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【劇評174】幸四郎の冷酷と猿之助の妄執。怨嗟にあふれる世界を撃つ舞踊劇「かさね」

 四部制は、間の消毒の時間を考えると、ひとつの部の上演時間に制約がある。また、半通しのような上演形態もむずかしいだろうと思う。

 観客の満足度を考えると、ドラマ性のある舞踊劇で、できれば道具の仕込みに手間がかからない狂言がふさわしいという結論に達する。

 九月も舞踊劇が『かさね』、『鷺娘』と二本舞踊劇がでたのは、こうした興行の上の都合もあってのことだろう。先月の猿之助、七之助による『吉野山』は、万事が派手で、観客の拍手を集めていた。

 さて、第三部は、幸四郎の与右衛門、猿之助のかさねによる『色彩間苅豆』「かさね」。
 四世鶴屋南北による怪異な舞踊劇だが、幸四郎、猿之助、ともに仁といい、柄といいこの役にふさわしく満足感がある。

 与右衛門は、『東海道四谷怪談』の伊右衛門とも通じる色悪で、幸四郎はこうした冷酷さで女を狂わせる男を勤めて成果をあげてきた。
 今回も、左目が潰れ、顔が爛れてしまったかさねを見て、気持ちを寄せるどころか、鏡を突きつける件りにためらいがない。人の心の怖ろしさ、身勝手さが迫ってくる。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。