見出し画像

インド瞑想記3:ドミトリー狂騒、いびきと咳。

 会場となった「カンハ・シャンティ・ヴァナム」は、平和の森という意味を持つ広大な瞑想施設だ。中央に5万人が収容できる大ホールと、その周囲に5千人用の中ホールがいくつか、さらにその周辺には数百人規模の集会場がいくつもある。ホテルや学校、アーユルヴェーダクリニックにスーパー、食堂にランドリーサービスなども併設され、ドミトリーもあちこちにあるようなのだが、いかんせん着いたばかりで地図が頭に入っていない。「どれがドミトリー?」と聞いてまわりながら、空いているベッドを探して右往左往。かつて宿泊したヨーロッパのドミトリーは、ひと部屋がせいぜい8床か16床だったが、2段ベッドがぎっしり詰まった80床ほどある部屋が何部屋もあって、圧倒される。

 おたおたしていたら、瞑想仲間が日本人グループのいる部屋にひとつだけ空きベッドを見つけてくれた。共用トイレは洋式ながら、ハンドシャワーの習慣があるためトイレットペーパーはなく、床も便座もびしょびしょ。ハンドシャワーが使えればラクなのだが、服を濡らさずに使う自信がなかったし、洗った部位をどうするのかわからなかったから(濡れたままパンツをはくのだろうか)、日本から持参したトイレットペーパーを使用。水流が弱すぎて便器に捨てても流れないので、隅に置いてある蓋つきバケツに入れる。共用シャワーは、蛇口をひねってバケツに水を溜め、手桶ですくって体にかけるスタイル。人がたくさん利用したあとは、お湯切れで水しか出ない。「ドミトリーあるあるだよね」なんて瞑想仲間に経験をひけらかしたものの、水のあまりの冷たさに鳥肌が立った。あきらめかけたが、朝、晩は15度程度ながら昼間は27、8度あるため、汗をかいている。震えながら水を浴びた。若い頃は筋肉が多くて代謝も良いからすぐに体温が戻ってきたが、体脂肪率が30%を超える中年の体は、冷蔵庫で冷やした豚塊肉の脂のように冷たいままだ。

 これだけ疲れていればぐっすり眠れるだろうと思ったが、これも誤算だった。かつては明るかろうがうるさかろうが爆睡できたのに、目が冴えてしまう。ホルモンバランスの影響か? とこんなところで更年期を自覚することになるなんて。2段ベッドの上段だったため、下の人が寝返りを打つたびにぐらぐらと揺れた。あっちからもこっちからも鳴り響くいびき。ごごごごごっ、ぐわっぐわっ、ぐぴーぐぴー。いびきで合唱ができそうなくらい、バリエーション豊富だ。大気汚染のせいか空気が乾燥しているせいか、そこここから空咳も聞こえてくる。これが風邪かコロナによる咳だったら、いつクラスターが起きてもおかしくない。耳栓がなかったのでティッシュを耳に詰めたが、ほとんど寝られずに朝を迎えた。
(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?