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インド瞑想記4:ついにテントへ!安住の地かと思いきや……。

 テントが予定数できあがっていないことは承知のうえで会場に来たわけだが、できあがるそばから早い者勝ちというのは想定外だった。毎晩、空きテントを探しに行くも、どこから情報を得ているのか人がすでに入っている。このままずっとドミトリーかなぁと思い始めた3日目(その日は大晦日だった)、ついに順番に割り当てられることになった。申し込んだひとり用ではなく、否応なしにふたり用だったため瞑想仲間とペアになる。プログラムを抜けてテントの様子を見に行き、出入り口のファスナーを開けて中に入った。設備はベッド、天板がない枠だけのテーブル、プラスチックの椅子、カビ臭いタンス。写真とは大違いだったし、広さもせいぜい10数平米といったところか。それでもドミトリーで轟くいびきの中、眠れない夜を過ごすよりはいいだろうと思いながら、何気なくひねった洗面台の蛇口から、水が出ない。もしや、とトイレも流してみたところ、流れない。シャワーはヘッドが壁付けタイプで、試すまでもなさそうだ。電気もつかなかった。

 テントを出て、周りを見回す。日本人グループのほかのテントも同じような状況のようだ。「電気をつけてください。水を流してください」をGoogle翻訳でヒンディー語に訳し、工事をしているインド人に携帯画面を見せる。振り子のように左右に首を振るからできないのかと思ったが、テント外れのブレーカーのようなものをいじり、電気をつけてくれた。水もなぜか流れるようになった。「サンキュー!」と言うと、「ブラザー、ワルキン、パルフェクト!」と返ってきた。どうやらこのあたりでは、男性をブラザー、女性をシスターというらしい。「おれたち、働いてる、完璧だよ」。

 その夜。ついに辿り着いたテントは月明かりに照らされ、外観だけならアラビアンナイトのよう。遅かったからシャワーは浴びずに顔を洗って寝ることにする。ドミトリーと違い、屋外とほぼ同じ気温になるため朝晩は寒いと聞いていた。持参した寝袋をベッドに置き、備え付けの毛布をかけ、パジャマの下に登山用のインナーを着込み、使い捨てカイロを腰に貼り付けた。

 静かだ。ゆるゆると睡魔がやってきて、いつの間にか眠りについた真夜中過ぎ、ぶるぶるぶるぶるっ、身体の震えで目が覚めた。上半身が寝袋から出てしまっている。寒いと脅されすぎて準備万端整えすぎ、寝ているあいだに暑くなってしまったのだろう。両手をしまい、鼻先まで寝袋にくるまったが、しばらく震えがおさまらなかった。

 翌朝、のどが痛いと思いながら、トイレで用を足した。水が出ない。洗面台の蛇口をひねったが、こちらも出ない。きのうは出たのに……。東京の瞑想会で数回会っただけの瞑想仲間に流していないトイレに入らせるのは申し訳なかったが、ごめんと謝り、身支度を整え、会場へ向かう。水が出ない旨をプログラムリーダーに伝えると、テントエリアの管理者に言うようにとの返答だった。管理者ってきのうのインド人たちのことだろう。「ブラザー・ワルキン・パルフェクト!」と言われて、また水が出たり出なかったりするのではなかろうか。同じことをくり返しても、意味がない。

 仕方なくドミトリーに戻ることにした。元のベッドは他の人が入っていたため、別の空きベッドを探した。今度は二段ベッドではなく、一段ベッドが見つかった。こうしてインドに来た理由のひとつだったテントには、ひと晩で別れを告げることになった。
(つづく)

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