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収穫期を迎えた創作活動は、この激務によってさまたげられる。(久保田万太郎、あるいは悪漢の涙 第三十九回)

7 芥川龍之介

 昭和六年八月、四一歳の万太郎は、東京中央放送局(NHKの前身)文藝課長に就任。収穫期を迎えた創作活動は、この激務によってさまたげられることになる。
 
 小説家高見順との「対談現代文壇史」(中央公論社 昭和三二年)で、東京中央放送局に入った事情をみずから語っている。
 初出は、昭和三十一年七月号の「文藝」。六十六歳となった万太郎は、十八歳年下の高見を相手にざっくばらんな調子で過去を回想する。

 ええ、そのうち、嘱託、クビになったんです。
 そうしたら、改めて職員にならないかと、矢部謙次郎さんていう人が来て言って、「ぼくはダメです」って言ったらね、水上君を引合いに出して、「水上君はいま保険会社で仕事をしているでしょ、あれから考えりゃ、あなた」って。
 ほんと言うとね、ぼくはその時、家庭に不愉快なことがあって、うちにいるのがいやだった。すこしでもうちを離れたかったから、ぼくは勤めをしたんでしょうね。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。