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相撲の社会的ニーズ②

前回からの続きで、相撲への社会的ニーズを具体的に書いていきます。

私が考える相撲の社会的ニーズは以下の4点です。
①遊び、交流手段
②身体を鍛える鍛錬
③儀式
④エンターテイメント

1.遊び、交流手段

 これは一番シンプルで、相撲を遊びで取る、遊びの相撲を通してお互い仲良くなる、というニーズです。相撲は物凄く単純な競技なので、人が2人いればやることが出来ます。他に道具はいりません。

 現代人にとって遊びで相撲をすることに違和感があるかもしれませんが、第45代横綱〜第71代横綱までの歴代横綱の生い立ち〜現役時代までの証言をまとめた『横綱』という本に、第56代横綱若乃花(いわゆる二代目若乃花)の証言で以下のような記述があります。

 私が生まれ育った青森県の大鰐町という土地は、相撲が盛んなところでね。男の子は子供の頃から相撲を取るのが当たり前、という風土でした。私も兄貴達と遊びで相撲をとったり、小学生の時から相撲大会にでて、〜〜

 青森県は全国有数の相撲が盛んな場所という土地柄もありますが、男の子が相撲を取ることが当たり前だった時代・土地がありました。小学校や中学校の授業が終わると、友達同士で集まって相撲をとって遊ぶ、そんな風景が日本各地で見られたようです。

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 私の会社でも年に1度相撲大会が開催されるのですが、対戦者とは相撲を通じて打ち解けて仲良くなれます。初対面の人でも相撲は難しいルール説明は不要でその場で取ることができる、その手軽さゆえに他者との交流手段としての役割を果たすことが出来ました。

2.身体を鍛える

 これは相撲を「格闘技」として捉え、身体を強化することを目的として相撲を取る際のニーズになります。江戸時代以前までの武士にとっては、「格闘技」ではなく「武芸」として相撲を取ると言い換えることができます。

 この単純に「身体を鍛える」というニーズはそれ程大きいものではなかったようです。現代は相撲を「スポーツ」として捉える考え方が主流であり、相撲は「国技」であり武士の世でも保護されてきたことから、武士の間でも盛んに相撲が取られていたという何となくのイメージがある人も多いと思います。

 ですが、鎌倉時代以降は弓馬が武芸の中核と位置づけられいったのに対し、相撲は武士に重視されなかったようです。後述しますが、相撲は平安時代に朝廷で開催されていた相撲の節(すまいのせち)の流れを受け、観賞用として様式化されていきました。この点が、合戦を想定して身体を鍛えたい武士のニーズと一致していない点になったのでしょう。また、実際の合戦では、生身の身体で戦うのではなく鎧をまとい、刀や槍で相手を倒す、馬上から相手を弓で射るという形式であったことを考えても相撲よりも弓馬の訓練を行う方がより実践的でありました。この流れは鎌倉時代以降も変わらなかったので、「武芸」としての相撲は余り必要とされなかったようです。


 「身体を鍛える」ための相撲は、意外にも時代を下り明治以降に改めて注目されていきました。開国以降に日本に入ってきたスポーツは「娯楽・エンターテイメント」として捉えられていました。これに対し、富国強兵施策の下で国家に奉仕する兵士を育成する必要性があった時代背景の中で、日本で長きに渡って続いてきた相撲の「武道としての相撲」の復活が唱えられました。

 特に海軍では海軍兵学校では相撲を正科とされ、兵士の鍛錬という観点から自己鍛錬・自己陶冶の手段として価値付けられていきました。海軍相撲の関係者の間には、興行相撲を「堕落」したものとし、エンターテイメントとしての工夫を削ぎ落とした「道」としての相撲が支持されていきました。

 また、相撲の普及を図ることを目的として、大相撲とは異なる理念の下で相撲の解釈が行われました。この流れの中で昭和初期には相撲を「体育」として小学校の科目に加える動きがでてきます。

 相撲を「体育」として確立するために、提唱された主要な考え方が、八尾英雄(やおひでお、1906-?)による「教育相撲」と年寄佐渡ヶ嶽(としよりさどがたけ、1897-1972)による「学童相撲」の2つです。

 前者は相撲を「スポーツ」により近い考え方で解釈をしていたのに対し、校舎は相撲を大相撲と関連付けながら「体育」として解釈をしているという違いがあります。ですが、両者共に、欧米列強と伍する国作りが喫緊の課題であった当時の日本で日本人を「国民」として育成するために必要だった意識形成、健康で剛健な身体育成を目的としていました。

 こうしてみていくと、相撲は単純に武道ないしスポーツとして大衆が受容していったのではなく、特に明治以降に時代の要請を受けて「武道」としての相撲の確立が求められて言ったということが出来ます。

 他の社会的ニーズは次のnoteで考察していきます。

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