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【劇評244】猿之助の可能性はどこにあるのか。


 もう師走か。
 十二月大歌舞伎を観るために歌舞伎座に向かったのは、四日。このところ暖かい日が続いているから、寒さに怯える心配はない。

 注目の第一部は、『新版 伊達の十役』(補綴・演出石川耕士)。新版と小さく書かれていて、作は鶴屋南北となっているが、実際に上演されたのは、『伽羅先代萩』の「御殿」と「床下」。休憩を挟んで、『獨道五十三驛』の所作事を『写書東驛路』を『伽羅先代萩』の世界に仕立て直して『聞書東路不器用』としている。

 本来ならば、名題を二本立てて上演するのが筋だろうけれども、そこは歌舞伎である。
 お客様が看板を観て引き付けられ、劇場に足を運んで下さるのであれば、少しばかりの無理は通してしまうのが、この世界の習いだから、驚くことはない。

 おそらく猿之助の狙いは、「御殿」にある。
 政岡を勤めたい意欲にあふれた舞台だが、この思いを貫くならば「竹の間」「御殿」と出したほうが、実際、政岡の心情が観客に伝わり、演じていて気持ちが通るだろうと思う。
 大詰の『聞書東路不器用』をより短縮しても、『伽羅先代萩』を存分に演じてもらいたかった。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。