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千葉の実家へ 10月5日

月曜日にin-kyoは臨時休業を頂いて、
老人介護福祉施設に入所している父と面会するために
千葉の実家へ帰省。
面会は土曜日か月曜日のみ。事前の予約は必須で、
でも1か月以上先の予約は入れられず。と、私のような仕事を
しているとなかなか予定を立てるのも難しく。
しかも面会といっても施設内でのリモートで…。

郡山駅から乗車した新幹線の中、何をどう考えても沈んでいく思考が
深みにはまらないように文庫本のページに没頭する。
パッと選んで手にした本は益田ミリさんの「小さいコトが気になります」
やっぱり気になっているじゃない…。が、本の中はいたって平和。やさしい世界。益田ミリさんの文章はホッとする。

ふと顔を上げると、車窓の外をビュンビュンと流れていく景色は、黄金色の面、緑の面、フカフカな土が見える茶色の面、緑がかった銀色の面は蕎麦畑だろうか、合間には家がポチポチと建っている。それらはペタペタと貼って出来上がった大きなちぎり絵の一枚のようにも見えて、自分はその紙の欠片のようにも思えてくる。上野駅にはあっという間に到着。
文庫本と秋の景色のお陰で自由な空想ができて少し救われた。

実家の母と一緒に食べるお昼ご飯用に、上野駅でお弁当とお茶時間のケーキを買う。こういう時はできるだけ美味しいものを食べた方がいい。お弁当は、茨城港で採れたという秋しらすのごはんがメインのもの。そしてケーキはシャインマスカットのタルト。こちらも秋だ。

実家から施設までは併設する病院行きの循環バスで向かう。今年に入って、やっと直接面会ができるようになったというのに、再びリモート面会になってしまって、それも私の気を重くさせていた。小さな面会室に通され、iPadに向かって呼びかける15分という限られた時間はなんだか空しい。
前回、直接面会したときよりも父の顔色は良かったけれど、会話はおろか反応もほぼない。付添をして下さっている介護士さんが、通訳するように父の耳元で母や私たちの言葉を伝えて下さっても目がうつろだ。
気づくと私たちは、介護士さんと会話しているようなかたちになってしまって、だんだん可笑しくなってくる。もちろん表には出ないように気をつけたけれど。そんな15分はとても長く感じられる。ああいうときは何をどう語りかけたら良いというのだろう。わからなくなって途中で黙り込んでしまった。そんな娘の隣りで、母は父に向ってあれこれと声をかけてあげている。「じゃぁね、また来るからね」と。

施設を出て空を見上げると秋の空。
三春に比べたら千葉はまだ気温が少し高いけれど、吹く風はカラリと乾いて気持ちがいい。半袖でちょうどいい爽やかな月曜の午後。でも私の頭の中は無風。

実家に戻ってコーヒーをいれて、シャインマスカットのタルトで
母とお茶時間。コーヒーもタルトも美味しい。
「お父さん、この間よりも顔色が良くて良かった~」
「マスカット美味しいねぇ」などと母。

うん。良かった。

ひとつひとつこうして「良かった」を見つけていけばいいのか。
結局それぐらいしかできないのかもしれない。
沈ませることなく、無理に浮き上がることもせず、
行きどころのない自分の気持ちは、今はただ水面に漂わせておくことにする。

10月5日(木)曇りのち雨 最高気温22℃ 最低気温14℃
千葉から戻った火曜日の夜。
庭の金木犀が芳しい香りで「お帰り~」と出迎えてくれた。