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インド瞑想記5:風邪を引き、自然からの支援を得る。

 ドミトリーに戻った翌日、熱が出た。のどの痛みと軽い咳、全身の激しい痛みもある。度重なる移動の疲れに、テントでの寝冷えから風邪を引いたのだろうと思ったが、コロナに罹患していたら厄介だ。プログラムリーダーに連絡したら、TMの日本代表理事と瞑想の先生方が、ドミトリーから徒歩数分のアーユルヴェーダクリニックに連れて行ってくれるという。受付の女性から、まずはクリニック近くのメディカルキャンプへ行き、コロナの検査をするように言われた。訪れるとそこはテント型野外病院で、映像作品で見る野戦病院のような雰囲気。大きなテントの中にベッドが10床ほど置かれている。医師はおらず、係員がいるだけだ。

 医師が来るまで待つことになり、コロナの検査を受けるのになぜ医師が必要なのか疑問に思ったが、体調がすぐれないせいか考えることが億劫で、何も言わずに従った。しばらく待っていると、代表が「瞑想しましょうか」と言う。
(えっ、瞑想? いま? ここで? 具合が悪いんですけど……)
 と思ったが、これにも従った。
 代表と先生ふたりと、4人で瞑想。グループで瞑想すると、ひとりのときより体験が深くなるといわれているが、それどころではない。5分ほど経ったろうか。目を開けたら、代表も先生方もとっくに瞑想をやめてうろうろしている。
(おいっ!)
 このままでは謎の待機時間が長引くだけだ。
「受付の女性、ここでコロナの検査をして陰性だったら戻ってきて、とおっしゃってましたよね?」
「そうですね。そう言ってましたね」と代表。
「検査は医師がいなくてもできると思うんですけど」
「医師がいなくてもできるんですか」と先生。
「できますよ」と別の先生。
(おいっ!)
 係員にコロナの検査をしたいと申し出ると、綿棒のようなもので鼻の穴をぐりぐり。1分も経たずに「ネガティブ」と言われた。そうだろうと思ってはいたが、やはりほっとする。「おぉ〜、よかった。よかった」と喜ぶ代表や先生方とともに、再びアーユルヴェーダクリニックへ。代表が受付で話し、戻ってきて言った。

「マノハ先生が今日はいないようなのだけれど、他の先生でいいですか。それとも、来るまで待ちますか」
 マノハ先生って誰? とにかく早くドミトリーに帰って寝たかった。「誰でもいいです」と答えようとしたところで、「おぉ〜」と歓声があがる。どこからともなく、マノハ先生と呼ばれる人物が現れたからだ。
「長谷川さんっ! サポートオブネイチャーですね!」と代表。

「support of nature(自然からの支援)」とは、TMを実践することで得られるといわれている効果のひとつだ。何かしようと考えたときに、たまたま手助けを得られて事がスムーズに運んだ経験は誰にでもあると思うが、そんな「運がいい」と感じる出来事が、どんどん起こるようになるという。(サポートオブネイチャーって、こういうことなの?)と思いながら、マノハ先生と向き合う。アーユルヴェーダでは、問診、視診、手首の脈に触れる脈診で診察する。マノハ先生がわたしの左手の脈に触れたとたん、ほーっと安心した。

 あとで瞑想仲間に聞いたところによると、マノハ・パラクルティ先生は世界的に有名なアーユルヴェーダの専門医で、来日した際は高額な受診料でもすぐに予約が埋まるのだとか。「だからサポートオブネイチャーだよ!」と言われたが、それはともかく、あの安心感は名医のなせる技だったのだろうと妙に納得。診察結果は「寝不足」で、アーユルヴェーダの薬、といってもサプリメントのようなやさしい働きのもの、を処方してくれた。診察料は無料だった。

 代表たちがマノハ先生と話しているあいだにひとりでドミトリーに戻ると、自然療法のセラピストをしているという熊本から来た瞑想者がたまたま居合わせ、手当てをしてくれた。足首や仙骨、頭蓋骨など体の一部に軽く手で触れるだけなのだが、その手がものすごく温かく、力がすーっと抜けていく。終わる頃には全身の激しい痛みが消えていた。
(つづく)

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