビュー
若者や女性客の多いスタイリッシュな雀荘の紹介
「麻雀はIQを高めたり、認知症予防にいい」という識者のコメント
そして、この2の箇所で、麻雀人気を示すために『レジャー白書』のデータが引用されています。
2.『レジャー白書』はどう使われているか?
上に貼った仙台放送のニュースでは、典型的な『レジャー白書』の使われ方をしていたので、この動画を使って説明します。
この画面だけを見ると、2014年から麻雀の参加人口はどんどん減って2020年には半減していたのが、若者人気によって、ここ2、3年で急回復したように見えます。実際、音声を聞いてもそのように解説しています。しかし、『レジャー白書』が伝える麻雀の参加人口の実態はそうではありません。
『レジャー白書』から実際に読み取れること
麻雀の参加人口は減り続けてはいるものの、2010年代後半は500万人台をキープしていました。しかし、2020年には一気に400万人にまで落ち込みます。理由はもちろん、新型コロナウイルスの流行によるものです。
そこから徐々に回復し、若年層の伸びもあって、2022年にはコロナ前の500万人にまで持ち直しています。つまり、ここ2年の麻雀人口の増加は、「コロナ禍からの回復 + 若年層の増加」に起因しています。
『レジャー白書』の調査対象は15〜79歳なので、小中学生の麻雀人口はわかりません。Mリーグ以前の2015年のデータでは、5〜14歳の麻雀人口は8万人でした。将棋の子供人口は153万人だったので、麻雀はかなり不人気でした。
また、長らく麻雀人口の多くを占めていた60代以上のシニア層は、コロナ以降は減り続けています。コロナによる死亡率が特に高い年代なので、他人との接触の多い麻雀は避けたいという傾向があるのかもしれません。このまま減り続けるのか、そろそろ回復するのかは気になるところです。
コロナ禍にはふれない
その上で、改めて仙台放送のニュース画面を見てみます。
2014年は例外的に麻雀人口が多い年でした。その前年の2013年は650万人、2015年は600万人です。
この画面では、その2014年を選んで表示することで、「わずか6年で麻雀人口は半減、しかし、最近は若者人気で毎年50万人も増加している」というストーリーを描き出しています。そして、「コロナ」という単語は、音声を聞いても一切出てきません。
若年層の麻雀人口が、コロナで一旦は足踏みしたもののMリーグ以降増えているのは事実なので、この報道をそこまで問題視しているわけではありません。しかし、2014年と2020年以降のデータだけを取り上げて、コロナ禍にふれないのは正確な報道ではないよ、と言いたいわけです。
風営法にもふれない
『レジャー白書』とはまったく関係ありませんが、こうした報道では、風営法で、18歳未満はノーレートであっても雀荘には入れないこともまず言及されません。ちなみに、法的には問題のない18歳以上でも高校生は事実上入れません。
麻雀を打っている若者を紹介する場合は、ニューロンや麻雀大会の小学生の次は、中学生・高校生を飛ばして、雀荘の大学生が映されます。
以下の福地先生の記事には、ネット麻雀強者の高校生と麻雀を打とうとしたときに、自宅以外に打てる場所がなく大変だったことが書かれています。
雀荘はもちろん、漫画喫茶等に麻雀卓を常設するのも風営法的にアウトなので、漫喫でも打てない
ニューロンは麻雀教室だけで貸卓はやっていないので、ニューロンでも任意のメンバーでは打てない
わかりやすい例として仙台放送を取り上げましたが、NHKも含めて、どの局も報じ方は似たようなものでした。麻雀にかぎらず、ポジティブな面だけを伝えるのではなく、多少の問題提起もあった方がいいと思いますが、最近はそういうのは受けないんですかね🤔
3.『レジャー白書』以外に麻雀の統計データはないのか?
麻雀の統計データは『レジャー白書』以外にはないのかと言えば、たとえば、以下のような資料もあります。
『Kong』(2012)
2012年に一度だけ出たWeb雑誌『Kong』には、世界の麻雀の統計データが記載されていました。『Kong』によれば、下に貼った世界地図のとおり、当時の世界の麻雀人口は7億人であり、そのうち中国が5億人と大半を占めていました。
しかし、このデータは、2011年の日本の麻雀人口が3000万人になっていたり(『レジャー白書』では960万人)、いろいろと盛っていそうでした。発行元のMahjong Logic社はオンライン麻雀の会社なので、顧客に麻雀人気をアピールするために過剰な数値を載せていたんじゃないでしょうか。
2015年に、当時CEOだったJonas Alm氏とメールを交わしたことがあり、データの情報源について聞いてみましたが、以下のようなあいまいな回答でした。
ちなみに、このMahjong Logic社が開発した、お金を賭けられるオンライン麻雀「DORA麻雀」は、今年になって運営者が逮捕されてるんですよね。
やっべー。社長に「うちの宣伝やらんか?」って言われたとき、断っといてよかった🤣
Mリーグ機構のアンケート調査(2019)
また、Mリーグ2年目の2019年に、Mリーグ機構が1万人を対象に行ったアンケート調査がありました。この調査では、リアル麻雀・ゲーム麻雀それぞれの人口規模だけでなく、「Mリーグが始まったことで、麻雀のイメージはどう変わったか?」等も質問内容に入っていました。
『レジャー白書』のデータと比較したり、現在Mリーグがどの程度浸透しているかを知るためにも、Mリーグ機構にはそのうちまた調査してほしいです。
載ってそうで載ってなかった統計資料
そのほか、「おっ、これは麻雀についてのデータも載っていそうだぞ」と期待して開いたものの、実際には載っていなかった統計資料もいくつかあります。
■『余暇・レジャー&観光総合統計』(毎年刊行)
『余暇・レジャー&観光総合統計』は、三冬社が出している統計資料です。2013年から隔年で出版されていましたが、2021年からは毎年出るようになりました。
タイトルを初めて見たときは、「これだよ、これ」と大いに期待したものでしたが、パチンコ、ゲーム、マンガアプリ等のデータはあっても、麻雀のデータは載っていませんでした。
この『余暇・レジャー&観光総合統計』は、独自調査は一切しておらず、官公庁や他の調査会社が公開している統計データを収集した資料です。なので、『レジャー白書』のほかに麻雀のデータを取っている機関がない以上、この資料にも載っていないことになります。
■社会生活基本調査(5年ごとに調査。最新は2021年)
総務省統計局が5年ごとに行っている「社会生活基本調査」は、「国民の社会生活の実態を明らかにするため」、「生活時間の配分や余暇時間における主な活動」を調査しています。
社会生活基本調査では、囲碁、将棋、パチンコ、ゲーム等については行動者数・頻度が調査されていますが、麻雀は入っていません(一応、資料B-1・B-2には「麻雀の行動者数は26万人」等の記載がありますが、まともには調査されていません)。中央競馬なんかも入っていないので、ギャンブル系は対象外なのでしょう(パチンコは遊技扱い)。ただ、日本はギャンブル大国なので、今後のカジノ開設もにらんでギャンブル系レジャーもちゃんと調査すべきだと思います。
というわけで、定期的に麻雀の統計データを取っているのは、やはり『レジャー白書』だけでした。結局、他にないから、BAR雅で飲むしかないんだよな。
4.麻雀ブームは本当にくるのか?
過熱した報道がブームを加速させるのはよくあることですが、麻雀ブームは本当にやってくるのでしょうか。
私自身は、麻雀人口は今後そんなに伸びないと思っています。理由は「麻雀は時間がかかりすぎるから」です。4人の人間を集めてプレイ時間が長くかかるリアル麻雀は、現代人のライフスタイルに合わなくなっていると思うんですよね。
スポーツを見ても、野球ではタイブレーク制が導入され、サッカーでは20分ハーフのキングス・リーグが人気を集めるなど、何かと時短の動きは強まっています。
時間のかかるレジャー、かからないレジャー
今をさかのぼること10年前の『レジャー白書2014』の特別レポートは、「マイ・レジャー時代の余暇満足度」というものでした。1人当たりの参加レジャー数や希望レジャー数が減少する中、あなたが最も重視するマイ・レジャーは何ですか、という特集でした。この中に、各レジャーの1回当たりの活動時間のアンケート調査結果が載っていました。
娯楽部門に分類される21のレジャーのうち、1回の活動にかかる平均時間の長い上位10レジャーが以下になります。競艇等の公営ギャンブルをはじめとするギャンブル系レジャーが上位を占めており、麻雀は2位でした。
全レジャーで平均時間が最長だったのは「海外旅行」の85.6時間、最短は「宝くじ」の0.8時間でした。また、その他部門に分類されている「SNS」の平均時間は4.9時間でした。これは10年前の話なので、現在はもっと伸びていそうです。
そして、娯楽部門のゲーム・ギャンブル系レジャーと、その他部門の「オンラインゲーム」の1回当たりの活動時間を抜き出した表が以下になります。
麻雀は、1回当たりの活動にかかる平均時間が5時間と娯楽部門では2番目に長く、「3〜5時間」をボリュームゾーンとする、かなり時間のかかるレジャーであることがわかります。
映画を早送りで観る人たち
2022年に『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』という本が話題になりました。映像作品を早送りで観る人が近年増加していることと、彼らはなぜ早送りするのかについて論じた本です。
この『映画を早送りで観る人たち』には、調査会社クロス・マーケティングが2021年に行った倍速視聴に関する調査が引用されていました。そして、この調査は今年の3月にも再び行われており、現在では2021年よりもさらに倍速視聴人口が増えていることが報告されています。
世はまさに大倍速時代。猫も杓子もタイパ、タイパですよ。
上に貼った調査結果では、「現在は倍速視聴していない」と答えた回答者も含めて、「倍速視聴経験あり」としています。これを、現在も倍速視聴している回答者だけを集計すると以下になります。
これを見ると、倍速視聴勢は、前回調査の2021年では23.0%でしたが、2024年には32.8%でした。つまり、わずか3年で9.8%も増加しています。このまま行けば、2028年には全人類の過半数が倍速視聴勢となり、2034年には生きとし生けるものがひたすら早送りボタンを押し続ける末法の世が訪れることになります。
また、大方の予想どおり、若い世代ほど倍速視聴を積極的に行うタイパ志向が強くなっていました。
タイパ世代の麻雀人口
さて、そうなると、「倍速視聴率が高い世代ほど、時間のかかる麻雀はやっていないのではないか」という推測が生まれます。
推測どおり、上に貼った表を見れば、一目瞭然、世代ごとの倍速視聴率と麻雀人口は完全に反比例……してないな。
とにかくね、タイパにこだわる若い世代は、4人集めて平均5時間もかかる麻雀なんかやってられないわけですよ。何なら、相手からリーチがかかった瞬間に、次局まで早送りですよ⏩
まとめ
予想に反して、タイパ世代でも麻雀人口は増えているようでした。ただ、リアル麻雀には時間がかかるのは間違いないので、タイパ志向という大きな流れにいずれは飲み込まれてしまうんじゃないかと思っています。2020年のコロナ禍以降、麻雀人口は順調に回復してきましたが、2023年のデータはどうなっているのか? 『レジャー白書2024』は10月に発売予定です。
って書いてから、『レジャー白書』の発行元である日本生産性本部のサイトを見てみたところ、『レジャー白書2024』の速報版はすでに発表されていました😲
このnoteで取り上げている主なレジャーの速報値は、こんな感じでした。
参加率だけで参加人口は発表されていませんが、この参加率に調査実施時期である2024年2月の15〜79歳人口である9,733万人を掛け合わせることで、参加人口が算出されます。つまり、2023年の麻雀人口は470万人ということになります。
年代別等の詳細データは、実際に『レジャー白書2024』を見るしかないので、タイパ世代の本領発揮となるか、また、シニア層の麻雀離れは止まったのかに注目して10月を待ちたいと思います。
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