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【劇評347】イキウメの『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』は、鋭利な刃物のように人間を切り裂く

 白洲を囲むように、主舞台と回廊が囲んでいる。黒い柱が立ちならび、古民家を思わせる佇まいである。砂をしきつめた中庭の上手には、さほど大きくない紅梅があり、下手には洞らしきものがしつらえられている。その間には、中空から絶え間なく一筋の砂が降り注いでいる。

 イキウメの『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』(前川知大作・演出)は、八雲(ラフカディオ・ハーン)の物語を原作に、五編のオムニバスとして前川が仕立て直した快作である。
 明治時代に活躍したアイルランド系の作家・新聞記者・随筆家である。なかでも日本の民話から取材した怪談にすぐれ、小説集『怪談』や『骨董』を愛好する読書人が少なくない。文体は平明にして、簡潔。前川はこの文体を生かして、語り部を次々と変えていく構成を取った。

オムニバスが数珠のように連なる
 「常識」「破られた約束」「茶碗の中」「お貞の話」「宿世の恋」がその五編だけれど、まずは、ふたりの旅行者(安井順平、盛隆二)が、古びた旅館の女将(松岡依都美)に迎え入れられる。逗留している小説家の黒澤(浜田信也)との出会いから、物語は動き出していく。それぞれの物語の登場人物を役者たちが演じ分けていく趣向である。

 まぎれもない現在から、謎に包まれた過去へと連れ去っていく。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。