見出し画像

ムクノキ

子供の頃家の前に大きな大きなムクノキがあった。ムクノキは夏に緑の実をつけ秋になると実は黒紫色に熟れた。兄や年上の従兄弟達がムクノキの登り、下でいる私たちに実を落としてくれた。しわしわの黒い実は甘くて美味しかった。
夏大きな台風が来るとその年老いた大きなムクノキは大きく揺れた。夜真っ暗な空をゴウゴウと揺れるムクノキは怪物のようで恐ろしかった。
ムクノキは古木であり中に空洞があったので大風で倒れたら我が家は潰されるかもしれないと言われていた。だから台風の夜は隣の祖父母の家に避難することが恒例だった。台風で停電した夜はろうそくの灯火を囲んで祖父母と家族で歌ったりクイズを出し合ったりして遊んだ。めったに歌わない祖父の歌を聞いたのは台風の夜だった。
私が大人になってムクノキの横の家が火事になり火がムクノキの燃え移った。その後ムクノキは切り倒された。 結局ムクノキは台風で倒れることはなかった。
その後ムクノキの実を食べたことはない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?