【劇評340】加納幸和にとって「赤姫」は、人生そのものだった。
赤姫という言葉がある。
歌舞伎好きには、何をいまさらといわれそうだけれど、役者には、得意の役柄があり、「仁にあっている」と呼ばれたりする。女方の役柄は、姫、娘方、世話女房、武家女房、女武道、傾城、遊女、芸者、悪婆、婆、変化などに分類される。
なかでも、姫は、女方の精華であり、主に時代物に登場するお嬢様で、恋に身をゆだねる役が多く、緋綸子または緋縮緬の着付なので「赤姫」と呼ばれることもある。鬘は、銀花櫛付の吹輪と決まっている。
花組芝居の加納幸和は、まさしく赤姫の役者である。
これまでの役者としての人生は、赤姫となりおおせることに費やされたのだと『レッド・コメディ-赤姫祀り-』(秋之桜子脚本 加納幸和構成・演出)を観て、改めて思い知らされた。
幕開きから古怪な芝居仕立てである。赤姫姿の老いた女方、五代目柊木魏嫗(加納)は、岸野与三郎(北沢洋)と『中将姫古跡の松』雪責めの場を演じている。五代目中村歌右衛門、六代目歌右衛門が演じた中将姫を、加納が勤めている。
芝居関係のもつれから、与三郎が魏嫗に硫酸をかけようとするところを、かばった桃田(押田健史)が顔にうけてケロイド状にただれる。
この「事件」が前提となって、『レッド・コメディ』は、時代を昭和十二年、場所を東新聞社主田岡(小林大介)の雨漏りのする邸に移して愛憎の劇が進んで行く。
今は田岡に引き取られ、狂気の淵に沈んでいる魏嫗は、尽くし抜く桃田をよそに、小説家志望の川野和夫(武市佳久)の若さに恋着する。
一方、流行小説家の手塚修造(桂憲一)に呼び集められた作家の乾智也(丸山敬之)と編集者の西村洋佑(八代進一)が、かつて愛情関係にあった田岡と手塚の愛憎へと巻き込まれていく。
これからこの舞台をご覧になる予定の方には、以降は観劇後に読むことをおすすめします。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。