ピリカさん、退院おめでとうございます。やはり「ワタクシ事・8月・短期間・婦人科・手術・入院・ヒマ・note・荒ぶり・エッセイ・転がる」による11回の連続つぶやき小説でお祝いがしたくなり、また懲りずに連続投稿に挑戦しました。明るい話題と考えた結果、美月ちゃんがお姉さんになりました♪
①美月ちゃん、楽しかったねと歩く8月の終わり。やわらかな髪がペッタリとおでこや首にくっついている。かわいい。汗で濡れているだけなのに、我が娘はどうしてこんなに可愛いのだ?美月ちゃん、喉かわいた?うん!オヤツ楽しみだね♪うん!公園からの帰り道を歩いていたその時、僕のスマホが鳴った。
⑪びっくりしたよぉと言いながら妻の横に座る。美月もママ~と抱き着く。美月が「パパ、びゅ~んってかっこよかったの」と報告している。美月!天使かよ!とジ~ンとしていると「感動は早い!」と妻に両手で頬を挟まれる。「ワタクシ事ですが、2人目ができました」ワタクシ事じゃね~よ~と涙がダー。
③実は奥様が……と言われドキリとする。「痛い!」美月が小さな声を出す。握っていた手に力が入ったらしい。「ごめん!」と言いながら、美月が生まれた当時へと思いを馳せる。美月は難産で生れた。破水してすぐに入院をしたのだが、陣痛が弱いままだった。妻の体力はどんどん落ち、点滴がつながれた。
⑩びゅ~ん!しゅごいね~もっとぉと無邪気に笑う美月に、もっと飛ばしちゃうぞぉと話しかけながらクリニックへと向かう。汗だくでドアを開けると待合室で妻が苦笑いしていた。「ごめんごめん。今度女性の病気についてエッセイを書きたくて取材に来ていたのよ」妻が笑っている。足の力が一気に抜けた。
⑧重苦しい雰囲気に耐え切れなくなった頃、妊娠が分かった。あの辛かった日々も今思えば短期間だった。帝王切開の同意書へのサインを決める今の方が長いと感じたその時、陣痛が強まり無事に美月が生まれた。ありがとうありがとうと涙しながら窓を眺めると青みががかった美しい満月が空に浮かんでいた。
⑦ただ、当時の僕は妻の笑顔の裏に悲しみが隠されていることに気づけなかった。僕は妻と一緒になっただけで満足していたからだ。このまま2人だけの暮らしも僕は楽しくていいなぁと言った時の妻の荒ぶりようはすごかった。僕への対応全てが荒々しくなり、流石に鈍ちんの僕でも我が失言に気づかされた。
⑥色々と検査をしたが、2人とも問題はなかった。妊娠の理由がわからないのも不妊症、と言われた。気丈に振る舞っていた妻だが夜、横で泣いていたのも知っている。なにも知らない人に2人だからヒマな時間がたっぷりあっていいわね、と言われた時もにこやかに対応していた。僕の妻は本当に立派だった。
②知らない電話番号だ。スマホの画面を眺めていると美月が不思議そうな顔をしたので「もしもし?」と電話に出た。「すまスパ産婦人科ですが」と相手が名乗る。意外な相手に戸惑っていると「今、お時間よろしいでしょうか?」と聞かれた。戸惑いながらも「はい」と応答する。美月が僕をじっと見つめた。
⑨「もしもし?」と相手の怪訝そうな声で我に返った。大丈夫です、と促すと実は奥様がnoteの取材でこちらに来られたのですが急にめまいをおこされて、と言うではないか。妻は明るく常に健康だ。貧血になど一度もなったことがない。ただ美月の時は……そう思った瞬間、美月を抱きかかえ走っていた。
⑤このままだと奥様の体力が持たないので、帝王切開の手術をした方がよいでしょう。ただ、なにかあった時は母体を優先しますので、そのことを同意していただかないと、と言われた。目の前が真っ暗になった。結婚してから、なぜか何年も妊娠せず妻は悶々としていた。原因についても2人で随分と調べた。
④妻は元々、自分の感情を表さないタイプだ。その性格を知っていたので出産時の痛み逃しなどは本を読んで密かに練習をしていた。ただ陣痛が強まらないとか点滴をされるとか、そのような話は本のどこにも書いていなかった。時折来る激しい痛みでベッドの上を転がる妻を見て僕はただオロオロするばかり。