見出し画像

公演台本『ゼンイとギゼンの間で呼吸する世界。』

第1回公演

ゼンイとギゼンの間で呼吸する世界。

2017/03/18 (土) ~ 2017/03/20 (月)

出演

高木健

児玉磨利

足立靖明

浅川千絵(FUKAIPRODUCE羽衣)

中谷亜美

田中祐希(ゆうめい)

会場: CHARA DE asagaya

※台本からコピペしたので読みづらいところや行間がおかしいところがありますが御了承ください。


エンニュイ第一回公演
「ゼンイとギゼンの間で呼吸する世界」
                      脚本・演出 長谷川 優貴

登場人物

■別所まこと(29)
ガムのいとこ。

■斉藤我夢 (29) 
幼少期に海に落ちて足を負傷し、それ以来足に障害を持って生きている。

■神田あいこ(28) 
ガムの彼女。

■斉藤スミレ(31) 
ガムの姉。寝たきりになった母の介護をして生活している。

■手越いくえ(31) 
スミレの幼馴染。せいじの妻。

■手越せいじ(32) 
斉藤家の親戚。

善人の善意による悲劇。悲劇のおこす喜劇。これはそんなお話。

~プロローグ~

舞台は、都会から離れた港町。

高い建物がなく、水平線と山々と工場の煙突しか見えないからか、世界から切り取られた孤立した世界のように感じる。そんな港町でこの話は語られる。喜劇的に悲劇的に。まるでこの国を縮小したお話のように。

別所とガムの電話の会話から物語は始まる。

所は、田舎と東京、電話をしながらうろうろと歩き交差したりする。ゆったりと場所が同化している感じ。

お互い少し気を使い合っている。その心の距離を保ちながら
うろうろと歩く。

別所     (電話をしているマイム)へぇ! 凄いな!
ガム     まあね…。
別所     いやー良かった!
ガム     …これからだよ。
別所     ……まあ確かに俺には業界のことはわからないけどさ。賞取るってことはなんでも凄いことだろ?
ガム     俺一人で作ったわけじゃないしさ。
別所     …いや、それでも凄いよ!
ガム     まだまだプロとしてお金貰えてるわけでもないし。凄くわないよ。
別所     ……まあ金は後からついてくる。金に困ったらいつでも言えよな。
ガム     ああ。
別所     ……俺はこっちで普通に働いてるからさ。金なら困らないし。
ガム     大丈夫だよ…。
別所     ……返済は出世払いでいいからよ。
ガム     じゃあ、友達待たせてるから切るよ。
別所     おう……頑張れよ。おまえはこの町の誇りなんだから。
ガム     じゃあ。
別所     ……ああ。じゃあな。

場所は別所いきつけの居酒屋に。

別所     ん? ああ、いとこから。同い年なんだよ。昔からとにかく良いやつでさ。ああ、小さい頃よく遊んだよ。そうそう、小学生の時、お化け穴にいってさ。え? お化け穴知らないの? ほら、あの海岸にある洞穴。え? 大将いくつ? ウチらの世代だけかな? あそこって、人工じゃないんだってさ、、波でどんどん削れてって何十年、何百年かけてできたんだって。、ああ、あった、あった、、昔防空壕で、戦時中に死んだ人の霊がでるだの、夜に行くと人魂が出るだのなんだの。

ガム、せいじ 登場。時代は過去に戻る。

せいじ    (懐中電灯を持って先導している)おまえらビビってんじゃねーぞ! 俺についてくれば大丈夫だからな!
ガム     ねぇ……(せいじに話しかける)
せいじ    うぁーーー! でたーーーーー! 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏!
別所     せいじ兄ちゃん!
せいじ    まこと気を付けろ! 悪霊の声が!
別所     こいつが話しかけただけだって!
せいじ    ……え?
ガム     うん。僕がねえって言ったんだよ! 怖いねって話しかけようと思って。
せいじ    はあ? 怖くねーよ! ビビってんじゃねーよ! (立ち上がれない)立たせろや!
別所     まさか腰抜けたの?
せいじ    ぬけてねーよ! この洞穴やっぱり普通じゃねーぞ! 重力つえーから気を付けろ!
別所     あ、ああ……。
せいじ    苦笑いやめろ!
ガム     (辺りを見ながら)意外と狭いんだね。
せいじ    さっきまでビビってたくせに。
別所     今もビビってるくせに。
ガム     もう慣れてきたよ。全然霊なんて出そうにないね。
せいじ    あ、ああ……そうだな。(腰が引けている)
別所     腰引けてるよ……。
せいじ    うるせぇ! 元々だ!
別所     でも、大丈夫かな?
せいじ    大丈夫。憑りつかれたら神社にに行ってだな……
別所     大人に怒られないかなと思って。
せいじ    ああ……そっちな! 見つからなきゃ大丈夫だろ。
別所     ……結局他に誰も来なかったね。
せいじ    みんな腰抜けなんだよ。
別所     まさか、ガムが来るなんてな。一番ビビりっぽいのに。

ガム     (奥に行く)
せいじ    お、おい! 気を付けろよ!
別所     危ないぞ!
ガム     わーーーーー!
別所     どうした? (奥に行く)
せいじ    え? 人魂か? 霊か? 霊なのか?
別所     わーーーーー!
せいじ    え? え? なんだよ!?
ガム・別所  わーーーーー!
せいじ    だから、なんなんだよ!
別所     凄いよ! あのね……
せいじ    う、うん……なんだよ?
ガム・別所  わーーーーーー!
せいじ    だから、なんなの!?
別所     だから……
三人     わーーーーー
せいじ    もうわかったわ! もういいから!
ガム     せいじ兄ちゃんもこっちに来てよ!
別所     はやく!
せいじ    わかったよ! (恐る恐る近づく)
別所     ほら! (下を指さす)
せいじ    わーーーーーー!
ガム     ほら、なるでしょ! わーって。

海面に月の光が反射している。

せいじ    水たまり……。
別所     綺麗だな。
ガム     (上を指さして)あの岩の隙間からもれた光が反射してるんだね。
せいじ    ……ああ。

沈黙

別所が語りだす。語りに合わせて動く せいじ・ガム。

別所     そのあと、大きな岩にチョークでばってんをかいてさぁ。学校で自慢したかったんだよ。。あの恐ろしいおばけ穴に子供だけで行ったぞーって。え? いるわけねぇだろ。幽霊なんて、、、でもさ、帰り際にいとこのガムが洞穴で人魂見たって言いだしたんだよ。俺はそんなのいなかったろって言って。ああ、ガムはいとこ…えーと、俺の母親の妹の子にあたる感じ。で、ビビってたせいじ兄ちゃんが…ああ、せいじ兄ちゃんは、母親の兄貴の子。俺のニコ上なんだ。そ、だから俺だけ苗字が別所なの。え? ああ、ガムのところはシングルマザーだからそのままの手越の姓を名乗ってるってわけ。で、なんだっけ? あ、そうそう、ガムは幽霊見たって言い張って、それで俺が嘘つけって言って喧嘩になっちまったんだよ……。


三人はける。入れ替わりでスミレ・いくえ 登場。

[いくえとスミレ]
場所は、手越スミレとガムの家。昔ながらの平屋の一軒家。
居間で話す二人。

いくえ    喧嘩くらいするよ。
スミレ    喧嘩するんだ。仲いいからしないのかと思った。
いくえ    するする。
スミレ    そうなんだ……。
いくえ    (ケーキを食べるマイム)これ美味しい! スミレが作ったの?
スミレ    うん。
いくえ    凄くない? ケーキだよ? ケーキを作れるだけでも凄いのに、美味しいって! 神ね! あなた神よ! ゴッドスミレ! ゴッドスミレよ!
スミレ    大袈裟だよ。
いくえ    ……あ、そうそう、さっきの喧嘩の話で思い出したけどさ、立花さんのとこの奥さんと旦那さん、この前公園で殴り合ってたんだって!
スミレ    …。
いくえ    (小声)あの仲の良い夫婦が喧嘩って。気にならない?
スミレ    ……。
いくえ    立花さんのこと嫌いじゃないんだよ。好きだからこそ気になるから調べたの。ここから先は秘密だよ。あんまり言いたくないんだけどね。
スミレ    ……秘密ならいいよ。
いくえ    聞いて! 立花さんとこの奥さんが不倫してたらしいの。あの人さ、悪い人ではないんだけど、なんかあれなとこあるじゃない? 嫌いじゃないんだよ。好きだからこそ気になるの。だって、いつも露出度の高い服着て香水ぷんぷんさせてさ……悪口じゃないからね。好きだからこそなの。広めたら可哀想だからヒミツね。
スミレ    ……。

沈黙

いくえ    (ケーキをもぐもぐ食べながら)あんたも、そろそろ結婚したら?
スミレ    相手いないし。
いくえ    見つけようとしてないだけでしょ?
スミレ    まあ……。
いくえ    家事はちゃんとするし、料理も上手だし、性格は良いし、顔はきっとよく見える角度がどこかにあると思うし。相手はそこそこいると思うよ。
スミレ    私、いくえちゃんみたいにモテないから。
いくえ    またー、褒めても何も出ないぞ~。
スミレ    学生時代、毎日のように告白されてたじゃない。
いくえ    まあね。まああの頃はねー。今も奥さん綺麗ですねーなんて言われるけど、あの頃はねー。まあねー。破壊的なモテ方だったよねー。まあねー。
スミレ    いくえちゃんみたいな人生だったらな。
いくえ    またまた。そんなこと言いながら、今の生活が幸せっていつも言うじゃない。
スミレ    うん。そうだよ。今が一番幸せ。
いくえ    あ! そうだ! 今度合コンしようよ!
スミレ    え? でも……。
いくえ    出会いよ! 出会い! 大丈夫私も行くから!
スミレ    だからダメなんだよ。
いくえ    え?
スミレ    だって、せいじ君いるじゃない。
いくえ    旦那は大丈夫だよ! だって私はただの付き添いだし。
スミレ    ごめん大丈夫。ありがとう。
いくえ    そう……。

沈黙

いくえ    あんた昔からそうね。
スミレ    なにが?
いくえ    生きづらそう。
スミレ    え……?
いくえ    悪い意味じゃないよ。真面目ってこと。さっきだって噂話に全然入ってこないしさ。
スミレ    それは……まあ。
いくえ    学生時代からそうだよね。絶対に人の陰口を言わない。まあ、さっきのは陰口ではないけどね。ただの前向きな話なわけだけど。……でもさ、真面目だと損するよ。私は嫌だな。どうせ生きるなら損したくない。
スミレ    ……。
いくえ    (違う部屋の方を見て)なに?
スミレ    母さんが起きたみたい。
いくえ    大変だね……。
スミレ    全然。だってこれが私の普通だし。
いくえ    なんか困ったことあったらいつでも言ってね。私たちにできることならなんでもするから。
スミレ    ……うん。
いくえ    今はもう親戚なんだし、気なんて使わないでね! (手を握る)
スミレ    ……うん。

スミレ語りだす。

スミレ    悪口とか陰口って苦手で。なんかその会話に入ってしまったら、あとで返ってくる気がして。なんかそういうののことを「カルマの法則」って言うんだそう。代表は、因果律だとか何とか言ってたけど私には難しいことはわかりません。女子の会話には必ず噂話や陰口が出てくるの苦手じゃないですか? 四人で話していたとしたら、一人が帰ればそのこの悪口を言い。で、また一人帰ったらその子の悪口を言う。おちおちトイレにも行けませんよね。席を外せば悪口を言われるから。そのせいで女子はよく膀胱炎になります。だから私は友達を作りませんでした。今も一人の方が楽です。人が家に来るといやになります。みんな一人で寂しそうだから来てあげたとか、介護の息抜きにとか言いながら、自分の話をたくさんして帰るので……。

スミレ・いくえ はける。入れ替わりでアイコ・ガム登場。

[アイコとガム]
場所は、東京のガムとアイコの同棲中のボロアパート。

アイコ    幸せになりたいなー。

沈黙

アイコ    なあ。聞いてんの?
ガム     あ、うん。
アイコ    なんか話してよ。
ガム     ……。
アイコ    さっきから私ばかり話してんじゃん。クロスしてよ。トークをさ。
ガム     ……ごめん。今集中してるからさ。
アイコ    今って、ここ数日ずっとだろーがよ。
ガム     ……。
アイコ    会話しないと、一緒にい住んでる意味ねぇーだろ!
ガム     ごめん……あの……少し口悪いよ。
アイコ    少しじゃねーだろ! 相当悪いだろ! 変な気を使ってんじゃねーよ! お前のそういうとこ嫌いだわー。
ガム     ごめん。
アイコ    いや、言い返せや! 価値観ぶつけてるんだから、価値観で返せや! じゃないと、私が悪者みたくなんだろーが! TJJにすんなや!
ガム     TJJ?
アイコ    高橋ジョージ状態の略だろうが!
ガム     (笑いながら)うまいね。
アイコ    私の意図してないとこで笑ってんじゃねーよ!
ガム     ごめん。
アイコ    なんでも謝んな! 悪いと思った時だけ謝れ!
ガム     ごめん。
アイコ    ほら! 怒ってるわけじゃないんだけど私。そうやって怒られてるみたいなポジションとることで、安心するのとかマジやめてくれる。
ガム     そうそう、マウンティングされてますみたいな感を俺が出し過ぎるってことでしょ?
アイコ    そう。
ガム     それが悪い癖だっていう指摘は度々受けておりますッ!

沈黙

ガム     ……好きだよ。
アイコ    私も。で、作業はどんな感じ?
ガム     うん。進んでるよ。
アイコ    今作ってるのなんのやつだっけ?
ガム     次のグループ展の。
アイコ    ああ、言ってたやつか。
ガム     偉い人とか、美手帳のライターさんとかレセプションで来たり、ゼロあか系の人が来たりさ、チャンスなんだよ! だから、ガツンとかましたいんだ! なんか結構みんなペインターとかばっかだから、割とこう、こういうジャンルでやるのは多分俺だけになるから、ちゃんとやんないとなぁみたいな。で、今はその仕込みの映像とか作ってて。音響とかは、別でやってくれる人がいてさ。スケジュール空けておいてね。レセプション呼ぶから。
アイコ    行っていいの?
ガム     うん。来て来て! 紹介したい人いっぱいいるし。
アイコ    いいじゃん。活き活きしてんじゃん。
ガム     そう?
アイコ    顔相が良くなったよ。顔相が。
ガム     がんそう?
アイコ    表情で運勢かわるから。暗いやつの作品なんて誰も評価しねーよ。気持ちわりぃ。でもその顔なら大丈夫。
ガム     あ、ありがとう。
アイコ    うん。
ガム     いや、なんか、結局さ、ゼミの先生が言ってたんですよ。
アイコ    はあ?
ガム     パートナーとか嫁の言うことしか信じるなって。みんな色々な利害関係でモノ言ってくるけど、ホントのことバシって言ってくれるのはパートナーだけだからって言ってたんだ。
アイ     で? なにが言いたいの?
ガム     いや、だから感謝してるし、信用できるのはアイコさんだけだよって……。
アイコ    パートナーの言うこと信じる前にゼミの先生の言うこと信じちゃってるじゃん。
ガム     うーん…パラドックスがおきてるな。
アイコ    はあ?
ガム     (咳き込む)ごめん。ごめん。
アイコ    なんだよパラドックスって。美味いの?
ガム     いや…食べ物じゃないから。
アイコ    で、どんな感じの作品になりそうなの?
ガム     結構映像とか使って、割と視覚と聴覚を使う感じかな。
アイコ    この間とは違う感じになりそうなんだ。
ガム     停滞が一番怖いからさ。絶対に違うことやろうと思って。お家芸ですねみたいになったらおしまい。絶対!
アイコ    やっぱり、作品のことになるとたくさん話してくれるね。
ガム     そうかな? そうだね! 一緒に住んでるんだから雑談しないとね! 雑談しよ!

沈黙 ガム気まずい顔。

ガム     今度お金は言ったらさ、焼き肉行こうか!…あ!
アイコ    …肉は食わないって言ってんだろうが!
ガム     そうだったね…ごめん。

沈黙 ガム気まずい顔。

ガム     で、作品の出来はどうなの? 出来栄え。
ガム     うん。色々と試行錯誤してる感じ。
アイコ    それは聞いた。映像とか使うんでしょ。そう言うことではなくて、自信があるかないかを聞いてるの。
ガム     まあまあ……ね。
アイコ    誰の目気にしてんだよ! 二人しかいないんだから本心で話しなさい!
ガム     自信はある!
アイコ    そう! あなたは才能あるんだから。
ガム     ありがとう。
アイコ    足りない。
ガム     え?
アイコ    もっと感謝しなさい。あんた食わしてるの私なんだから。
ガム     そういうこと言う?
アイコ    言うわよ。慈善事業じゃないんだから。たくさん褒めて感謝してもらわないとやってられないでしょ。
ガム     もはや清々しいね。
アイコ    溜め込んで爆発する女とか大嫌いなの。思ったことは言わないと。口ついてるんだからさ。
ガム     まあね。
アイコ    私、まあねってのも嫌い。そのあと確実になにか含んでんじゃない。言うの我慢した言葉をさ。
ガム     人間なんでも思ったこと言えばいいってもんじゃないじゃん。オブラートに包んでさ、相手が嫌な思いをしないで、それでいて一番刺さる言い方ってもんに変換しながら話すわけじゃん。
アイコ    うーん……。
ガム     だからさ、含みながら読み取り合うのが日本人の良いとこなんじゃないかな?
アイコ    そんなんだから戦争で負けるんだよ! 負け犬に良いとこなんてないだろうが!
ガム     それは、極端なんじゃないかな。負けの美学だってあるしさ。
アイコ    はい(手を叩く)そうそう! それそれ!
ガム     え? どれどれ?
アイコ    こうやって、クロストークしないと! せっかく違う価値観の二人が一緒に暮らしてるんだから。
ガム     ……そうだね。話さないとね。(貧乏ゆすりしている)
アイコ    貧乏ゆすりすんな。
ガム     あ、ああ。ごめん。
アイコ    謝んな。
ガム     (咳き込む)
アイコ    あ、そういえば、お金の件はどうなった?
ガム     製作費?
アイコ    そう。
ガム     いとこが貸してくれるかも。
アイコ    別所?
ガム     そう。
アイコ    お金あるの?
ガム     まこと独り身だしね。
アイコ    なんであの人そこまでしてくれるの?
ガム     そりゃあ、いとこだし。仲いいし。なによりも血が繋がってるしね。
アイコ    いとこったって結局は他人でしょ?
ガム     そんなことはないよ。家族みたいなもんさ。
アイコ    家族だって結局他人だから。
ガム     いや、家族は信じようよ。
アイコ    パートナーの言うことしか信じないんじゃねぇのかよ!
ガム     それは、まあ。
アイコ    てめーブレブレだな。世間体とか倫理観とかでうごいてるからブレるんだよ! そんなんじゃ本当に大切な物を失うぞ。全部得れると思うなよ! クズが!
ガム     ……。

沈黙

アイコ    (溜息)私が社長令嬢だったらねぇ……。ごめんね。お金なくて。
ガム     今でも十分だよ。
アイコ    そりゃそうでしょ。全部お金はらってるんだから。
ガム     ……。
アイコ    でも、別所は好きになれないなぁ。
ガム     どうして?
アイコ    偽善者くさい。
ガム     ……そう…かな?

ガム語りだす。美術団体の準備の手伝いをしながら友達と話している。

ガム     べつに彼女は、悪気があって俺を叱ってるんじゃないんだよ。てゆーか、俺の為を思って言ってくれているわけ。なんかさ、俺の会話の返しが大体ずれてるみたいなんだよね。なんかあるじゃん。なんかこう「それってあれみたいなこと?」って言うと、むこう黙っちゃって

アイコ    「いや、違うから。ちゃんと聞いて最後まで」
ガム     て言ってもう一回話直すと、俺が思ってたのと全然違う感じなわけ。で、毎回間違えるから、俺はもう何も言わないようになっていって。そうすると今度は
アイコ    「なんでなにも言わないの」
ガム     なんて言われて。であたふたしちゃって。で、さらにビビッて話せなくなって。でも、そんな時に言われたわけ。
アイコ    「私なんかの機嫌とかを気にして話すな。思ったこと言え。言い合いを避けようとするからそんな発言するんだよ。私は、話をしてもっとお互いのことを知りたいんだよ」
ガム     って。でもさ、彼女が俺でイライラするなら極力話をせずにストレスを軽減させてあげたいんだよ。それが俺なりの優しさ。

アイコ語りだす。場所は美容室。

アイコ    なんでもはっきり言わないと気が済まない性格でさ。いや、性格というか、はっきり言うことこそが正義だと思ってるから。はっきり言わない癖に後出しで「あのとき失敗すると思ってたんだ」とか平気で言ってくる奴いるじゃん? あれホント無理。最初から言えよって叫びながら近くにあった鈍器でなぐりたいくらい。あ、そういえば、どうして近くにある鈍器って大抵ごつい灰皿なんだろ? あんなごつい灰皿日常でみたことある? いや、そんなことどうでもいいんだよ。あ、サイド切りすぎじゃない? いやなにしてくれてんのよ。全盛期の木村カエラにしろっったろーが。たく。割引しろよな。…あ、あと、キャラ的に文句言われない人いるじゃん。なんか言いずらい奴。ああいう奴見てるとそいつの悪いところを言ってやらないと気がすまない。言われやすいキャラの人ばかり文句言われてるのっておかしいじゃん? だから私が言ってやんの。え? これは善意でしょ。

アイコとガムはける。入れ替わりで別所とせいじ登場。

[せいじとまこと]
            場所は、居酒屋。

せいじ    だから言ってやたんだよ! ちゃんとやりましょうよって!
別府     よく言えたな……めちゃくちゃ年上だぞ。
せいじ    関係ねーよ! 俺が社長だからな! 相手が親戚のおじさんでも言うときは言わないと他の社員に示しがつかねぇからな。
別府     で、親父さんはなんて言ったの?
せいじ    全力で言い返されたよ。元漁師でプライド高いんだよな。でもガツンと言ってやったよ。
別府     え? なんて?
せいじ    言うことが聞けないのならクビですよって。
別府     それでおやじさんは?
せいじ    そのまま帰ってずっと仕事来てないよ。
別府     え!
せいじ    まあ、ほぼアル中だったし、ちょうど良かったよ。
別府     だったら最初から雇わなければよかったのに。
せいじ    ウチのパパ、……あ、親父……あ、先代が、
別府     呼び方はどれでもいいけど。
せいじ    魚獲れなくなってたいへんそうだっただろ? だから雇ってやろうって。でも、いくら親戚でもさすがに限界はな……ウチだってそんなに儲かってるわけじゃねーしよ。そりゃ、心苦しかったよ。俺、成人式の時あのおじさんにスーツ買ってもらったんだぞ。
別所     そうなの?
せいじ    そうだよ。良くしてもらってたんだよ。
別所     だったら尚更……。
せいじ    でも、俺だけの感情じゃ会社は動かせねーんだよ! 仕事ができない親戚に良い給料払ってんのに、仕事バリバリやってくれてる他人の社員の給料は少ないなんて訳にはいかねーだろ? 綺麗ごとじゃ大勢の人間を救うことはできねーんだ。綺麗ごとで救えるのなんて一人や二人くらい。わかるか?
別府     まあねぇ……。(グラスが空になったマイム)すみません! ハイボールおかわり。せいじ兄ちゃんは? 
せいじ    じゃあ、同じやつで。
別府     なんかつまもうかなぁ。(メニューを見るマイム)
せいじ    ウチの会社には3人しかいねーだろ?
別所     え? もっといるだろ。社員30人くらいはいるでしょ?
せいじ    そういうことじゃなくて! まともに仕事できる人間がよ!
別所     いや、それにしてももっといるよ! まともに仕事できる人間が三人しかいない会社ってやばいよ!
せいじ    そういうことじゃなくて! 指示を出せる人間がよ。親族のおっさんとブラジル人しかいねぇんだからよ。
別所     まあね。それはこれから育っていくんじゃない?
せいじ    そんな悠長なこと言ってる時じゃないんだよ! 今手越鋳工はちゃんと危ない状況なんだから!
別所     ちゃんと危ないって日本語はおかしいと思うけど。
せいじ    ちゃんとあぶないんだよ! うるせーな!
別所     なにがちゃんと危ないわけ?
せいじ    だから三人しかいないわけだしさ。
別所     だから、それはせいじ兄ちゃんの中ででしょ? ちゃんと30人はいるから!
せいじ    そうじゃなくてさ! そのほとんどがブラジルの子とかだろ?
別所     そうだよ。あの子たち真面目だよ。
せいじ    そうなんだけどさ。真面目だと思うし。嫌いじゃないよ。でもさ、結局日本人横綱が一番うれしいじゃん!
別所     なんの話だよ。
せいじ    相撲だよ!
別所     相撲の話なんてしてなかったろ! せいじ兄ちゃん飲み過ぎだって。
せいじ    飲んでねーよ!
別所     いや、飲んではいるでしょ!
別所     うるせーな! とにかくあのブラジルの子たちにも三人目指して頑張ってもらわないといけないわけだよ!
別所     でもさ、そんなに重く期待をかけたらやめちゃうよ? 今人減ったらこまるでしょ? 違う会社いっちゃうよ?
せいじ    そんなんで辞める奴はどこいっても駄目だ! 成長しない! 違う会社行って、その会社がちゃんと危なくなったら、どうせまたちゃんと辞めやがるんだよ!
別所     だから、ちゃんとの使い方変だよ。とにかく言いすぎも良くないよ。優しくしてあげないと。
せいじ    縁があって来てくれたんだろ? だったら言ってやらないと! それが彼らの為にもなるんだからよ! 今はウザくても、将来「ああ、あの社長の言うことはこういうことだったんだ」(片言で)って思い出してもらえればそれでいいんだよ!
別所     でもさ…
せいじ    嫌われたくないって感情捨てろ!
別所     え?
せいじ    まこと、お前はみんなに優しいんじゃねぇ。ただみんなに嫌われたくねぇんだよ! そういうのを偽善って言うんだ! 
別所     そういうつもりじゃ…
せいじ    おまえはこれからどうするつもりなんだよ。
別所     え? 手越鋳工で働いていこうと思ってるよ。
せいじ    思ってないよ! お前は!
別所     いや思ってるよ。
せいじ    結婚はどうするんだ?
別所     まあ、そのうちしたいけど相手がなあ。
せいじ    しようなんて思ってないよ! おまえは!
別所     え? いや思ってるよ。
せいじ    貯金はあるのか?
別所     まあ、あんま使わないからそこそこには。
せいじ    してないよ! おまえは!
別所     いや、俺がしてるって言ってるんだからさ。
せいじ    言ってないよ! おまえは!
別所     もうわけわかんないよ。
せいじ    俺の若い頃はな、もっと先のことを考えて行動してたよ!
別所     若い頃って……2つしか変わらないじゃん。
せいじ    うるせーな! とにかく人生をちゃんと逆算して行動したほうが良いってことだよ! 人生なにがおこるか分からないだろ? だから保険が誕生したわけでさ
別所     保険? 兄ちゃんなんの話してるわけ?
せいじ    違う、違う! 聞けや! ちゃんとまず俺が言いたいことを最後まで聞いてからさ、なんかこう、話を止めないと進まないからさ!
別所     兄ちゃんが勝手に脱線するからさ。
せいじ    決めつけんな! 脱線してるように見えてもまだレールが続いてる場合があるから! 大切な話してるんだぞ!
別所     わかった。ちゃんと聞くよ。
せいじ    で、なんの話だっけ?
別所     レール続いてねーじゃねーか!
せいじ    とにかく! 俺はまことに幸せになってほしいだけ!
別所     ああ、まあ。

沈黙

せいじ    そういえば、あいつとは最近連絡とってんのか?
別府     とってるよ。なんか賞取ったらしいよ。
せいじ    頑張ってるんだな。
別府     今は次のコンクールに向けて作品を作ってるって。次ので受賞できたらかなり良いらしい。
せいじ    なにがかなり良いんだ?
別府     なんかがかなり良いらしいよ。なにかが。いいんだよ。
せいじ    さっぱりだな。
別府     俺も芸術の世界のことはよくわからないからさぁ。
せいじ    それでもどうせ食ってけないんだろ?
別府     わからないけど……。
せいじ    あいつもバカだな。東京まででてってなにしてるんだよ。いい歳してさ。
別府     昔からの夢だったんだからいいんじゃねぇーの。
せいじ    もっとあっただろ。なんだ芸術って。アート? あんなもん国から金もらわねーと何にもできねーんだからよ。俺はそもそも芸術ってやつはこの世に必要ないと思ってるんだ。
別府     それは言いすぎなんじゃない?
せいじ    この間も青年団の会合でよ、町おこしで道にアートを飾らないかとかいいだしてよ。飾る必要なんてねぇっていってやったよ。だってよ、こんな田舎は、畑とか山々とか海とかそういう普通の風景が一番アートだろう。そう思わねーか?
別府     まあ……。でも、ガムも頑張ってるんだしさ。
せいじ    なんだダジャレか? ガムがガムばってるって。
別府     なにこいつ。
せいじ    みんな頑張ってるんだよ。頑張ってねーやつなんていねー! 俺も昔はバンド組んで音楽で食っていきたいって時期もあったよ。
別所     …。
せいじ    でも、世界は広い。こんな田舎で凄くたって東京では敵わない。売れるのなんて一握りだからな。あいつはなめてるんだよ。
別府     まあ、そりゃ難しいとはおもうけどさ……。
せいじ    けどさってのやめろ! おまえの悪い癖だ! 仲裁して中立の発言しかしねー! みんなに良い顔すんな!
別所     だから、そういうつもりじゃ…
せいじ    都会なんて行かずにこの町で普通に働けば良かったんだ。
別府     ……。
せいじ    まあ、びっこ引いてちゃ働き口もそうそうねぇだろうけどな。
別府     ……。
せいじ    頭下げれば、うちで働かせてやるのにな。親戚なんだからよ。てゆーか、寝たきりのおふくろさんの看病をスミレに任せっきりなんだろ? おかしくねえか? 人として!
別所     それは、ちゃんとスミレさんと話し合って決めたことらしいよ。看病は任せて夢追いかけてって。
せいじ    それは甘えさせてるんじゃないの?
別所     でも応援してるって。
せいじ    だから、それが甘えさせてるって言うんだよ!
別所     まあね。
せいじ    まあねってやめろ! 中立小僧! お前もガムを甘やかせすぎなんだよ! どうすんだ? 金にも困ってるぞすみれさん! このままいったら親戚の俺達がしりぬぐいすることになんだぞ?
せいじ    困ってたら助けてあげようよ。親戚なんだからさ。
別所     助けるよ。けど、まず助けなきゃいけないのは息子だろ? 長男だろ?

沈黙

別府     せいじ兄ちゃんって、ガムの話になると止まらないよね……。
せいじ    ……。
別府     なんかあったの?
せいじ    生き方が気に食わないだけさ。

沈黙

別府     ……せいじ兄ちゃんは、あの時のことどう思ってる?
せいじ    おまえ、まだ背負ってるんだったらやめた方が良いぞ。過去は過去だ。
別府     背負ってるわけじゃないけど……。

せいじ語りだす。会社の新人社員と飲んでいる。(ブラジル人)

せいじ    この町には慣れたか? 良い街だろ? 海は近いし、大きな山もある。こんなに自然に囲まれた町はそうそうないぞ。うん? くさい? ああ、製紙工場な。水が豊富な街だからよ。紙の工場が多いんだ。あの臭いはパルプだな。紙の原料になる木の粉だよ。まあ、工場も多いけどな、自然と人間が生きるための工場が混同してる感じがまたいいじゃねぇか。自然しかなかったら嘘くせぇだろ? なんか正直な感じで俺は好きだな。おう、食え食え。でな、お前たちの働いてる会社はな、親父…あーパーイの会社だったわけ。で、俺が最近継いで社長になったの。手越鋳工。鋳造会社な。鋳物作り。まあ、これから徐々に覚えて行ってもらうけど。鋳物ってのは、加熱して溶かした金属なんかをを型に流し込んで作った金属製品だ。まあ、やればわかるだろ。一人で日本に来て寂しいだろうけどさ、俺に任せておけば大丈夫だから。人に慕われる方だしよ。面倒見が良いとか、情に厚いとかよく言われるわ。自分じゃ意識してねぇしよくわかんねぇけどな。なんか悩んでるやつとか放っておけないんだよな。だから、そういうやつがいたら直ぐに飲みに誘ってやるんだよ。お前も悩んだらいつでも言えよ。俺の経験談や、考えを聞かせてやるからよ。人生は経験だから。先輩の話は絶対だ。な。わかるだろ?大体、最近の若いやつの悩みなんて大したことないんだからよ。俺の若い時の苦労話とかしたら一発だぞ。あとは、うちの夕飯にも誘ってやるからよ。。若い時は飯に困るだろ。迷惑なんかじゃねぇよ。奥さん? あいつは俺の言うことは絶対だからよ。そんな善意でやってることをとやかく言わねぇよ。あいつも若い子の役に立てて嬉しいはずさ。ブラジルには帰らねぇのか地元は大切にした方がいいぞ。田舎を捨てるやつは許せねぇ。

ガム登場。

[上京前のガムとまこと]
            場所は、海岸沿い。

別府     ホントに行くことにしたんだな。
ガム     まあな。
別府     ……さみしくなるな。
ガム     ホントに思ってる?
別所     なに言ってんだ。思ってるよ。
ガム     そっか……。

沈黙

別所     あ、そうそう。もう少しで免許取れそうなんだよ。
ガム     え、教習所?
別所     今通ってる。多分ね、来月…今月中にうまくいけば取れると思う。
ガム     あ、ホント。へぇ。
別所     運転結構楽しいよ。
ガム     まあ、この土地柄だったら車ないときついもんね。
別所     ガムは取らないの?
ガム     まあ、向こう言ったら使わないしね。それに、上京資金でいっぱいいっぱいだから……。
別所     そっか……。

沈黙

別所     さっきの話なんだけどさ。
ガム     教習所?
別所     そうそう。授業を受けなきゃならないけど車の台数が限られてるから取り合いなのよ。
ガム     へえ。
別所     朝から並んで開いたら、ダッシュで走って予約のタッチパネルの取り合い。
ガム     年男みたいだね。
別所     年男?
ガム     新年に一斉に走るやつ。
別所     福男でしょ?
ガム     一斉に走って年男決める奴だよ。
別所     だから、それは福男でしょ?
ガム     いや、だから年男だって。
別所     年男ってさ、その年の干支の人でしょ。
ガム     え? まこと何年だっけ?
別所     話し変えようとすんなよ。同い年だから干支一緒だし。
ガム     え? なんの話?
別所     だから、走って競争してその年一番の福男を決めるんだから年男じゃなくて福男でしょ?
ガム     それは福男だよ。そりゃそうだよ。え? なに?
別所     あ、いや。やばいね。
ガム     で? なんの話だっけ?
別所     さあ。もういいや。

沈黙

ガム     教習所ってさ。同い年くらいの子多いの?
別所     まあな。
ガム     じゃあ、出会いとかありそうだね。
別所     いやいや。俺じゃ無理だよ。ガムこそ高校で出会いあるんじゃないの? 
ガム     ないよ。モテないし、こんな足だしさ!(ボケっぽく)
別所     あ、ああ…。
ガム     なんだよ! ボケてるんだから突っ込めよー!(笑う)
別所     ……。
ガム     ……。
別所     免許取ったらどこか行こうな。
ガム     ……。

沈黙
二人海を眺め。

ガム     ……今も人魂出るのかな。
別所     …。
ガム     あの時俺は見たんだよ。なのにおまえ全然信じてくれなかったよな。
別所     ……。
ガム     ……。

沈黙

別所     不安はないのかよ?
ガム     え?
別所     向こうに行くにあたって不安はないのかって。
ガム     …姉ちゃんが心配かな。
別所     そっか…。
ガム     父親いなくて寝たきりの母ちゃんと姉ちゃんだけ……心配なんだ。俺がいなくなってからが。本当は長男の俺がいるべきなのに……。
別所     ……大丈夫だよ。
ガム     え?
別所     俺がスミレ姉ちゃんとおばさん守るよ。だからお前は安心して東京で頑張れ!
ガム     まこと……おまえどうしてそこまでしてくれるんだよ……。
別所     どうしてって……いとこだからだろ? 家族みたいなもんじゃねぇか。
ガム     ……ありがとう。
別所     うん。
ガム     俺もなるべく連絡するし、できるだけ帰ってくるようにするよ。

沈黙

ガム語りだす。美術団体の準備の手伝いをしながら友達と話している。

ガム     はじめ、まこととは仲良くなかったんだ。あ、さっき言ってた同い年のいとこ。俺は人見知りで暗くて、まことは明るくて活発なガキ大将タイプ。正反対だったからそんなに好きじゃなくて。親族とはいえ子供の頃はシビアだよ。でもなんかいつの間にかむこうが優しくしてくるようになってさ。なんか急に。わかんない。え? 君の作品を?  俺が? いやいいよ。俺はねぇ、あんまり人に意見は言わないようにしてるの。責任背負わされるのも嫌だし。大勢の会議の時とかもなにも言わない。意見を言って話がこじれるより、傍観しているほうが平和でしょ? 
俺はできないこと多くてさ。区役所の手続きとかもろくにできないわけ。社
会に適合できない。芸術しか俺にはないんだ。だから、作品に集中して、傑
作を生みだして色々な人に恩返しできたらなと思ってるよ。これが俺にで
きる思いやりだと思うから。

ガム・別所 はける。入れ替わりで手越夫妻登場。

[手越夫妻]
            場所は、手越家。

せいじ    集中させてくれよ! もう少しで犯人がわかるんだよ!
いくえ    犯人は弁護士の北村だよ。
せいじ    はあ?
いくえ    それ、再放送。
せいじ    だからって、なんで言っちゃうかな。
いくえ    私の話を聞かないからでしょ。
せいじ    もう! わかったよ! 後輩を夕飯に誘わなきゃいいんだろ!
いくえ    誘うなとは言ってないでしょ! 部屋も片づけたいし、化粧もしたし、準備がしたいの。だから、前もって言ってって言ってるだけ。
せいじ    人間急に落ち込むんだから、前もってなんてわかるかよ。
いくえ    (溜息)もういいわ。
せいじ    なにがいいんだよ。
いくえ    ……。
せいじ    無視やめろよ。ずるいぞ。
いくえ    これ以上話したって、どっちかが折れないと終わらないんでしょ? だから折れたの。
せいじ    議論にならないだろ。
いくえ    だったら、あなた折れる気あるの?
せいじ    勝負する前から負けること考える奴がいるかよ!
いくえ    勝負って思っちゃってる時点でないわね。
せいじ    ないってなんだよ。
いくえ    私の倫理観の中にない行動ってことよ。
せいじ    なんで倫理観が出てくるんだよ。
いくえ    もういい。この話はおしまい。ごめんね。
せいじ    ……。(納得のいかない顔)
いくえ    まこと君どう?
せいじ    おお、しっかり働いてるよ。
いくえ    あの子結婚しないの?
せいじ    したいとは思ってるって言ってはいたけどな。
いくえ    そうなんだ……じゃあこちらで用意しちゃおうか。
せいじ    なにを?
いくえ    結婚相手よ。こちらで用意しちゃいましょうよ。こちらで。
せいじ    用意って言ってもなあ。
いくえ    夫婦の先輩としてなにかお手伝いしてあげたいじゃない。こちらとしても。
せいじ    まあな。
いくえ    やだーちょっと、独身の女子見繕うわ。
せいじ    じゃあ、今度食事会でも開くか。
いくえ    いいよ。いいよ。あなた忙しいでしょ? こっちでやっておくから。
せいじ    そうか?
いくえ    まこと君って、男友達たくさんいるかな?
せいじ    なんで?
いくえ    いや、どうせなら、女子だらけじゃなくて男子も同じ人数くらいいた方がいいんじゃない?
せいじ    それって合コンみたいじゃないか?
いくえ    ごうこん?
せいじ    そうだよな、おまえは真面目だから合コンとか知らねえよな。なんでもないよ。
いくえ    でもさ、まこと君だけじゃなくて独り身の人増えてて、しかも都会に出てちゃう若者が多いから町おこしから始めた方が良いかもね。
せいじ    話が飛躍しすぎじゃないか?
いくえ    町中の独身集めて、外からも独身の人集めて街コンするのとかいいかもね。
せいじ    街コンは知ってんだな。
いくえ    え?
せいじ    いや、なんでもない。でも確かに外から嫁いでもらって街を活性化させるの
とかいいかもな。今度青年団の会合で言ってみるわ。
いくえ    そういえば、スミレのとこのお母さん最近体調悪いんだって。
せいじ    元々、寝たきりだろ。
いくえ    なんか、この間吐血しちゃって。今入院してるらしいの。
せいじ    もう歳だしな。
いくえ    お金大丈夫なのかな? スミレお母さんに付きっきりで働きにも行けないから。
せいじ    長男は東京でふらふらしてるしなぁ。
いくえ    え? ちょっと待って! え? ガム君ちゃんと働いてないの?(なぜか小声)
せいじ    まだ、アートだかなんだかの夢追いかけてるよ。
いくえ    夢もいいけどねぇ。生活できなくちゃねぇ。困ったねぇ。
せいじ    なんでお前が困るんだよ。
いくえ    だって親戚だし、スミレは元々友達だし。
せいじ    そうだな。よし、今度ガムが帰ってきたら説教してやる。
いくえ    私は、心細いだろうからたくさん会いに行って話し相手になってあげよ!
せいじ    おまえは、本当に優しいな。

いくえ語りだす。場所はイタリアンレストラン。若い男といる。

いくえ    周りからは、お節介だの、世話焼きだの言われるよ。でもさ、私的には善意なんだからいいじゃない。ねえ? あ、気にせず頼んでいいからね。このワインボトルで頼んじゃおうよ。このお店いいでしょ? 私が見つけたの。東京のイタリアンのお店で修行してきたんだって。ね。おいしいでしょ。いいのいいの。若い子に栄養付けて欲しいだけだから。困ってる人がいたら助けたいじゃない? 彼女はいるの? え? ああ、おしゃべりは好きよ。よく近所の奥さん方とカフェで雑談してる。おしゃべり楽しいじゃない。人生楽しんだもの勝ちでしょ。やりたいことするわよ。だって、やりたいことできる環境にいるっていうのも才能でしょ? 不幸な人はそういう星の下に産れちゃってるのよ。だから、私みたいな恵まれた人間が良くしてあげないとね。優しい? もう、よく言われる~~。
でも、人に見られて恥ずかしいことはしないわよ。だって、この世で一番大
切なのは世間体だと思ってるから。で、彼女いるの? え? おかわり? 
すみませんペペロンチーノおかわりー!

せいじ・いくえ はける。入れ替わりでスミレとガム登場。

[家庭内の話 スミレとガム]
場所は、斉藤家。リビング。時刻は20時頃。
ガムは座っている。せかせかと動くスミレ。目で追うガム。

スミレ    あんたがリビングにいるなんて珍しいわね。
ガム     ……ああ、なんとなくね。
スミレ    へえ。
ガム     …最近どんな感じ?
スミレ    どんな感じって…普通だよ。なに?
ガム     いや、なんか最近腹割って話してないなと思ってさ。
スミレ    気持ち悪いな…なに?
ガム     いやいや、気持ち悪いのは昔からだよ。
スミレ    そんなことを言ってるんじゃなくて。急に改まってなにって思って。
ガム     いや…まあ…あの。
スミレ    なに? どうしたの?
ガム     …ありがとなぁ的な。サンキューフォーエバー的な感情がさ…。
スミレ    え? なになに? どうしたの?
ガム     いや、過剰にそんなびっくりしないでもいいし…。落ち着いて聞いて欲しい。
スミレ    うん。
ガム     兄弟ってすごく不思議じゃん。
スミレ    まあ、うん。
ガム     ……。
スミレ    なに?
ガム     毎日大変じゃない?
スミレ    全然大変じゃないよ。普通だよ。普通。
ガム     …もっとあそびたいでしょ? ホントは。
スミレ    いやいや、私は今の生活で十分だよ。全然満足してるし。
ガム     ホントはもっと違った人生あったんじゃないかな的なこと思うでしょ?
スミレ    いやー? 思わないなぁ。今の生活が私だし。
ガム     姉ちゃんもさ、追いかけてた夢みたのあったでしょ?
スミレ    夢? なにそれ?
ガム     絵をずっと描いてたじゃん。
スミレ    まあ、描くのは好きだったけど、落書き程度だよ。それをずっとやっていこうなんて全然考えたことないし。
ガム     絵描きさんんいなりたいわみたいなこと言ったじゃん…。
スミレ    ああ、言ってたね。でも、昔でしょ? 今は全然興味ないかな。
ガム     そっか…。
スミレ    なにが言いたいの?
ガム     いや…姉ちゃん大丈夫かなって。
スミレ    はあ?、大丈夫よ。
ガム     でも……。
スミレ    私のことなんかより、母さんが心配。
ガム     ……。
スミレ    最近更に体調悪そうだし……。
ガム     そうなんだ……。
スミレ    で、あんたどうするの?
ガム     どうするって?
スミレ    東京。
ガム     ああ。まあ…ね。
スミレ    迷ってるの?
ガム     まあ…だってさ…
スミレ    行きなよ。私全然応援するし、母さんのことは任せて。東京でやりたいことやってきなよ。あんたには後悔させたくないし。
ガム     それはできないよ。
スミレ    大丈夫だから。
ガム     姉ちゃん……。
スミレ    どうせ夢は捨てられないんでしょ?
ガム     ……。
スミレ    だったら、形だけの家族らしさはいいから、夢の為に生きなさい。お姉ちゃんは、今の生活を守るだけ。ただそれだけ。
ガム     ……。(泣きそうになる)
スミレ    不甲斐なさや、負い目を感じることはないよ。私は私で幸せだから。
ガム     ……アートなんて金にならない職業だよ。直ぐにバリバリ働いて金を送るなんてこともできないだろうし……今以上に迷惑かけると思うし…。
スミレ    それは仕方ないんじゃない? 家族なんだから。
ガム     でも…。
スミレ    家族は迷惑かけて、かけられて。それの繰り返し。それが当たり前。だってそれは家族じゃなくても一緒でしょ? 社会に出てもそう。色々な人に迷惑かけて、かけられて。そういうものでしょ?
ガム     そういうもの…なのかな。
スミレ    とにかく、あんたには好きなことをやっていてほしい。それが一番ガムらしいから。
ガム     ありがとう…。
スミレ    よし。じゃあ、もういいね?
ガム     うん。
スミレ    (せかせか動き出す)
ガム     あのさ。
スミレ    まだなにかあるの?
ガム     入学にあたって色々と書類を出さなければいけなくてさ。
スミレ    ああ、大学の?
ガム     そう。で、姉ちゃんのサインもちょっと必要で…。
スミレ    ああ、そっかそっか。
ガム     いい?
スミレ    書くよ。全然。
ガム     あ、ホント。ありがと。
スミレ    あとでやるからテーブルの上置いておいて。
ガム     家計の状況とか色々まとめて申請しなきゃなんだ。
スミレ    そんなことしなきゃダメなの?
ガム     授業料免除とか取れたらいいじゃん。
スミレ    ああ。
ガム     親の収入がこれくらい以下とかあると、授業料免除とかにひっかかりやすくなるからさ。
スミレ    ああ。
ガム     まあ、そこはあとで詳しく調べておくよ。で、このまえ合格決まったわけじゃん?
スミレ    決まったね! ホントおめでとう。
ガム     ああ、ありがとう…。
スミレ    あれ美味しかった?
ガム     美味しかったー。
スミレ    お祝いだから奮発したんだからね!
ガム     ああ、うん…。
スミレ    凄く脂のってたよね! ぷりぷりプリだったしね。ぷりぷりぷりだった。
ガム     で、三日以内に入学金振り込まなければいけないんだけどさ…。
スミレ    ああ、はいはいはい。
ガム     封書で来てたでしょ?
スミレ    ああ、来てた来てた。
ガム     そのお金は…。
スミレ    え?
ガム     入金してくれるんだよね?
スミレ    するよ? 決まったんだから。
ガム     でもさ大金じゃん?
スミレ    ああ、きにしなくていいよ。
ガム     ウチお金ないんだからさ。そりゃ気にするよ。
スミレ    いや、あんたはお金のことは気にしなくていいの。夢だけ追いかけてなさい! ただ、途中で諦めたらただじゃおかないからね!
ガム     …う、うん。じゃあ、入金してくれるんだね。
スミレ    ていうかもう入金したよ。
ガム     え? お金どうしたの?
スミレ    それはいいでしょ。
ガム     でも……誰かに借りたの?
スミレ    いいから。気にしないで!
ガム     じゃあ、いいか。
スミレ    うん。
ガム     で、入学金はだれがだしてくれたの?
スミレ    だから気にしなくていいから!
ガム     …申し訳ない。

ガム語りだす。美術団体の準備の手伝いをしながら友達と話している。

ガム     あの時の、姉ちゃんの顔は今でも鮮明に思い出せるんだ。ずっと探していた幻の梅干を食べた時のような笑顔。不思議な笑顔。え? この例えわかりずらい? そうかな? 兄弟ってそれくらいわかりずらい関係なのかもね。…え? 今のもよくわからない? パラドックスやな。君兄弟いる? え? 15人兄弟? いや、同じ兄弟あるあるはないと思うよ…想像つかないもの。でも、それだけ家族多いと家計大変だったんじゃない? ウチも貧乏でさ…え? 金持ちなの? 金持ちで大家族……なんか腹立つね…。

スミレ語りだす。

スミレ    別に苦労が好きな訳ではないんですよ。ただ、真面目に頑張って生きてると充実感があるんですよ。その充実感味わっちゃうと、なにかに耐えてないと楽してズルしちゃってる気がして。人生なんて試練ですから。試練を乗り越えて、徳を積んでいれば絶対に幸せは来ます。というか、幸せを期待してはダメなんです。人の為に、利他的に生きるのが私の幸せ。え? 結局幸せ求めてるって? 上げ足は取ってはいけませんと代表が言ってましたよ。話合いますね。良かったらこの数珠買いませんか? 普通は勧誘しないんだけど、あなたには幸せになってほしいって思ったので……。

[頼り いくえとスミレ]
            場所は、ファミレス。

いくえ    (メニューを見るマイム)えーっと、これってドリンクバーつくの? そ、じゃあ、これのセットで。スミレは?
スミレ    これで。
いくえ    ご飯たべてきたの?
スミレ    うん。変な時間に食べたから。
いくえ    じゃあ、以上で。(メニューを返すマイム)
スミレ    ……。
いくえ    なに飲む?
スミレ    私も取りに行くよ。

二人ドリンクバーを取りに行くマイム。
戻ってきて。

いくえ    ……で、話って何?
スミレ    家にずっといると息が苦しくなって来ちゃうからさ。たまには外に出てみようかなって。
いくえ    そうだよ。もっと外の空気吸った方が良いよ。私だったらいつでもつきあうしさ。
スミレ    ありがとう。で、私もたまには愚痴吐いてみようかなって。
いくえ    いいじゃない! そうよ! あんたは一人で抱え込み過ぎなのよ! なんでも話してよ! 私にぶつけちゃっていいからさ。
スミレ    うん。あのね……
いくえ    (被せ気味で)あ! そういえば駅前におしゃれな洋菓子屋ができたの知ってる? 今度行ってみない? なんかヒルナンデスでも特集されたらしいの。
スミレ    へ、へぇ……。
いくえ    で、そのお店に舟木さんとこの奥さんが言ったらしいの。今行列できちゃって全然買えない中買えたことを自慢してくるの。腹立たない? あの人に味なんてわかるわけないのに……あ、べつに嫌いじゃないんだよ。悪い人じゃないし。ただね。なんかね。てゆーか、カッコつけて、第二第四水曜しか開いててないあの店がおかしいのよ。こんな田舎でそんなにオシャレにしてどうするわけ? でもさ、町内の中でも一番流行に敏感なわたしが行かないわけにはいかないじゃない。ね。そう思うでしょ?

スミレ語りだす。

スミレ    そのまま彼女は、数時間マシンガンのように話し続けました。私の話なんか聞かずに……。最後の方はほぼ何の話かわからなくなったいました。

戻る。

いくえ    だから、結局河童は、尻児玉をとるわけ。……あ、もうこんな時間。夕飯の支度しないと。
スミレ    え……。
いくえ    楽しかったね! またいつでも誘って。
スミレ    え、出るの?
いくえ    うん。またね! (出ようとする)
スミレ    あの……あれ……。
いくえ    なに?
スミレ    ほら、電話で話した……。
いくえ    (大きな声で)ああ! お金貸してくれって話ね! 忘れてたわよ! 早く
言ってよ。(財布から取り出すマイム)
スミレ    ごめん。
いくえ    で? いくらだっけ?
スミレ    20万円……。
いくえ    はい(渡すマイム)
スミレ    ありがとう。
いくえ    じゃあね。また連絡してー。

いくえはける。

スミレお金を握りしめるマイムをしながら呆然と立ち尽くす。
次第にゆっくりと俯いていく。

沈黙

            ゆっくりと動き出し、生気のない顔ではける。

[東京での再会 まこととガム]
            場所は、東京のカフェ。

ガム     まことが考えてるよりも深いことを考えてるんだって!
別所     ちょっとまだ理解できてないわ…。
ガム     だから、あの180センチのごっつい水槽あったでしょ?
別所     うーん…ていゆーか水槽しかなかったよ。
ガム     あれは、お湯をばって、そこに墨汁溶いて真っ黒な水を作って、裸になってそのなかにザッパーンって入って、入った人がシュノーケルで息をしてるわけ。
別所     真っ黒な箱からシュノーケルがひょこっと出てたよね。
ガム     エモーショナルだったろ?
別所     …うーん。うーん? うーん。あれはさ、意味あるの?
ガム     そこに何時間もただ居続けるっていうパフォーマンス。
別所     …うーん。うーん? うーん…どういうこと?
ガム     まあまあ、焦んなって! 最後まで聞けば意味わかるから!
別所     ああ、ごめん。続けて。
ガム     数時間するとさ、シュノーケルからのしゅーしゅーっていう息遣いだけが聞こえてくるようになってさ、最終的に呼吸だけの存在になるって言うパフォーマンス。
別所     …シュノーケルは見えてるわけだから、呼吸だけの存在ではないんじゃないかな…?
ガム     (愛想笑い)そういうとり方もあるよな。
別所     うーん。うーん? うーん。うん…あれが、お前のやってる芸術?
ガム     あれは、グループ作品だから全部が俺のやりたいことではないけどね。
別所     そうなんだ…。
ガム     どうだった?
別所     驚いたかな…。
ガム     驚いた?
別所     だってさ、俺はてっきり、絵画とか彫刻をやってると思ってたから。まさか、裸で墨汁に浸かってるとは思わないじゃん…。
ガム     そっか。詳しく話したことなかったものね。俺はああいうパフォーマンスを主にやってるんだ。
別所     パフォーマンス…?

沈黙

別所     でも、おまえの活動見れてよかったよ。
ガム     俺も来てくれて嬉しかったよ。地元の友達とかにFacebookとかで誘いのメッセージ送っても、行きたいって言うだけで誰も来てくれないからな。
別所     まあ、東京は遠いしな。俺も結局全然来れてないからな。大学の卒業制作の時以来か。あの時は普通に絵を描いてたのにな。
ガム     まあなぁ。表現したいことで色々作風は変わっていくものだから。
別所     そういうもんなんだ…ていうか、たまには帰って来いよ。お前上京前はちょくちょく帰るよって言ってたのに、全然帰ってこねーじゃん。
ガム     創作が忙しくてさ……。
別所     もう何年経つ?
ガム     大学卒業して4年は経つから…7年くらいかな。
別所     スミレさんやおばさんには連絡してるのか?
ガム     まあ、たまーにかな。
別所     心配してたぞ。もっと連絡してやれよ。
ガム     したいけど時間がないんだよ!
別所     …そっか。忙しいもんな。

沈黙

別所     …(場を和ませようと明るく)そうだ、彼女はできてないのかよ?
ガム     いるよ。同棲してる。
別所     え? 同棲してるの? え? 相手はどんな子?
ガム     女の子。
別所     そりゃそうだろうけどさ。いくつ?
ガム     俺のニコ上。
別所     どこで知り合ったの?
ガム     元々大学の先輩で。
別所     へぇ、なにしてる人?
ガム     服のブランドのデザイナー的なことしてるよ。
別所     凄いな。じゃあ、結構稼いでるんだ。
ガム     まあ、そうだね。
別所     付き合ってどれくらいなの?
ガム     5年くらいかな。
別所     え、そろそろ結婚とか考えるんじゃないの?
ガム     まあね。でも俺がまだまだ稼げてないしね。
別所     でも、女性的にはそろそろしたと思うよ。
ガム     彼女は、俺の才能買ってくれてるから。もう少し作品に集中してからでいいと思ってくれてると思うんだよね。
別所     そっか。信頼してくれているんだな。
ガム     うん。
別所     どんな子なの? 写メないの? 写メ。
ガム     (携帯見るマイム)これこれ。
別所     気が強そうだな。お前には丁度いいかも…この掲げてるプレートはなに?
ガム     動物実験撲滅の活動家してるんだ。
別所     え? はあ?
ガム     公演でデートしようって言われてついていったら、撲滅パネル展みたいな集会で、強制的に参加させられて時の写真。
別所     え? なにそれどんな活動してるの?
ガム     ベジタリアン。
別所     ああ、肉とか食べちゃ駄目なんだ…。
ガム     そう。
別所     …世の中の為の活動だもんな。いいんじゃない。
ガム     まあね。
別所     でも、なにがきっかけでその活動をしようと思ったんだろうな。
ガム     なんか…

アイコ登場 ガムの回想。ガムに語っている。

アイコ    その日は友達とカラオケに行く予定で。で、みんなでカラオケに向かう途中に道路で猫が車に轢かれて死にかけているのを友達がみつけて、で、それを私は必死で介護したわけ。だってそりゃそうでしょ? 目の前で人が死にかけてたら助けるでしょ? それと一緒よ。で、血まみれになりながら動物病院に連れて行ったの。そしたら、他の友達は血まみれなことにドン引きして、私のこと無視してそのままカラオケに行ったの。その時私は思った。世界は偽善で溢れてるって。いつもは善意の塊みたいな笑顔して、猫カフェとか行くくせに。リアルな面を見たら見て見ぬふり。テレビとかメディアだってそうじゃない。綺麗な部分しか見せない。だったら、私が裏と表を繋げて現実見せてやらないとって思ったの。

ガム     ていうのがきっかけらしいよ。
別所     それ聞いてお前はどう思ったの?
ガム     ……まあな。
別所     まあなって…。
ガム     目薬って、ウサギの目で実験するんだって。人の目に入れても大丈夫かどうか。他にも化粧品とか飲み薬も動物で実験するんだよ。だから、彼女は薬品系はなにも使わないんだ。で、去年彼女の母親が倒れたんだけどさ、薬を投与するべきかどうか悩んでたからそこは投与するべきでしょ!ってツッコミたかったよ。
別所     突っ込まなかっつたのかよ?
ガム     まあ、善意でいってることだしさ。
別所     はあ? でもそれで身近な人守れなかったら本末転倒だろ?
ガム     まあな。
別所     で、お母さんどうなったんだよ?
ガム     薬使ったけど結局処置が遅くて亡くなった。
別所     最悪の結末じゃねぇか! 二頭追うものは一頭も得ず! おまえは、その彼女の考えを理解してるのか?
ガム     細かいとこまでは共感できないけど、見て見ぬ振りするなってって精神はなんか共感できるかな。俺は、甘やかされて育ったからさ。全て見て見ぬふりしてきたわけ。だから、彼女によく怒られるよ。

アイコ    シャンプーなくなってたら詰め替えしろよ! 誰かがやってくれるだろって考えやめろ! 道のゴミだって誰かが拾ってくれてるんだよ。その誰かは特別な人じゃないの。あんたがやることになる可能性だってあるの。わかる? ほら、昔話とかって必ず人間以外の他から来た凄い存在が悪者をたおすじゃない? 例えば桃太郎とか、神話とかでもそう。あれって、人間の他力本願が丸出しになってるわけ。臭い物には蓋をして、いつか誰かがやってくれるだろうって。そんなことしてたらすべて自分に帰ってくるぞ! 人間ども!
ガム     って。
別所     人間全体に説教してる…。
ガム     確かに自分は甘えてるなって思うよ。
別所     …そんなことないよ。おまえは頑張ってるよ。
ガム     …そうかな。
別所     でも、ウチのじいちゃんが昔養豚場やってたの知ったら大変だな。
ガム     きっと殺されるよ。
別所     動物守ってるのに人を殺すって変だな。

沈黙

別所     ……そろそろ行くわ。今度彼女会わしてくれよ。
ガム     ……ああ。
別所     なにか困ったことあったらいつでも連絡して来いよ。俺達血が繋がってるんだから。遠慮すんなよ。
ガム     ……。
別所     な。
ガム     ……あ、ああ。

ガム語りだす。

ガム     全く話すことなかったよ。いとこなんてそんなもんじゃやない? 別に友達でもないし。兄弟なわけでもないしさ。それに、まこととはなんかもっと、
歪なもので繋がっている関係な感じがするんだ。え? ああ、なんとなくね。
きっとあいつは、あの日のことを今でも気にしてるんだよ……。

[あの日]
            場所は、夜の海岸。

せいじ    やめろって!
ガム     ホントなんだよ! 人魂を見たんだ! 青白くて浮かんでた!
せいじ    怖いからやめろ!(ビビている)
別所     嘘ついてんじゃねぇよ! 
ガム     どうして嘘だと思うんだよ!
別所     お前みたいな暗いやつの言うことなんて信じるかよ。
ガム     なんだと?
別所     お、いっちょ前に怒ったのか? じゃあ、確かめに戻るか?
せいじ    やめろ! きっとお化け穴の呪いだ! もう帰るぞ。

帰ろうとするが、後ろからガムが叫びながら別所にタックルする。
別所、投げ飛ばす。ガム舞台から(海へ)落ちる。

別所     それから、いとこは片足が動かなくなっちゃってさ。波が強くて。テトラポットに激突。あばらとかも折れたって言ってたかな? あんまり詳しく覚えてないや。小学校のはなしだしね。それに、忘れたいんだろうね。そりゃそうでしょ。俺のせいなんだから。あの日から、俺があいつにやってやれることはことはしてやろうって。え? 人生背負うとか大袈裟なことじゃねぇよ。大将の払ってる養育費と一緒にすんなよ。それってさ、銀行に振り込む時どうしてんの? だって相手フィリピンでしょ? え? 蒲田って東京でしょ? そうなんだ。今日本にいるんだ。まあね、大将も子供の将来とか考えて送ってるんだもんな。思いやりと罪悪感。
確かに大将の養育費と俺の気持ち少し似てるのかもね。

入れ替わりでガムとアイコ登場。

[連絡 ガムとアイコ]
            場所は、東京のガムとアイコの部屋。

ガム     (電話をしているマイム)うん……わかった。直ぐに向かう。(電話を切る
マイム)
アイコ    誰? お姉さん?
ガム     うん。支度して行かないと。
アイコ    ちょっと! なにがあったの?
ガム     母さんが死んだ。
アイコ    え?
ガム     とにかく荷物まとめて。すぐ出るよ。

アイコ語り。美容室。

アイコ    その時の彼氏は、凄く冷静で。淡々と準備をしてて。いつもなよなよしてる
から驚いちゃって。行く新幹線の中じゃ無言だったな。だってかける言葉ないじゃない。その後聞いた話によると、お母さんは、脳の血管が切れて、脳内にあふれた血が脳細胞を圧迫し、人間の大切な機能が停止していき、息を引き取ったらしいの。いままでかかっていた病気とは全く関係ないことで死んでいったんだって…。
で、お母さんが倒れて苦しんでいる頃、私たちは自宅で、借りてきたDVDをみてたの。休日だったから、赤ワインとチーズと高い生ハムを買ってきてプチパーティーしてて、生ハムっていってもあの、コンビニで売ってる鮭トバみたいな色した生ハムじゃないからね。もっとからっとした肉肉しい感じのやつ。あれにチーズ巻いて口に含み赤ワインを流し込むわけ。彼氏は酒が飲めないからジンジャエールの辛口をうなりながら飲んでいて。テレビには借りてきたゴッドタンのマジ歌選手権が映ってて…そうそう、あ
れ面白いよね!…て、話のこしおってんじゃやねーよ! 気が付けばいい雰囲気になり、キスをして、セックスがおっぱじまろうとしたところで彼氏の携帯がなったわけ。はあ、セックスぐらい言ってもいいだろ。他の客だってみんなしてるんだから。そういう、汚い部分を隠そうとするのが私は大っ嫌いなんだよ。人間なんてみんな汚いだろ。たく。ていうかセックスは汚くないわ! 生命をやどらそうとしとんじゃ。え? お母さんの生命が亡くなった時に新しい命を宿らそうとしていた?……美化すんな! こちとら、ただ贅沢してただけじゃい! て、おい! パーマあてすぎだろ! 

アイコはける。

まこと・せいじ登場。
[葬式]
葬式の準備をしながら話す。

せいじ    全焼しちゃったんだってさ。
別所     なんで燃やしちゃったの?
せいじ    花火をやったことがない友達がいたから見せてあげたかったんだって。
別所     新聞紙で?
せいじ    前日に家族で花火しててそれを思い出したらしいよ。ほら、手持ちのやつっ
て紙巻いただけに見えるじゃん。
別所     まあ、子供だったらそう見えなくもないか。あ、前スミレ姉ちゃんが言って
たおばさんのせいで本家が無くなったってこのことか。
せいじ    その家が残ってたらなぁ。
別所     かなり広かったんだ。
せいじ    平屋だったけど、相当な広さだったらしいよ。知らないけど。写真も残って
ないし。
別所     金持ちだったんだな。
せいじ    今の家の前に大きな通りあるだろ?
別所     ああ、大きな道路あるね。
せいじ    あそこらへんは全部斉藤家の物だったらしいかな。
別所     え、そうなの?
せいじ    まあ、今は人の土地だけどな。
別所     売っちゃったわけ?
せいじ    市が道路作りたいって言ってきたから、じいちゃんが町の為になるならっ
て言ってただであげちゃったんだって。
別所     ただで?
せいじ    でも結局今では、市から安く買い取った人の土地になっちゃってるってわ
け。
別所     じいちゃん優しい人だったんだな……。
せいじ    優しい? それで喜んだ人がいるかもしれないけど、そのおかげで貧乏な
暮らしをしている子孫にたいしては優しいのかな? 目に見えない人が良
い思いをして、目の前にいる人たちが幸せじゃない状況ってどうなんだ
ろ?
別所     そんなこといいだしたらきりがないよ。葬式でこんな話やめよ。
せいじ    …。
別所     せいじ兄ちゃんお焼香済んだの?
せいじ    ああ。
別所     でも、随分と少人数の式だね。
せいじ    みんな親戚の縁切ってるしな。俺だって今日来るか迷ったけどよ、いくえが
スミレのこと心配だって言うから来たんだよ。
別所     ウチの親父たちも来てないよ。
せいじ    自業自得だろ。家族のことを放っておいて一人だけ自由に生きたんだから
よ。それに親戚が減ったのもおばさんのせいだ。本家が燃えちまったら、集まる場所がねぇからな。
別所     俺は、小さい頃良くしてもらったから何とも言えないけど…。
せいじ    だから、みんなに良い顔すんな! お前の親だって迷惑かけられてんだぞ。
ガムとスミレの養育費が足りなくて闇金に手を出してよ。結局払えなくてしりぬぐいしたのはお前んとこの親父さんだからな。お前は自分の家族とすこし優しくしてくれたおばさんどっちとるんだよ? 少し優しくしてくれたおばさんはとらねぇよな。俺だったら、少し優しくしてくれたおばさんはとらねぇもん。すこやさおばさんはとらねえ。
別所     気に入った呼び方みつけてんじゃねぇよ。

スミレ登場。

別所     スミレさん。
せいじ    …。

スミレ奥へ。

せいじ    まあ、スミレは気の毒だな……。
別所     ……。

いくえ、ガム、アイコ登場。

いくえ    駅誰もいなかったでしょ。みんな車でしか移動しないからねぇ。どこも同じ風景だし。街灯も少ないから真っ暗だしね。さ、ここ、ここ。どうぞ。
アイコ    どうも。
ガム     いくえさんありがと。
いくえ    いいのいいの。迎えに行くぐらい。ほら、入って入って。

三人靴を脱いで舞台上に。

スミレ    …おかえり。
ガム     ひさしぶり。
スミレ    はじめまして。
アイコ    はじめまして。アイコです。
いくえ    アイコさんはね、ガム君の彼女さん!
スミレ    知ってる。電話で聞いた。とりあえず顔見てあげて。

スミレ奥へ。ついていく二人。
いくえは居間へ。

いくえ    全く二人とも免許もってないってどういうこと。
せいじ    おつかれさん。お前は優しいな。
いくえ    見た?
せいじ    え?
いくえ    彼女よ。彼女。
せいじ    ああ、ちらっと。
いくえ    なんかきつそうな子ね。悪い子ではなさそうだけどさ。もっと礼儀がね。ま
あ、私はあまりそういうの気にしないけど、そのうち誰かに怒られたら可哀想ね。
せいじ    まあ、礼儀は大事だな。ウチのブラジルの子でさえできるからな。
別所     はじめて彼氏の実家に来たわけだから緊張してるんじゃないの?

ガム     姉ちゃんごめんね。
スミレ    なに謝ってるの? 忙しい中こうやって来てくれたじゃない。母さんも喜
んでるよ。
ガム     なにか手伝うことある?
スミレ    大丈夫だよ。久々の実家なんだからゆっくりして。あっちの部屋にせいじ君とまこと君いるよ。
ガム     …うん。
 
不満げに睨んでいるアイコ。
居間に移動する。

せいじ    …。
別所     よう。
ガム     ひさしぶり。
せいじ    こんな時しか帰って来ねぇんだな。
ガム     …ごめん。
別所     ガムもむこうで忙しいんだよ。仕方ないだろ。
せいじ    にしても、葬式の喪主は長男がするのが道理だろ。スミレに甘えすぎなんじゃねぇか。
ガム     ……。
別所     ガムは今大切な時でさ…忙しいんだよ。
せいじ    知らねえぇよ! 東京で夢追いかけてるのがそんなに偉いのかよ! こっちはこっちで時間が流れてんだよ! お前が忘れてむこうで生活してる間もな生きてるんだよ! バカにしてんだろ? 田舎でせかせか働いてる俺達のことバカにしてんだろ! なあ? なんとか言えよ!
ガム     ……。
別所     落ち着いて! ガムだって今辛いんだからさ。今言わなくたっていいじゃん。母親が死んだばかりなんだよ?
せいじ    ……。
ガム     …ごめん。
せいじ    ……夢見てる間も現実世界は動いてんだよ。

沈黙

せいじ    …煙草でも吸いに行くか?
ガム     いや俺吸わないから。
せいじ    いいからいいから。

せいじガム はける。

沈黙

いくえ    あなた、ほらガム君の彼女さん。彼は、ガム君のお母さんのお兄さんの息子にあたるわ。
せいじ    …。
いくえ    あれ? まこと君とガム君は?
せいじ    …。

沈黙

いくえ    あ、そういえば美味しいオハギ買ってきたのよ。ちょっと待っててね。スミレおはぎどこだっけ?
スミレ    こっち。

いくえすみれ奥に。

沈黙

せいじ    あいつと結婚するのか?
アイコ    関係ないでしょ。
せいじ    はあ? なんだその言い方。
アイコ    だって親戚の縁切ってるんですよね?
せいじ    まあ、親はそう言ってるけど、ガムは幼馴染でもあるから、心配ではあるんだよ。
アイコ    じゃあ、結婚資金カンパしてくれるんですか?
せいじ    なんで俺があいつに!
アイコ    言ってること矛盾してるじゃないですか。
せいじ    別に矛盾はしてねぇだろ!
アイコ    心配してるなら説教垂れてるだけじゃなくてなにか具体的に力になってあげたらどうですか?
せいじ    うるせーな! 理屈じゃねーんだよ! 血で繋がってるんだから!
アイコ    そんな大切なつながりなのに縁切っちゃったんですか?
せいじ    知らねーよ! 親同士の問題なんだからよ!

笑顔でおはぎを持ってくるいくえ。

いくえ    はーい。おはぎ…どうしたの!?
スミレ    やめて。どうしたの?
せいじ    こいつが失礼だからよぉ……。
アイコ    ちゃんと敬語で話してましたけど。
せいじ    そこじゃねぇだろ!
いくえ    まあまあ。落ち着いて。おはぎ食べましょ。
アイコ    ……。
せいじ    (食べる)お! うめーなあ。
いくえ    でしょ? 美味しいのよここの。
せいじ    おまえが見つけてくるものってホントハズレがないよな。
いくえ    そんなに褒めてもないも出ないぞ! ははっ。ほらアイコちゃんも食べて。遠慮しないでね。
アイコ    いりません。
いくえ    え? どうして?
アイコ    嫌いなんで。
いくえ    え? そうだったの? ごめんなさいね。
アイコ    昔、一度美味しいと言ったら毎回毎回おばあちゃんにおはぎをたくさん出されたことがあって。それいらいトラウマで嫌いになってしまったんです。
いくえ    おばあちゃん親切でやってたのに裏目に出ちゃったんだね。そういうことってあるよね。悪気わないのにってやつ。可哀想ね。
アイコ    私は、相手が嫌な思いしたら、そこには悪気しか残らないと思いますけど。
いくえ    …まあ、そういう考え方もあるよねー。
せいじ    (舌打ち)
いくえ    でも東京から急遽大変だったでしょ? どうこの町の印象は? 海も近いし良いところなんだけど工場が多くて驚いたでしょ?
アイコ    くさい。
いくえ    そうね。紙の工場が多いから、パルプの臭いがくさいのよね。住んでる分にはわからないんだけど。外から来た人には凄くきついみたい。肥溜めみたいな臭いがするなんてよく言われる。
アイコ    ……。
せいじ    はっきり言いやがるな! 普通お世辞とか使うだろ! なんだこいつ!
アイコ    私、思ったこと言わないといられない性格なんで。
いくえ    まあ、いいじゃない。裏がないってことだものね。
せいじ    よくねぇだろ! 私人見かけたら刺し殺さないといられないたちなんでって言われても納得すんのか? え?
いくえ    ちょっと話が飛躍しすぎよ。ごめんなさいね。
せいじ    (舌打ち)
アイコ    …。

沈黙

いくえ    スミレちゃん大変だったわね。今まで。
スミレ    ううん。全然。最後までお母さんと一緒にいられて幸せだった。
いくえ    ホントえらいね。でもさ、今日からは羽伸ばせるんだね。これからは自分の為の人生にするんだよ。
スミレ    まだ、先のことはなにも考えられないけどね。
いくえ    そうだよね。考えられないよね。うんうん。わかるわかる。わかるぞ~すみれ~。いつでもあたしたち夫婦のこと頼ってね。
スミレ    うん。
アイコ    本当に、幸せだったんですか?
スミレ    幸せだったよ。
アイコ    ……。
いくえ    アイコはそこが凄いよね。どんな逆境でも幸せだと言える芯の強さ。うらやましいなあ。
スミレ    普通だよ。普通。
せいじ    でも、まだ少し借金残ってるんだろ?
スミレ    まあ。これからは働けるし。
いくえ    保険とかには入ってなかったの?
スミレ    毎月払うのきつくて解約しちゃった。
いくえ    そっか…じゃあお金は入らないんだ。
せいじ    ガムをこっちに連れ戻して、普通に働かせて金入れさせればいいんだよ。頭下げりゃあ、ウチで働かせてやるからよ。
スミレ    大丈夫。ガムには自分の夢を追いかけて欲しいから。
せいじ    未だに金稼げてないんだろ? あいつは自分一人で生きてると思ってやがるんだ。家族あってのアイツだろ。
いくえ    そうね。ガム君も長男の責任を感じた方がいいかもね。
スミレ    ホントに私は大丈夫。毎日楽しいし。
いくえ    しんどくなったらいつでも言ってね。話聞くから。ホント可哀想なスミレ。
スミレ    人生はしんどいのが当たり前。でも、努力すればそれさえも幸せに感じられるの。
いくえ    ホント尊敬するわ。私もスミレくらい強かったらなぁ。

スミレ    みんなお腹減ったでしょ? 私何か作るね。
いくえ    いいよ。色々準備で寝てないんでしょ? 私がやるよ。休んでて。
スミレ    大丈夫。動いてないと落ち着かないから。
いくえ    そう? じゃあ甘えちゃうけど。
スミレ    うん。待ってて。あ、アイコさんは嫌いなものある?
アイコ    この空間。
スミレ    え?
アイコ    なんか気持ち悪いんだよなぁ。
いくえ    え? どういうこと?
アイコ    くさい。
いくえ    だから、この町は仕方ないのよ。
アイコ    こういう偽善くさい会話、聞いてて堪えられないんですよ。ほら、鳥肌。
せいじ    はぁ? どこが偽善臭いって言うんだよ! 真剣に助け合ってんだろうが!
いくえ    まあまあ、落ち着いて。
アイコ    お姉さんのことガムに話は聞いてるんですが、聞けば聞くほど胡散臭いんですよね。
スミレ    ガムがなんて?
アイコ    我慢強くて人間ができてる仏みたいな人だって。
スミレ    言いすぎだよ。
アイコ    私もそう思います。そんな人間存在するわけありません。
せいじ    おまえよくそこまで言えるな! 君ホントやばいよ!
アイコ    自分がヤバいことはわかっています。でも、私はスーパーサイヤ人の状態で理性を保てるようになった梧空たちくらいにヤバさを使いこなしているのでご安心を。
せいじ    安心できるか! なにいってるのかさっぱりだぞ!
アイコ    お姉さんは、こいつらウザいなとか腹立つなとかないんですか?
スミレ    ないかな。みんな好きだよ。
アイコ    嘘でしょ? この夫婦の感じとかめちゃくちゃ腹立つけどな。私初対面だけどこの夫婦嫌いですよ。
せいじ    マジか!? もうマジかしか言葉が出てこねぇや!
いくえ    アイコちゃん、さすがに言いすぎじゃない? あなたにそんな言われ方される筋合いはないわ!
アイコ    お姉さんのこと見下してるの見え見えなんですよね。
いくえ    見下してなんかいないわよ! 心配してるの!
アイコ    心配するふりして、自分の方が綺麗でお金持ちって優越感に浸ってるんでしょ?
いくえ    そんな…ことはないわよ!
アイコ    じゃなきゃ、あんな頻繁に可哀想可哀想なんて人に言わないと思いますよ。
いくえ    ……。
せいじ    善意で言ってんだろ? 共感だよ共感! それのなにが悪いってんだよ!
アイコ    善人ぶってる人ってさ、自分に自信があるからウザいんだよね。善意を盾にして全部肯定しようとしてくる。
せいじ    悪いことしてるわけじゃないんだからいいだろ!
アイコ    自分のエゴで人に期待させるのって酷だと思うんですよ。
せいじ    どういうことだよ?
アイコ    まかせとけとか、辛い時は助けるって言われたら、期待しちゃうでしょ? 期待したのになにもしてくれなかった時ほど辛いものはないんですよ。
せいじ    言ったときは善意があんだからいいだろ! 変に期待するやつが悪いんだよ!
いくえ    あなたどうしたいわけ? 人の家の葬式で…なにがしたいの?
アイコ    お姉さん見てたら気持ち悪くて。でも、良い人で頑張ってるからって言う理由で他人に悪いところを指摘されないんだろうなって思ったら、私が言ってやらなくちゃって思ったんですよ。きっと私はそういう病気なんです。
せいじ    病気って…。
いくえ    百歩譲って私たちに対しての嫌悪感はわかったわ。でも、スミレのどこが気持ち悪いっていうの?
アイコ    話をまとめてるふりして、お姉さんもボロクソに言われるように誘導する…相当なテクニックですね。
いくえ    考えすぎよ!
アイコ    悲劇のヒロインみたいな自分が大好きなナルシストにしか見えないんですよ。
いくえ    そんなことはないわよ! スミレは他人にも優しいもの!
せいじ    そうだ! あんなダメな弟にも優しくしてる!
アイコ    そこが問題なんですよ。あなた達が甘やかすから、何かのせいにして生きる甘ったれに育ったんじゃないですか? 一緒に住んでる私が困ってるんです。あなた達の変な優しさのしわ寄せが私に来てるんです。
せいじ    それは、ガムの性格の問題だろ!
アイコ    本質を解決せずに救いの手ばかり差し伸べるから甘え癖が付いたんですよ。
せいじ    知らねえぇよ! そこまで考えて行動できないだろ!
アイコ    最後までケツを拭く気で行動できないなら善意とは呼べません。
いくえ    まあまあ、スミレは今そういう精神状態じゃないから…。
アイコ    さっきのはあなたが促したんでしょ。
いくえ    まあまあ。
せいじ    スミレ、これだけ言われて悔しくねぇのか? 言い返してやれよ!

沈黙

いくえ    …スミレ?
スミレ    ……すべての魂は、自らを高め、いつか神と同化することを願っています。
せいじ    は?
いくえ    なに言ってるの?
アイコ    なにか宗教に入っるんじゃないですか?
スミレ    いつか濁りを取り払い、光に溶け込むことが我々の使命なんです。
せいじ    おいおい、マジかよ。
スミレ    しかし、現世では、平和は善人の間には生まれません。平和には悪意が必要なんです。
せいじ    マジかよ。
いくえ    スミレ? どうしたの?
スミレ    代表はそうおっしゃっていたけど
せいじ    代表って!
アイコ    代表良いこと言いますね。
スミレ    私は悪意なんていらないと思ってた。愚痴や悪口も吐き出してみようとしたけど、それもなんかしっくりこなくて…というかなんか本心言うと目の前の世界が崩れてしまいそうで怖くて。
いくえ    悪口はよくないけど、愚痴は悪意じゃないわよ! 全部吐き出しちゃお!
アイコ    いいですね~! 全部言っちゃいましょう!
せいじ    うるせぇ! てめーは黙ってろ!
スミレ    私ね…あんたたちのこと嫌いだわ。

全員唖然とする。

せいじ    はあ?
アイコ    おお! いいですね! いけいけー!
いくえ    スミレ? なに言ってるの? 大丈夫…?
スミレ    大丈夫?って聞くの何なの? 大丈夫じゃない人に大丈夫って聞くのおか
しくない? 本気で心配してるならそんな質問する前になんとかしてよ。 
いくえ    なにその言い方! 話し相手になってあげていたじゃない!
アイコ    あげたじゃないって(笑う)
スミレ    自分の自慢話と悪口を一方的にするのが話し相手なの?
いくえ    それは…
スミレ    私ね、あんたのストレス発散に付き合う暇ないの。それと、悪口嫌いだから
やめて。 
いくえ    悪口なんて言ってないでしょ!
スミレ    変な言霊が身体にまとわりつくの。毎回こうやって払ってるの気が付かな
かった?(高見盛の動きする)
せいじ    高見盛…。
いくえ    嫌なら来るの断ればよかったじゃない!
スミレ    そんな単純なことじゃなくてさ。私だって日によっては話したい時もある
の。幸せかどうかだってそう。幸せな日も辛い日もあるの。どうせ毎日辛いんでしょ? みたいなテンションで言ってくるのやめてくれる? これが私の普通なの! みんなの人生だって辛いことあるでしょ? それと一緒なの!
せいじ    気持ちはわかるけどよ。いくえはお前のこと心配してたんだかからさ…
スミレ    心配するならまずは病気の母さんにでしょ! 介護なんて病気の母さんに
比べたら全然だったわよ! いや、母さんだってなにかしら幸せ感じてたかも。当人次第なんだよ。だから、勝手に不幸キャラにされると生きずらいわけ!
いくえ    ごめん…。
スミレ    今日だって、誰か母さんの為に泣いてくれた? 形だけならこなくていい
から! 母さんだって自分の葬式で悪口言われるくらいなら誰も来て欲しくないと思う!
せいじ    すまない…。
アイコ    なに謝っちゃってるわけ?
せいじ    俺達が間違ってたんだ! そりゃ謝るだろ!
アイコ    全部は悪いとは思ってませんよね? なにかまだ言い分はありますよね?   だとしたら根本的な解決になりませんよ。この場を丸く収めようとしてるだけですよね? あとで悪口言うんでしょ? 少しでも理解できないのなら自分の意見言わないと!
スミレ    アイコちゃん。
アイコ    なんですか?
スミレ    あなたのおかげで腹割って話せてよかった。ありがとう。
アイコ    いや、私はべつに思ったこと言っただけなんで。
スミレ    とか言うと思った?
アイコ    え?
スミレ    あんたさっきからなんなの? 思ったこと言うのが正義? そんなわけないでしょ。言わなくてもいいことも世の中にはあるの。 
いくえ    そうよ! あんた言いすぎよ!
アイコ    はあ? 言わなきゃ伝わらないでしょ! 口ついてんだから使えよ! 私
は本心で話せる場を作ってあげたいだけ!
スミレ    それが善意だと思ってるなら大間違い。自分のポリシー押し付けてるだけ。
あなたが善意の奥を無理やり掘り起こすからややこしくなるの!
アイコ    はあ? じゃあ、今おねえさんが本心ぶつけてるのはいいんですか? 私
とかわらないでしょ!
スミレ    私はみんなのこと好きだから悪意ぶつけてる。あなたは楽しんでるだけ。
アイコ    さっき嫌いって言ったでしょ!
スミレ    だから、自分の価値観で決めつけるのやめなさい! 嫌いにも種類がある
の! 斜めから見るのやめなよ。こんな関係でも言葉じゃ伝えられないキヅナがあるの。だから言わなくていいことだってあると思う。
アイコ    そんなの気持ち悪くないですか? 私は気持ち悪い。だから言う。
スミレ    知らん知らん! おまえの気持ちとか知らん! 自分の気分でミサイル撃ちまくるな! このテポドン女! 
アイコ    自分の意見言っちゃいけないってことですか?
スミレ    知らん。自分で考えろ。
アイコ    ずるくない? 議論にならないでしょ!
いくえ    誰も、議論するなんて一言も言ってないじゃない。今葬式中だよ。スミレは
お母さんが亡くなったばかりなんだよ? ホント自分のことしか考えてないのね。
アイコ    うるせーデカい女だな!
いくえ    なんですって!
せいじ    シンプルに口悪いな!
アイコ    私は間違ってない!
スミレ    私は、みんなに良い人だと思われたい。凄いねとか偉いねとか言われたい。
アイコ    はあ?
スミレ    人の奥底ばかり掘り起こしてないで、自分の本心をちゃんと見た方が良い
と思うよ。結局、地獄への道は善意で舗装されているんだから。
アイコ    私は、本心でしか話してないから!
スミレ    人間は悪意のある自分を認めた時に初めて謙虚になり、相手を認め、優しく
なれるのです。善意でしたことでも、常に心のどこかで自分の徳になることを軸に動いています。でもそれは、それぞれ自分のココロと他人に誠実に生きているだけなのです。だからは、人間を哀れだとも思うし愛おしいとも思います。

一同不思議そうな顔

スミレ    代表のお言葉。
アイコ    また宗教かよ!
スミレ    宗教だろうがなんだろうが大切なのは中身でしょ? 私はこの言葉に今やっと共感できた気がする。
いくえ    なんか今の凄く共感した。
せいじ    俺もなんかぐっと来たな。

沈黙

アイコ    なに? なになに? なんで私が悪者みたいな雰囲気になってるわけ?

みんな気を使い合い謝ったり宥めたりと話し出す。
その異様な光景を見て

アイコ    なんなの…良かれと思って…親戚同士仲良くなれたらなって…。
いくえ    まあまあ、良かれと思って言ったんだったら…もういいんじゃない?
せいじ    そうだな。
アイコ    …。

沈黙

スミレ    料理持ってくるね。

スミレ料理しに行く。

沈黙

いくえスミレのところへ。

いくえ    手伝うよ。
スミレ    ありがとう。

※徐々に台詞が被りながら自然に会話が続いていく。また善意の薄い膜で覆われていくように。
沈黙

せいじ    あいつとはどこで知り合ったんだい?
アイコ    …。
せいじ    あいつを養ってくれているらしいな。
アイコ    …。
せいじ    ありがとうな。
アイコ    …。
せいじ    なにか困ったことがあったらいつでも言えよ。あんたももう親戚みたいなもんなんだから。
いくえ    御馳走だよ~。(料理もってくる)

気を使いながら仲良さげに話す。アイコだけ放心状態。苦笑い。

空間が偽善で埋め尽くされていく中徐々暗転。



全員はける。

【エピローグ】
別所、ガム 登場。
場所は夜の海岸の洞穴。

ガム     懐かしいな…。
別所     ああ…。

沈黙

ガム     そろそろ戻った方がいいんじゃないか?
別所     …泣かないんだな。
ガム     …ああ。まだ実感わかないな。明日くらいにどっと来るんだろうな。
別所     そっか。そうだよな。
ガム     少しほっとしてる自分もいるんだよな。そんな自分が悪い人間に思えるから、なんとか涙流そうとしてたんだけど。無理だった。こういう時にあくびの力借りるのも違うだろ?
別所     …まあな。
ガム     非常な人間だと思ったか?
別所     …いや。そんなこと思わないよ。
ガム     悲しむ時はさ、相手が幸せそうに死んだかどうかなんて関係ないんだよな。
失って寂しいから泣くんだ。結局自分のことしか考えてないんだよ。
別所     …。
ガム     そんなこと冷静に考えちゃっている自分も嫌になる。

沈黙

ガム     なんでここに連れてきたんだよ?
別所     …あれ以来来てないなって思ってさ。
ガム     …そろそろマジで戻らないと。姉ちゃんに任せっきりじゃまたせいじ兄ちゃんに怒られる。

※帰ろうとするガム。

別所     ごめんな。
ガム     え?
別所     実は、あの日のことずっと謝りたくてさ。
ガム     こんな時に…。
別所     なんかさっき、ふと今しかないんじゃないかって思って。おまえ次いつ帰ってくるのか分からないしさ。
ガム     ……。
別所     一度も謝れてなかっただろ…。

沈黙

別所     …言えてスッキリしたよ。あれからずっと引っかかっていたから。…さ、戻
ろうか。聞いてくれてありがとな。

※別所帰ろうと歩き出しガムに背を向ける。
ガム別所にタックルをする。驚く別所。

別所     なんだよ?
ガム     投げ飛ばせよ!
別所     …どうしたんだよ?
ガム     あの時みたいに投げ飛ばせって!
別所     …。
ガム     なんで投げ飛ばさねえんだよ! なんでだよ! そうやってずっと気を使い続けるのか? 俺の足に気使ってるんだろ? 足見ろよ! 変な風に曲がってんだろ? 気持ち悪いだろ? なあ? なんとか言えよ! 
別所     …ごめん。
ガム     なんで謝るんだよ! 謝罪しろとか俺の痛みを理解しろとかそういうこと
じゃないんだよ!…ただ…たださ…全部理解してるみたいな…全部受け入れてるみたいな顔すんなよ! 俺の為に生きてるみたいな雰囲気が気持ち悪いんだよ! できないだろ? 俺の為に生きるなんてできないだろ! 普通できないよ! できなくていいのによー! できないこと言うなよ! 反省してるみたいな顔がいちいちむかつくんだよ! …普通でいてくれよ…普通でいて欲しいんだよ。俺の人生は俺しか責任持てないんだからさ。普通でいてくれないと俺が変みたいだろ…。
別所     …。

※思いっきり投げ飛ばす。

ガム     え? え?
別所     うるせーんだよ! なんだてめぇ! 応援してやってたろ? 東京までわざわざ観に行ってやったよな? 金貸もかしてやったよな? それだけしてくれた恩人になに文句垂れてんだよ!
ガム     いや、あの…。
別所     気使うだろ? 普通にみてて引くし! あー腹立つわ! 人の善意に甘え
まくって、最終的に暴言はくって、マジ頭おかしいじゃん! うわーボコしてぇー!
ガム     ごめん…ごめん…痛いのはやめようよ。
別所     気使わずに投げ飛ばせって言ってたよな? もう一回同じ目にあわせてや
ろうか? ああ?
ガム     まあ、落ち着こう。な?
別所     おまえ作品に障害使いたくないとか言ってたよな? 障害持ってない芸術家に失礼だろ!
ガム     え? どういうこと?
別所     障害使った方が評価されやすい傾向にあるんだろ? だったら有利じゃん。
障害ない人からしたら勿体なくて仕方ないよ。きっと。
ガム     その発言はひどいよ! 怒られるよ!
別所     普通に接してほしいんだろ? だったら言いたいこと言うよ!
ガム     ぐっ!
別所     …。
ガム     …。

沈黙 息遣いだけが空間に響く

別所     …ごめん。言い過ぎたわ。
ガム     俺こそごめん。ホントに気にしなくていいから。俺にはこれが普通だからさ。
別所     なんかこういうのってさ、言いたいこと言いあえてすっきりしたとか言う
けどさ…そんなことねぇな。本心言うのって気まずいな。
ガム     そうだね…マジビビったもん。殺されるかと思った。
別所     人気のない洞穴で完全犯罪してやろうかと思ったよ。
ガム     マジ勘弁してくれよ。

※自然と二人笑う。
※海面が光りだす

ガム     あ…
別所     お…
ガム     ほら! 人魂だよ! な! ホントだろ!
別所     これは、夜行虫だよ。
ガム     夜光虫?
別所     おまえホントバカだな。
ガム     ……でも綺麗だな。
別所     そうか? よく見たら気持ち悪いけどな。
ガム     確かに…気持ち悪いな。

ゆっくりと徐々暗転。

                 終幕


撮影:藤澤孝代

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?