白子

今日は寒かった。

天気は良かったので、家の窓から見る限りはそれほど寒そうに思わなかった。

午前中に洗濯機を回し、あちこちを掃除した後に少しだけ仕事をしてから友人とランチに行く予定。洗濯機は回しっぱなしで、昼過ぎにバイトから帰ってくる男子学生が干してくれる事を祈りつつ家を出た。

ベランダで洗濯物を干していれば、今日は寒いということがわかったであろうに、そうしなかったために私はニットの上にストールを羽織っただけで外に出てしまった。

年末だし、何か美味しいもの食べようねって事で、フグを食べに行く事にした。予約はしていなかったけど大丈夫だった。

席に通されメニューを見る。ちょっと良い方のコースにしようと決めたけど、次のページに「特選白子コース」なるものがあった。

友人が「この白子コースにしない?」と聞いてきたが、私が唯一苦手な食材が白子。その事を伝えたが、どうしても白子が食べたいと言うので折れた。焼き白子と白子の天ぷらが付くらしい。

北海道出身の私は、小さい頃の食卓によくタラの白子が出てきた。普通に味噌汁に入って出てきた。味噌汁に浮かぶタラの白子は脳みそみたいな形をしていてそれだけで気味が悪かったし、何しろ大量に入っていて食べても食べても減らなかった。

違和感を感じながら食べていたが、「私はこの白子という食べ物が苦手である」とはっきりと自覚したのは中学生になった頃だった気がする。それからは白子を口にするのをやめた。嫌なものを拒否しても良い、と自分に許可を出すとだいぶ生きやすくなる。

そうして始まったフグのコース。皮やらてっさやらてっちりやら。そろそろポン酢飽きたと思う頃に唐揚げが出てきて美味しかった。

そしてとうとう白子が出てきた。喜ぶ友人。見守る私。おいしそうに天ぷらを食べるので、もしかしたら私も今なら食べられるかもしれないと思い、4つあるうちの一つをもらった。

脳みその形ではなかった。タラコみたいな形だった。ひと口かじったがやはり苦手だった。無理だった。

ごめんやっぱ無理。ひと口かじっちゃったけどこれも食べて、て友人の皿に置いた。

彼女は焼き白子もおいしそうに食べていた。白子は精巣の部分だと言う。ダランとだらしないフォルムではっきりしない曖昧なホワイトカラー。見てると腹が立ってくる。

「よくそんなだらしないもの食べられるわね」と言ったら、ウフフと笑って「だらしないからチュルチュルといくらでも食べられるのよ」と言われた。きちんとした形のものはこちらも背筋を伸ばして食べるけど、こんなもん適当に食べちゃえば良いのよ、て。精巣を頬張りながら説得力があった。

最後に雑炊と甘味で終わった。

お腹いっぱいになってお店を出た。それからコーヒーを飲みにカフェに行き、あれこれお喋りを楽しんだ。

夕方になり、友人と別れて家に帰った。

洗濯物は干してあった。



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