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勘九郎と七之助は、大きな壁をよく意識していた。☆☆★★★

 新春大歌舞伎夜の部、ここでも白鸚がすばらしい芝居を見せています。

『義経腰越状 五斗三番叟』は、頻繁に出る演目ではありません。ですが、亀井六郎(猿之助)が、義経(芝翫)を諫める件り。
 そして、目貫師の五斗兵衛(白鸚)が、錦戸太郎(錦吾)伊達次郎(男女蔵)に酔い潰される件り。
 竹田奴を相手に、正気にもどった五斗兵衛が三番叟の舞を見せる件りとヴァラエティに富んでいます。

 なにより白鸚の酔いっぷりが自在です。
『棒しばり』は、ふたりがたっぷりと酒蔵で酒をくらって酔っていく過程を面白く見せる舞踊劇です。『魚屋宗五郎』も、禁酒していた大酒飲みが一口飲んだために止められなくなり、酒乱となる世話物です。このふたつは人気演目ですから、どうしても「酔いっぷり」は、このレファレンスが参照されます。

 「五斗三番叟」は、錦戸太郎と伊達次郎、ふたりの計略を知りつつも、酒に呑まれていきます。

 白鸚は、酒飲みの描写を誇張すれば、観客に受けるのをよく知っています。ですが、控えめに酔っていく過程を進めていきます。

 やがて、もう止められないとなってからは、リアリズムではなくなります。ここには誇張ではなく、飛躍があります。

 なんとも切れ味がよく、陶然とした気分が竹田奴とのからみまで持続していきます。
 白鸚は、酒飲みの描写に腐心するだけではなく、理性と酔いがあやういバランスをとっているさまを、理屈ではなく、飛躍で見せているのでしょう。

 歌六の忠臣の泉三郎が篤実です。全体に配役のバランスが取れていて、一時間あまりの芝居を観ていて飽きません。

 次は猿之助と團子の『連獅子』です。石橋物といわれる一連の踊りのなかでも人気があるのは、現実の親子関係や血縁関係をだぶらせる仕組みがあるからです。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。