見出し画像

刺繍が育むもの

シュタイナー学校の先生は、直接的な伝え方や教え方ではなく、あぁぁそういうことなんですね!と座布団一枚渡したくなってしまうようなやり方で物事を教えてくださっています。

春先、娘はキンダーガーデンで両面をきれいに刺繍したコースターを作り、持ち帰ってきました。

くるくると三重の円を刺繍した面と、星(三本の直線が交差した模様)がたくさん散りばめられた面とがあり、2枚を合わせてブランケットステッチで閉じられたものでした。

コースタープロジェクトの前から波縫いや十字にする方法など、日々の'遊びの時間に'縫うことを覚えていた娘。

少しずつ縫い方のバリエーションが増えて、本人も上達が嬉しそうでした。

様々な縫い方の集大成であるコースターを作り上げた達成感から、家でも同じものを違う色の糸で縫うんだと張り切ってやっていたのが画像です。

5歳の子が、本物の針で'自分の作品'を作れるまでになる。

こうした成功体験へと焦らずじっくり導いてくださる過程には(ちょっとちょっと先生、袂にどうぞ、とチップ払いたくなるレベルで感動)先生方の子育て職人としての技を感じてしまいます。

「はい、今日は刺繍をしますよー」とやるのではなく、まずは先生が縫い物をしている姿を見せてくれます。

先生の手でスイスイと何かを作り出す様子をそばで見ているこどもたちには、自分もやってみたい!という気持ちが芽生えてきます。

やりたい気持ちがあるところへ、針を持たせてもらったら、それはもう最高の遊びですよね。

縫い物ができてすごいね、えらいね、といった言葉が必要のない世界。

やりたいから、やる。

その準備への工夫が、先生の手によって言葉なく散りばめられていると感じるのです。ここに職人技を感じてしまう。

さらに、コースターの刺繍の星は、数学的な思考の土台になるとのこと。(驚)

クロス+
の模様は5〜6歳の子はお絵かきにもよく出てきますが、そこにもう一本線を足して三分割の間隔をとるというのは、とても高度なこと。

観察力と理解力、空間把握力を使い、実際に針を動かすことで、その瞬間その子の全感覚がフル回転しているのですね。

シュタイナー教育では、字や数字を学ぶことは7歳以降が良いとされていますが、それまでただ放ったらかしなのではありません。

アカデミックな内容が適切な年齢になった時にシュルシュルーっと吸収される土台を、7歳までに全力でこしらえる。

努力と工夫が詰まった遊びに満ちているのです。

直接、これは3だよ。こうやって並べていくと三分の一ずつになるね。
と口で説明されるとき、こどもは全力で受け身です。

刺繍できれいな模様を見ているとき、それを作りたくて作っているとき、こどもは全力で能動的です。

同時に、そして知らぬ間に数学の土台を理解している、というのは、こどもにとって意図的ではないにも関わらず、数の世界へと矢印の向きが能動的だと思うのです。

叩き込むのではなく、浸透させていく。

人間の発達として、より良い形でこどもたちの中に浸透していくには、自然な流れが必要で、そのためにはクリエイティブな手段ほど適しているものは無いように思えます。

やる側も見ている側も「かわいいな。綺麗だな。」という純粋な喜びを味わうというのは、人生における豊かさそのもの。

そして、実はそっちにも繋がってたんかい!という嬉しい驚きまでついてくる。

『何かを教わる』というひとつの出来事にさえ、どれだけの配慮されているのか、先生方の愛が深いのかを知り、自分がこういう風に教わったらすごく幸せだなぁーと羨望の眼差しでこどもたちを学校へ送り届ける日々なのです。

美しいと感じる感覚や、やりたいことをやる事そのものに喜びを伴った小さな成功体験は、自分は何かをやることが出来ると知り、それを信じ、自らの足で立ち、生きる人間を育てる力を持っているのだから。


2020年7月18日
はしのちか


サポート、スキ、フォローすべて嬉しいです。