【劇評328】鶴松の『野崎村』と勘九郎、七之助の『籠釣瓶』。一門の団結を見せ、よい勘三郎十三回忌追善となった。
大間のやや下手側、追善興行のときは、思い出の写真が飾られる。今月の歌舞伎座は、十八世中村勘三郎十三回忌追善で、写真の前には、お香がたかれていた。手を合わせる。
昼の部は『野崎村』。七之助は久松に回って、鶴松がお光に挑む。児太郎は、お染を勤める。
鶴松のお光は、特に前半がいい。出から実に初々しい。久松との祝言を心待ちにして、気もそぞろな心の内がよく見て取れる。お染が出てから、嫉妬心にかられて、木戸から閉め出してからも、恥じらう乙女で一貫している。 底意地の悪さはなく、久松、久作(彌十郎)を気づかいつつも、ようやく手にした幸せを手放したくない健気さがある。幸福を守るために、懸命になっているので、観客をつかんで離さない。
こうしたやりかたは、十八代目勘三郎が実に巧みだった。鶴松は、若い娘の心情をよく勘三郎から学んでいて、愛嬌がある。初役としては出色の出来だろうと思う。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。