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【劇評179】三島由紀夫の情熱と冷血。麻実れいの『班女』をめぐって。

 冷ややかな情熱という言葉がある。

 もちろん形容矛盾ではあるが、どうもある階級の人々には、情熱のなかに、度しがたいばかりの冷血が潜んでいるようで、三島文学の主題は、この情熱と冷血をいかに作品に共存させるかに腐心していた。

 もっとも、小説よりも戯曲が有利なのは、この情熱と冷血を体現する俳優を配役すれば、おおよその仕事が済む。
 
それは、少し乱暴に言いかえれば、様式的な演技に終始しつつも、ほの暗い情熱の炎を隠している役者。あるいは、情熱的であることは、観客にとって空疎に受け止められる不思議を会得している役者ともいえるだろう。

 三島由紀夫作、熊林弘高演出の『班女』は、このような三島と俳優の二重性を残酷なまでに映し出している。

 冒頭から絵描きの実子(麻実れい)にオーケストラピットで、新聞を読ませている。駅頭で恋人を待つ花子(橋本愛)の記事がのった新聞である。はじめの実子と花子のやりとりは不実であり、花の虚を現している。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。