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【劇評253】歌六に替わった『河内山』。菊五郎、時蔵の息があう『芝浜革財布』

 仁左衛門休演のため歌六に替わった『河内山』。さすがにまた、役者が河内山の身体に馴染んでいるとはいいがたいが、吉右衛門とも仁左衛門とも異なる味があって面白く見た。

 この芝居は、「玄関先」の「ばかめえ」と言い捨てる爽快感ばかりが忠もされがちだ、歌六の河内山は、家老高木小左衛門(坂東亀蔵)と北村大膳(吉之丞)とのやりとりになって、自在になる。

 ただし、眼目はやはり、一国の大名松江公(鴈治郎)と河内山が、裂帛の間合いで戦う「書院」にある。序幕の「上州屋」では、ぎこちなく見えた歌六が、この言葉の闘いでは、急に性根の確かさを見せる。「上州屋」は純然たる世話物だが、「書院」は時代物の要素が入るからだろう。歌六のこれまでの鍛錬と藝が、時代がかってくると、がぜん生きてくる。

 「上州屋」の権十郎の和泉屋清兵衛は、神妙。後家おまきは、秀調。やはりこの役者は、本来の女方がいい。「書院」鴈治郎は、気迫を見せるが、「玄関先」では、芝居を作りすぎている。千之助は浪路を、哀れで線の細い腰元としている。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。